NEWS2021年10月号 Vol. 32 No. 7(通巻371号)

夏の大公開 「みんなで実験、ラボ訪問環境を考える夏休みオンライン体験」を開催しました(2) つくば/東京/北海道3元生中継ラボツアー

7月17日(土)国立環境研究所(以下、国環研)は夏の大公開をオンラインで開催しました。地球システム領域地球環境研究センターでは、「100人で海水酸性化実験」「つくば/東京/北海道3元生中継ラボツアー」「どう思う?なにができる?みんなで話そう、地球温暖化のほんとうのこと」「CGER virtual lab tour: A sneak peek into our global environmental monitoring activities」を企画しました。

本稿では、「つくば/東京/北海道3元生中継ラボツアー」の様子を担当者から簡単に報告いたします。このツアーには、事前応募から抽選で選ばれた13名とトークコーナー「根本美緒さんが夏の大公開をご案内!」のゲストであるフリーアナウンサーの根本美緒さんがZoomで参加しました。また、ツアーはYoutubeで配信されました。

目次

1. 温室効果ガス分析室を紹介

町田敏暢(大気・海洋モニタリング推進室長)

2021年の夏の大公開でのラボツアーはオンラインの“生中継”で実施することになりました。私が紹介する温室効果ガスの分析室は研究所の見学・視察対応で何度も説明の経験があったことから、特に気負うことなくこの担当をお引き受けしました・・この時は。

紹介する内容は、せっかく「潜入」するのですから、視聴者が普段は触れられないものをできるだけリアルに見せることを心がけました。例えば、分析室の測定装置はダミーの空気を自動で分析する設定にしておき、バルブの切り替え音や真空ポンプの音が聞こえるようにしたり、除湿用のドライアイスがエタノール溶媒の中から泡を出し続けている様子をカメラで捉えたりしました。また、空気を採取するガラス容器をナビゲーターに持ってもらい、「意外と軽い」と第3者的な感想を発していただいたりしました。

民間航空機による観測の紹介では、模型の飛行機にカメラを最大限近づけて観測装置の搭載場所を説明したところ、映し出された映像は肉眼で見るよりはるかに迫力があり、機体内部をイメージしやすい画像として届けることができました(写真1)。

写真1 至近距離から観測機器や模型を撮影。

しかしながら、“生中継”の難しさは想像以上でした。普段の対面での見学対応でしたら説明を間違えた際はすぐに言い直しができますし、何より聞く人の反応がわかりますので、補足説明や説明の割愛もできます。また録画中継の場合は、聞く人の反応は見えないものの、言い間違えても撮り直しができます。これに対して生中継は、聞く人も見えず、失敗してもやり直しが効かないということを後になって気付きました。

結局、本番までに広報担当の方たちには4度もリハーサルをしていただいたり、通勤途中に台詞をブツブツしゃべったり、20分ほどの中継を行うためにその何倍もの時間を準備に費やすことになりました。テレビ等の映像の制作に要する苦労のほんの一端を感じ取れた気がします。

とは言え、間違えることがあってもそれも「リアル」であり、そこで親近感を感じてもらうことで伝わりやすくなるとも思われ、最後は「間違いも歓迎」のような気持ちで本番を迎えることができました。不安がいっぱいで始まった生中継イベントでしたが、よい経験をさせていただきました。

2. GOSATシリーズの紹介とクロロフィル蛍光実験

野田響(衛星観測研究室 主任研究員)

つくばからの中継の2番目として、人工衛星GOSAT(愛称「いぶき」)とGOSAT-2(「いぶき2号」)のこれまでの観測成果の紹介とクロロフィル蛍光実験を行いました。GOSATは大気中のCO2だけでなくメタンも観測していますが、今回は特にCO2に焦点を当て、2009年のGOSAT打ち上げから現在までの12年間の観測成果を紹介しました。さらに、GOSATとGOSAT-2が観測している「太陽光励起クロロフィル蛍光(SIF)」についても紹介しました。

クロロフィル蛍光は、植物の光合成過程で発せられる微弱な光で、SIFは太陽光の下での蛍光を指します。その強弱は植生の光合成活性と密に関係します。クロロフィル蛍光自体を知らない方も多いため、実験で植物がLEDライトの下で発光する様子を赤外線カメラと光学フィルタを使って見せました。この実験については、多くのイベントや出前授業などで行っており、別の報告記事に詳しく書いていますのでご参照ください(森野勇・野田響「北海道の陸別中学校で出前授業を行いました」地球環境研究センターニュース2018年3月号)。

この実験では、光合成する植物が蛍光を発することを印象づけるため、2つの植物の鉢を並べて、うち片方のみが蛍光を出す様子を見せ、発光している方が本物、発光していないのは精巧な偽物の植物だったという種明かしをしました。対面のイベントでは、ここでどよめきが起こるのですが、今回は反応が薄かったように感じました。対面とオンラインとでは、効果的な実験の見せ方は違うようで、今後の課題としたいと思います。

質問時間には、実験に使った光学フィルタについて小学生の男の子から質問をされたほか、英語ツアーでは海洋プランクトンのクロロフィル蛍光についての質問が出るなど鋭い専門的な質問が飛び出し、すっかりたじたじとなりました。

写真2 ラボツアーで説明する様子。中継はGOSAT計算機室の前の廊下で行いました。前の中継を担当した町田さんの実験室から近く、スムーズな流れになったかと思います。

3. スカイツリーにおける温室効果ガス観測 

寺尾有希夫(炭素循環研究室 主任研究員)
遠嶋康徳(動態化学研究室長)

今年の夏の大公開では、東京スカイツリーの地上250m付近のフロアから、寺尾が説明者、遠嶋がカメラマンとなり、都市大気の温室効果ガス観測を紹介する実況生中継を準備していました。しかし、7月12日から東京都に4度目の緊急事態宣言が発令されたため、急遽スカイツリーからの中継は中止としました。代わりに本番では、事前に撮影したビデオ映像を見ながらの説明となりました。

当初の生中継でも、スカイツリーの地上250m付近の外回りの様子は、事前撮影したビデオで紹介する予定となっていました。これは、スカイツリーの塔体外で撮影をするためには十分な装備が必要で、天候にも左右されるためです。また、その際に内部を撮影したビデオもあったので、それを編集して観測室内部の紹介ビデオとして用いました。スカイツリーからの生中継がなく残念に思われた方もいらしたと思いますが、我々の観測の様子については全て出し切っております。スカイツリー塔体内外での事前撮影では、東武タワースカイツリー株式会社の大和雅幸さんと堀本恭平さんにお世話になりました。また、撮影と編集は広報室の志賀薫さんが行ってくれました。

事前の打合せでは、最初にスカイツリーで実施している研究の概略説明、外回りのビデオ、観測室内部の説明ビデオ、Zoom参加者からの質問という流れで実施しようということになりました。リハーサルは一切行わず、寺尾から遠嶋への具体的な指示は「適当に茶々を入れて」というもので、あとは実際の進行具合を見ながら臨機応変に対応するというものでした。説明したい内容は概ねお伝えできたかと思いますが、英語版の方では質問の時間がなくなってしまったことが残念でした。町田さんの実験室紹介の最後の質問コーナーで、Zoom参加者の一人がチャットに質問を書き込んだのですが(「N2Oはどのようなときに増加するのですか?」)、それについてビデオ映像を切り替える合間に回答できたのはよかったと思いました(写真3)。

 
写真3 スカイツリー観測の前にN2O収支の説明をする遠嶋(左)と寺尾(右)

4. 陸域モニタリングの紹介

高橋善幸(陸域モニタリング推進室長)
梁乃申(炭素循環研究室長)

例年、大人から子どもまで広い年齢層の一般市民を対象に、陸域生態系の温室効果ガス交換プロセスを多様な実験デモを中心に紹介してきました。本年度は新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、対面での研究紹介が困難となったため、観測現場の最前線の様子を動画とリアルタイムの配信により紹介することとしました。今回は国環研と北海道大学で共同研究を実施している北海道大学北方生物圏フィールド科学センター天塩研究林および研究林内の天塩CC-LaG(Carbon Cycle and Larch Growth experiment)サイトでの観測現場を紹介しました。

前半は、天塩研究林庁舎近くの林内に設置した土壌からの温暖化効果ガス排出・吸収観測サイトから、温暖化操作実験の様子をリアルタイムで中継しました。今回は環境省環境研究総合推進費課題2-2006の現地共同調査と検討会のため、現地に滞在していた他機関の研究者も研究紹介に参加しました。

まず、炭素循環研究室の梁と天塩研究林長である北海道大学の高木准教授が土壌温暖化実験の概要とその意義を紹介したのち、環境研究総合推進費2-2006課題の研究に参加している日本原子力研究開発機構の小嵐研究主幹と安藤研究主幹より放射性炭素の測定による土壌有機物分解速度の解析や、国際農林水産業研究センターの近藤主任研究員による遺伝子解析による土壌微生物への温暖化影響といった最先端の研究の内容を説明しました(写真4)。実際の観測現場で稼働中の自動開閉チャンバー(土壌と大気のガス交換を測定するシステム)や使用するサンプリング機材を画面に映しながら臨場感のあるライブ配信となりました(写真5)。

写真4 土壌有機炭素分解に関わる温暖化操作実験を説明する様子。
写真5 天塩の温暖化実験サイトからのライブ中継が全国からの参加者に配信されました。

後半は、天塩CC-LaGサイトにおけるタワー観測の様子を事前に現地で収録した動画を用いて紹介しました。動画の収録は、観測係の小野係長、陸域モニタリング推進室の高橋と高木准教授が行いました(写真6)。

このサイトでは2003年の冬に針広混交林を伐採し、同年秋にカラマツを植林したのち炭素収支の推移などの長期モニタリングを行っています。動画ではタワー上部での作業風景、上空から見た森林の様子などを、ドローンを用いて撮影した動画で紹介しました。上空30m程度の高さから見るサイトの情景は普段では見ることのできないもので、視聴者にもこの最北端の実験フィールドである天塩研究林のスケールの大きさをあらためて実感してもらえたと思います。

写真6 天塩CC-LaGサイトのタワー最上階での動画収録風景。

※つくば/東京/北海道3元生中継ラボツアーは、NIES公式Youtubeチャンネルからご視聴いただけます(https://www.youtube.com/watch?v=dGYRs4qPevY)。