2020年2月号 [Vol.30 No.11] 通巻第350号 202002_350008

【最近の研究成果】 パリ協定の1.5°C目標を達成することで、気候変動の「不公平性」は軽減できる

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 塩竈秀夫
  • 社会環境システム研究センター 広域影響・対策モデル研究室 研究員 高倉潤也
  • 社会環境システム研究センター 広域影響・対策モデル研究室長 高橋潔
  • 地球環境研究センター 副センター長 江守正多

パリ協定は、産業革命前からの世界平均気温上昇を2°Cより十分低く、できれば1.5°Cに抑えるという目標を掲げた。1.5°C目標を達成できた場合に、2°C上昇した場合と比べて極端な気象現象とその影響をどの程度低減できるのかを調べることは、政策上も重要な課題である。我々は、6つの異なる気候モデルを用いて、産業革命前から1°C温暖化した現在の状態と1.5°C、2.0°C温暖化した状態の実験をそれぞれ1000年(10年 × 100回)以上計算した。この大規模実験のデータを用いて、屋外労働者が熱中症のリスクを避けて安全に働くことのできる時間(労働可能時間)が温暖化によってどれだけ減少するかを計算した(図1)。2°C実験では、裕福でなくCO2排出量の少ない国・地域ほど労働時間の減少率が大きく、裕福で排出量の大きいな国や地域と比較した場合の不公平性が拡大することが分かった。一方、1.5°C実験では、労働可能時間減少が抑制できるだけでなく、不公平性(負の傾きの大きさ)も小さくなる。極端な高温・降水・流出量に関しても同様の結果が得られ、1.5°C目標を達成することで、2°C目標よりも気候変動の不公平性を軽減できることが分かった。

図1 屋外労働者の労働可能時間減少に関する不公平性。縦軸は、温暖化によって屋外労働者が熱中症のリスクを避けて安全に働くことのできる時間が何%減少するか。横軸は100万人当たりの(a)累積CO2排出量と(b)国内総生産(GDP)。世界を17の国、地域に分けて計算し、その分布の回帰直線を示している。陰影は5%–95%信頼区間を示す。

本研究の論文情報

Limiting global warming to 1.5ºC will lower increases in inequalities of four hazard indicators of climate change
著者: Shiogama, H, T Hasegawa, S Fujimori, D Murakami, K Takahashi, K Tanaka, S Emori, I Kubota, M Abe, Y Imada, M Watanabe, D Mitchell, N Schaller, J Sillmann, E Fischer, J. F. Scinocca, I. Bethke, L Lierhammer J Takakura, T Trautmann, P Döll, S Ostberg, H M Schmied, F Saeed, C-F Schleussner
掲載誌: Environ. Res. Lett. 14, 124022. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ab5256/meta

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