ココが知りたい温暖化

Q22もっと知ろう! 温暖化

!本稿に記載の内容は2013年10月時点での情報です

新聞やテレビで温暖化のことを目にする機会は以前に比べて減ったように感じます。温暖化は確かに大事な問題なのだと思いますが、一時的に騒いだり、また報道が目に見えて減ってしまうのは、流行現象だと思われても仕方がないのではないでしょうか。

青柳みどり

青柳みどり 社会環境システム研究領域 環境計画研究室 主任研究員(現 社会環境システム研究センター 環境計画研究室長)

マスメディアは、日々の中で最新の情報を伝えることを重視する傾向にあるので、大事な問題であっても、報道が減ってしまうことはよくありますね。しかし、報道されていることだけが世の中で重要な問題というわけではありません。日々の継続的な取り組みが必要なことは多くあり、温暖化もそのひとつです。温暖化対策を進めるためには、産業部門だけでなく家庭部門、つまり国民一人ひとりの行動が必要です。新聞やテレビでの報道が減って、「騒ぎ」は収まったように見えますが、家庭部門からの温室効果ガスの排出の増加は止まっていません。皆さんに温暖化問題を知ってもらい、対策行動をとっていただくには、温暖化の原因・影響・対策などについてさまざまな手段でお知らせすることが必要です。それは、温暖化問題について、誤解や知られていないことがとても多いためです。また、このようなキャンペーンを続けることによって、一時の流行では終わらせないようにすることができるでしょう。

温暖化対策の進展

日本国内のいくつかの自治体では2020年あるいは2030年を中期目標として、二酸化炭素(CO2)排出量を現在(または1990年、2005年)のレベルから大幅な削減をする計画を策定(もしくは既に策定した計画の改定作業を)しています。これはEU諸国をはじめ、世界的な動きでもあります。これらの計画を実現するためには、産業部門だけでなく家庭部門、つまり国民一人ひとりの行動が必要となっています[注1]。国民一人ひとりが有効な対策行動をとれるようにするためには、温暖化の原因・影響・対策などについて知ってもらうことが必要です。

地球温暖化問題の認知はあがっている

筆者らが実施した無作為抽出による全国成人を対象とした世論調査[注2]では、「最近、地球上の気候が変化してきている」と感じる人々は95%(2008年)、90%(2013年)にも達していますが、その原因や影響については、誤解している人が実に多いのが現状であることがわかりました。たとえば、「大気汚染」「オゾン層の破壊」や、「石油や石炭が大気に放出されること」などが原因と思っている人がとても多いのです(図1)[注3]とはいえ、「地球が温暖化している」ことが原因と考える人は、2008年には4.5%であったのが、2013年には39.3%に上昇しています。

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図1地球上の気候が変化してきている原因として考えるもの

注)このデータは2008年1月、2013年2月筆者作成(地球環境研究総合推進費H-052、1ZE-1202で実施)。2008年は、全国2000名の成人男女を対象とした専門調査員による個人面接調査の結果。有効回答数1301名。2013年はサンプル3000名で有効回答数1121名(有効回収率37.4%)。専門調査員が、選択肢の書いてあるリストを示して設問と選択肢を読み上げ、回答者にリストの中から答えてもらうという方法をとった。

温暖化のメカニズムの理解

どんな間違いが多いのかについて、一般の人に座談会形式で聞いた時[注4]の結果を挙げましょう。図1で、地球上の気候が変化してきている原因が「オゾン層の破壊」とする人が50.1%(2008年)、45.1%(2013年)にも上っています。これについては、「フロンガスによってオゾン層が破壊されると、地球上に到達する太陽光が強く(多く)なって、地球が今まで以上に暖まる」ということを原因としてあげる人が男女・年代を問わず多くみられました。しかし、現在の知見によれば、その効果はとても小さくて、温暖化の傾向を説明できるほどではないのです[注5]

温暖化対策についての理解

温暖化対策についても同様に知られていないことが多くあります。国際交渉を含め温暖化対策についてのさまざまな組織や約束事に関することは非常に断片的にしか報道されてきませんでした。たとえば、京都議定書や京都議定書に関する議論からのアメリカの離脱といったトピック的に日本国内で大きく報道された事実についての認知度は高いのですが、京都議定書の内容やその後の日本国内で整備された温暖化防止に関する法律、削減目標値、東日本大震災の影響(たとえば、原子力発電所の停止による影響)のことなどについての認知度は低いのです。また、一連の温暖化についての科学的なとりまとめ役となっている気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の存在やその役割、成果などについてもほとんど知られていません[注6]

部門別の温室効果ガス排出量割合についても同様です。筆者らの座談会形式での聞き取りでは、「温暖化の原因のほとんどは企業、工場にあるのではないか。一般の家庭で対策をする必要があるのだろうか」との質問がありました。確かに、部門別のCO2排出量割合をみると、エネルギー産業や製造業が圧倒的に多いのですが、家庭部門からの排出も年々増加しています[注7]。さらに、家庭部門での需要の変化が製造業の対策に大きな影響を与えるということもあります。家庭部門で環境を考えた購買行動をすることにより、今以上に企業も環境を配慮した製品を生産するようになり、社会全体でのCO2排出削減につながります[注8]

「流行ごと」に終わらせないために

今の私たちの生活をそのまま続けていったらどうなるでしょうか。答えは、「将来の人たちに限られた選択肢しか残せない可能性が高くなります」[注9]ということになります。ならば、私たちのニーズを満たしながら、将来の人たちにも必要なニーズを満たす可能性を残すにはどうしたらいいのでしょうか。その一つの方法は、私たちが今の生活を見直して「より効率的な社会」を築いていくことです。具体的には、地域での住宅や各種施設の配置や移動手段のデザイン、住宅における基本設備のエネルギー効率の上昇などがあります[注10]

しかし、それ以前に大きな問題もあります。一般の人々に座談会形式で話を聞いたときに、意外なことがわかりました。「温暖化について興味をもって調べようとするほど、温暖化否定の話に突き当たる」ということです。書店では、「温暖化などは嘘だ」という本が、来店した人が手に取りやすい位置に並べられています。図書館でも検索するとこのような本が多く出てきます。インターネットで調べると、さまざまな人がお互いに矛盾する事柄を書き込んでいます。つまり、興味をもって調べようとした人が、最新の科学的見解に到達しにくい状況になっているのです。最新の科学的知見について知るための手がかりを知っておく必要があるのです。その手がかりは、常に新聞記事などで最新の国際的動向や科学的知見についての知見を確認しておくこと、図書館や書店で手にした本ができるだけ新しい知見を取り扱っているのかを確認して、できるだけ原典(おおもとの本や論文、インターネットのサイト)を確認し、孫引きなどで終わらせないこと、などです。

現在、環境省では「Fun to Share」のような国民運動を行っていますが、このようなキャンペーンを続けることによって、「温暖化」についての関心を一時の流行に終わらせないことが可能でしょう。同時に、温暖化問題についての科学を解明する研究者は自分たちの研究成果をどう世の中に伝えていくのか、きちんと戦略をたてて臨む必要があります。「流行りごと」としてとらえられるようなアプローチが果たして有効なのか、再考の余地はあるでしょう。

注1
これらのもととなる世界全体および日本全体の目標設定に関しては、ココが知りたい地球温暖化「2050年までに排出量半減とは?」「二酸化炭素の削減と生活の質」などをご参照ください。
注2
筆者が課題代表者として実施した環境省による地球環境研究総合推進費(H-052、および1ZE1202)の2008年1月、2013年2月の成果です。
注3
同上の2008年1月、2013年2月の調査結果です。全国20歳以上の無作為抽出した成人男女を対象に専門の調査員による個人面接調査にて実施しました。2008年はサンプル2000名で有効回答数1301名(有効回答率65.1%)、2013年はサンプル3000名で有効回答数1121名(有効回収率37.4%)です。
注4
筆者が課題代表者の(独)科学技術振興機構社会技術開発センターによる研究開発プロジェクト「気候変動問題についての市民の理解と対応についての実証的研究」にて実施しました。
注5
ココが知りたい地球温暖化「オゾン層破壊が温暖化の原因?」をご参照ください。
注6
ココが知りたい地球温暖化「IPCC報告書とは?」「温暖化対策の緊急性」「途上国の温暖化対策は?」「排出削減目標を達成できない場合」「排出量取引成功のカギと適切な国内対策」「国際会議—日本の主張は誰が決める?」等をご参照ください。
注7
環境省サイトの「地球温暖化国内対策」(http://www.env.go.jp/earth/index.html#ondanka)の各項をご参照ください。
注8
現在、二酸化炭素排出量の少ない製品であることを示す環境ラベルなどで消費者の選択を促すような仕組みが考えられており、イギリスなどでは大手小売業で実施されはじめました。日本でも検討が開始されています。
注9
これは、1987年におけるWCED(World Commission for Environment and Development: 国連の環境と開発に関する世界委員会)の最終報告書(「地球の未来を守るために(Our Common Future)」、いわゆる「ブルントラント報告」)の「持続可能性」についての定義を裏返した表現です。ブルントラント報告においては、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と定義されています。
注10
ココが知りたい地球温暖化「車のかしこい使い方」「二酸化炭素の削減と生活の質」の項や、財団法人省エネルギーセンターのサイト(http://www.eccj.or.jp/)、全国地球温暖化防止活動推進センターのサイト(http://www.jccca.org/)等をご参照ください。

さらにくわしく知りたい人のために

  • スペンサー・R・ワート著, 増田耕一, 熊井ひろ美共訳 (2005) 温暖化の〈発見〉とは何か. みすず書房.
  • 環境と開発に関する世界委員会/環境庁訳, 大来佐武郎監修 (1987) 地球の未来を守るために. 福武書店. 【ブルントラント報告『Our Common Future』の翻訳】