2013年12月号 [Vol.24 No.9] 通巻第277号 201312_277007
【最近の研究成果】 長江・黄河流域における水資源の不均衡及び灌漑と生態系劣化の関連性の評価 〜水資源の偏在性と生態系劣化の関係から見えてくるものは何か?〜
中国の北部(黄河流域)と南部(長江流域)での水文気象の多様性は食料需要の増大・利用可能な水資源の減少・洪水リスクの増加等の関係を更に複雑にする。環境資源の不均衡を是正するための2大国家プロジェクトである三峡ダム及び南水北調[1]が全ての水問題を解決する保証はなく、社会経済及び環境影響を考慮した最適な水輸送量を評価するためにも高精度な水文生態系モデルが必要である。本研究では、灌漑・河道網・ダム操作・水輸送等の複雑なサブシステムを結合したプロセスベースの水文生態系モデルNICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)(図1)・衛星画像解析・現地観測データを併用することによって、両流域における水資源の不均衡とそれに伴う生態系劣化[2]の関連性について評価した。また、両プロジェクトの予測シミュレーションを行うことによって、流域の水文生態系に及ぼす影響及び水ストレス・作物生産量・生態系劣化のジレンマが解決するかどうかを検討した(図2)。この統合システムは水文学及び生物地球化学循環の観点からの複雑なメカニズムの再検討のみならず、世界で多発している水資源の不均衡に対する効果的な越境問題の解決に対しても役立つと思われる。

図1水文生態系モデルNICEの概念図。様々な植生から構成される自然地モデル・主要作物や灌漑を含む農業生産モデル・管路網や都市構造物を含む都市モデル・ダム操作や水輸送モデル等、様々なサブモデルから構成される。NICEの詳細については、下記論文情報の中の引用文献、及びCGERスーパーコンピュータモノグラフ[3]を参照

図2三峡ダム及び南水北調に伴う (a) ハンヨウ湖の水位変化、及び (b) 湖周辺の地下水位変化の予測シミュレーション結果。人為的影響によって表面流のみならず地下水流も含めた水循環全体が大きく改変されることを示している
脚注
- 南水北調とは、中国南部の水を北京などの大都市の多い北部に送り慢性的な水不足を解消するプロジェクトのこと。
- ここでの生態系劣化は、国連ミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment: MA)における供給・調整・文化的・基盤サービスの劣化のことを示す。
- Nakayama T.: Development of process-based NICE model and simulation of ecosystem dynamics in the catchment of East Asia (Part IV). CGER’s Supercomputer Monograph Report, 20, NIES, 2014年1月出版予定。
本研究の論文情報
- Evaluation of uneven water resource and relation between anthropogenic water withdrawal and ecosystem degradation in Changjiang and Yellow River basins
- 著者: Nakayama T., Shankman D.
- 掲載誌: Hydrol. Process., (2013) DOI: 10.1002/hyp.9835