2020年4月号 [Vol.31 No.1] 通巻第352号 202004_352006

【最近の研究成果】 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)によるクロロフィル蛍光の観測 〜NASAの衛星による観測結果との相互比較〜

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 特別研究員 押尾晴樹
  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 吉田幸生松永恒雄

温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、主要な温室効果ガスである二酸化炭素やメタンの動態を捉えることを主目的とした衛星で、2009年に打ち上げられて現在も運用中である。「いぶき」に搭載された温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS、詳細は[1]を参照)は高い分光分解能を有しており、その観測データは主目的の温室効果ガスだけでなく、地上植生が発するクロロフィル蛍光[2]を捉えることにも役立つことが示されてきた。しかしながら、衛星観測と地上観測では空間スケールが大きく異なるなどの理由により、衛星観測データから導出された蛍光の検証はほとんど行われていない。そこで、「いぶき」による蛍光とNASAの温室効果ガス観測衛星OCO-2による蛍光の相互比較を行った。このような衛星間比較では、観測点の位置、観測視野の大きさ、観測方向、観測時刻など、衛星間で異なる多くの項目を考慮する必要がある。本研究では様々な空間スケール(観測視野スケール、地域スケール、全球スケール)で詳細な比較を行い、「いぶき」による蛍光とOCO-2による蛍光の間に高い一貫性があることを明らかにした。現在は、複数の衛星の蛍光データを統合して時空間的に抜けの少ないデータセットを作ろうとする動きが見られ[3]、本研究はそのような取り組みに大きく貢献すると考えられる。

 上段:「いぶき」による地上植生のクロロフィル蛍光(Solar-Induced chlorophyll Fluorescence: SIF)の全球分布(2.5度グリッド)、下段:「いぶき」とOCO-2の差(蛍光の差と観測時刻の差、5度 × 10度グリッド)。2015年7月のデータの平均値を示している。下段では、土地被覆や植生の量などの条件をそろえた「いぶき」とOCO-2のデータを使用している。観測時刻差が小さい北緯30度のあたりや、観測時刻差があっても植生が少ない南半球の地域(オーストラリアやアフリカ南部)では、蛍光の差が小さいことが「いぶき」とOCO-2の一貫性を示している。北半球の高緯度地域では観測時刻差が大きく、蛍光の差も見られ、植生の光合成活性の時間変化を捉えている可能性がある

脚注

  1. 長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [4] 避けては通れない雲とエアロゾル:宇宙から温室効果ガス濃度を推定するTANSO-FTS、地球環境研究センターニュース 2012年12月号
  2. クロロフィル蛍光とは植物が光合成を行う際に発する微弱な光である。植物生理生態学の分野では、以前から主に室内実験で光合成系の状態を測定するために利用されてきた。2011年にC. FrankenbergらやJ. Joinerらにより、GOSATの観測データからクロロフィル蛍光を導出できることが示されて以来、クロロフィル蛍光の衛星観測は陸域生態系の炭素吸収活性の新たなモニタリング方法として注目を集めている。これまでは蛍光の植物種による違いや季節変動などが解析されてきた。
  3. 植生の状態は時々刻々と変化しているのに対し衛星観測はスナップショットであるため、このような取り組みが重要になる。現在運用中の蛍光観測が可能な衛星搭載センサは、日本のGOSAT、GOSAT-2に搭載されているTANSO-FTS、TANSO-FTS-2、NASAのOCO-2、OCO-3、欧州気象衛星機関のMetOpシリーズに搭載されているGOME-2、欧州宇宙機関のSentinel-5Pに搭載されているTROPOMI、中国のTanSatに搭載されているCDSがある。衛星ごとにデータの仕様が異なり、例えば空間分解能は、OCO-2は2km、TANSO-FTSは10km、GOME-2は40kmなど様々である。また、上記のセンサは全て大気観測を目的に作られており、蛍光観測は副次的なものである。世界初の蛍光に特化した衛星観測ミッションとして欧州宇宙機関のFLEXが計画されており、2022年に衛星が打ち上げられる予定である。

本研究の論文情報

On the zero-level offset in the GOSAT TANSO-FTS O2 A band and the quality of solar-induced chlorophyll fluorescence (SIF): comparison of SIF between GOSAT and OCO-2
著者: Oshio, H., Yoshida, Y., & Matsunaga, T.
掲載誌: Atmos. Meas. Tech., 12, 6721–673. https://www.atmos-meas-tech.net/12/6721/2019

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP