2020年4月号 [Vol.31 No.1] 通巻第352号 202004_352005

気候危機の時代を若者と共に乗り越えよう! 2019年度環境文明21全国交流大会参加報告

  • 地球環境研究センター 交流推進係 広兼克憲

スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの行動を契機に、世界中の若者たちが気候変動問題に対する大人たちの対応に異議を申し立て、様々な行動を起こしています。

この問題をテーマに若者の思いや意見を聞き、どう連係して立ち向かうべきかを考えるイベントが、2019年12月7日にNPO法人環境文明21(http://www.kanbun.org/)の主催により行われました。

なお、環境文明21代表(2017年当時)の加藤三郎氏には、本誌でも「環境被害を他人事でなく伝えるためにすべきこと」というテーマでインタビューさせていただき、地球環境研究センターニュースに掲載しました。

このインタビューにもある「他人ごとでなく」というところが、昨今の日本、地球温暖化・気候変動問題の肝となるところであり、今回のイベントでは、大学生(中国からの留学生含む)など若い世代も交えて議論がなされました。3時間を超える長時間のイベントとなりましたが、その様子の一端をご報告させていただきます。

冒頭、藤村コノヱ氏(環境文明21代表)から気候変動は他国ごと、他人ごとではなく、若い方も含めた幅広いINVOLVEMENT(巻き込み)が必要だと挨拶があり、続いて大人世代(有識者)から2件の関連する話題提供が行われました。

話題提供の一つは損害保険業界から見た気候変動問題について、佐藤氏が最新の状況を、続いてグレタさんがどのようにして世の中に知られるに至ったかなど、この問題を議論する基本情報について明日香氏からお話しいただきました。そのポイントは以下の通りです。

プログラム
  • 損害保険業界から見た気候変動問題 佐藤孝治氏(損保ジャパン日本興和環境財団事務局長)
  • 気候変動の現状と世代を超えた繋がりの重要性 明日香壽川氏(東北大学東北アジア研究センター教授)
  • 若者からの意見と大人から伝えたいこと(質疑応答)

佐藤氏の情報提供のポイント

  • 温暖化に伴う気候変動・極端気象現象による損害額は最近大きくなってきており、保険料が高くなりつつある(下記、図表を参照)。
  • 損害保険でそのような被害がカバーされる率は先進国では高めであり、途上国では低い傾向がある。
  • 日本の場合、損害保険の対象は火災・落雷、自然災害(台風、竜巻、ひょうなど)であるが、地震は含まれない(別の保険がある)。この中で、自然災害による保険料の支払額が増えてきている。2016年度は1544億円だったもの(下図の上)が、2018年、19年には台風による災害だけで1兆円を超えてしまっている(日本の自然災害の保険金支払額Top 10参照)。
  • このまま自然災害が頻発すると、資金力がないと保険に加入できない層が増える可能性が高い。

明日香氏の情報提供のポイント

  • 異常気象による被害者数 5800万人@2018年(国連防災機関調べ)。
  • 気候変動による難民 2008年以降毎年2150万人。
  • グレタさんが世に広く知られるに至ったプロセスについて。
  • 初期のグレタさんの言葉を紹介:「子どもは親と同じことをするもの。気候のことを気にしている子どもになんて、ひとりも会ったことはない。」「カーボンオフセットとは貧しい人に金を払ってダイエットをしてくださいと言っているようなもの。」(『グレタたった一人のストライキ』(海と月社)より)
  • 若者のこのような思いに対し、大人は真剣に考えていかなければならない。

若い人の意見(日本の大学生、中国からの留学生含む)

  • 日本ではスウェーデンに比べて環境教育が進んでいないのでなかなか行動が起こらない。
  • 無関心な人をどう動かすか、無関心な人がいなくなるように制度を変えていくことが必要。
  • 若い人の多くはまだ何が問題なのかわかっていない。
  • 環境問題をパニックと捉えるべきか、楽しく取り組む対象と捉えるべきか、疑問に思っている。

写真1 環境問題に対する意見を説明する若い参加者たち

これらの意見に対して、具体的に何をしたらよいかを考えるグループワークとして、今、政府や企業にどのような提案をするべきか、というテーマが与えられ、世代を越えたディスカッションが行われました。

具体的には、参加者25名が数グループに別れ、付箋紙に自分が考えたことを書いて、グループ内で共有・ディスカッションし、同意が得られたものを模造紙にまとめるという作業を行いました。

私が参加したグループでは、その内容は以下のようにまとまりました。

  • 2030年度までの日本の温室効果ガス削減目標を大幅に見直し・強化する。
  • 炭素税・排出権取引(国内)を実施に移す。
  • 環境教育を充実
  • 次のFFF(Fridays For Future、未来のための金曜日)デモにおいて東京会場に5000人集結させる。
  • プラゴミを極力減らす。

写真2 若い世代とそうでない世代が混合したグループでのワーク

これらのワークの結果の共有も含めて、全体について、長期的な持続可能性を議論する際には、これまでの日本の温暖化対策計画のように、現実的・漸進的な対応の寄せ集めばかりではなく、時には本音で議論し、少々無謀でもチャレンジするような計画を提案することに意味があると感じました。

グレタさんたちが問いかけた大人に対する厳しい言葉もきちんと受け止め、責任をもってチャレンジすることがない限り、この難題はクリアできないという思いを強くしました。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP