2016年10月号 [Vol.27 No.7] 通巻第310号 201610_310002

よりよい政策決定のために —グローバルな都市炭素マッピングに関するGCP-WUDAPT国際ワークショップ:Future EarthのKnowledge Action Networksへの貢献に向けて—

  • GCPつくば国際オフィス 事務局長 Ayyoob Sharifi
  • GCPつくば国際オフィス 代表(地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主席研究員)山形与志樹

1. ワークショップの背景と目的

2016年6月29日〜7月1日、スイスのトゥーンで標記国際ワークショップを開催しました。このワークショップは、グローバルカーボンプロジェクト(Global Carbon Project: GCP)、Future Earthコアプロジェクト、及びWUDAPT(World Urban Database and Access Portal Tools)が主催したものです。ワークショップ会期中、Future Earthの科学委員会および、関係者から構成される関与委員会も開催されました。

ワークショップの目的は、さまざまな都市のスケール(個々の建築物から地域レベル、市町村まで)における、定量的・定性的なデータ収集の枠組みを構築するための戦略について議論することで、とくに大域的に観測された炭素排出量をダウンスケールすることで、都市・地域レベルの排出量を明らかとしようという都市炭素マッピングが中心的なテーマでした。炭素排出のパターンの理解を深めることは、都市の低炭素な発展やその実現に向けた行動計画の作成にとって重要です。また、炭素排出のデータは、アセスメントを行う際や将来シナリオを開発するのにも不可欠なものです。ここ数年、さまざまなボトムアップ的アプローチ・トップダウン的アプローチにより、都市の炭素排出のマッピングが進められてきました。しかし、これまでのものは、断片的で透明性に欠け、相互比較が困難な異なるプロトコルを補足したものでした。また、資金的にも人材的にも大きな投資が必要となり、そしてなんといっても、炭素排出データが、社会経済的側面や制度的要素、環境に関するデータと統合されていませんでした[注]

このような背景のもと、本ワークショップは開催されました。以下では、ワークショップの概要を紹介します。

2. 議論の概要

ワークショップでは、トップダウン的アプローチとボトムアップ的アプローチの課題にどう対処するかということと、全球の都市のデータベースを構築するための協力体制について議論しました。トップダウン/ボトムアップの両アプローチを行う上での課題の一つに「精度良く計算を行うために必要となる空間分布情報をどのように収集するか」があります。これについて、地域レベルの排出量データを取得するために、トップダウン的アプローチは主にリモートセンシング技術を応用するのに対し、ボトムアップ的アプローチではクラウドソーシング(不特定多数の人々に仕事を依頼する)やインターネットを利用して進められます。GCPとWUDAPTの協力のもとに取り組みが開始されますが、ほかの研究グループや、このテーマに興味があるグループが活動に参加してくれることを期待しています。都市計画の担当者、地方自治体、市民や地域コミュニティ、エネルギー・土地利用・気候モデルの研究者といったステークホルダーも参加が見込まれています。

WUDAPTは都市の形態による特徴や気候変動の研究に貢献する情報収集に取り組みます。空間的な情報収集には、ボトムアップ的アプローチや地域密着型のアプローチを用い、使いやすくアクセス可能な公開データベースを構築するためには、クラウドソーシングを利用します。これは、一貫したアプローチにより世界中の都市のデータベースの開発を進めている局地気候帯(Local Climate Zones: LCZ)アプローチに基づいています。データベースは2016年末に公開される予定です。このデータベースは、何よりも都市のさまざまな要素(建物、道路、建設資材等)と都市の気候との相互作用を解析するための基盤となります。

都市の炭素排出のデータベースは、WUDAPTのデータベースとリンクすることになっています。これにより、カーボンフットプリントとエネルギー消費量について、それぞれのLCZにどんな特徴があるかという研究が可能になるでしょう。こうした分析により、人口分布と建物密度や望ましい地域形成、効率のよい街路の配置に関する理解をさらに深めることができます。

都市の炭素排出に関するデータベースは、毎年、国ごとの炭素排出量を更新し、国際基準となっているGlobal Carbon Atlasとも統合されます。Global Carbon Atlasは、世界中の研究機関や研究者の協力で活動しているGCPの傘下にあるコミュニティの取り組みで、人為・自然起源の炭素フラックスに関する全球および地域データを検証し、可視化してオンラインで配信しています。また、Global Carbon Atlasは、都市排出量データを一般の方に幅広く利用してもらうことを目的として設計・開発されたプラットフォームです。炭素フラックスの主要データはWUDAPTプロジェクトの一環として整備した全球の都市炭素排出データベースから入手できます。同データベースは、炭素関連のデータベース作成やマッピングにこれまでにも用いられてきた一般的かつ平易なフレームワークに基づいて作成されたものです。

都市の炭素排出のコンポーネントをGlobal Carbon Atlasに加えるのは困難な作業になると思われますが、やってみる価値はあるということがわかっています。目標達成には、異なる分野の研究者と地方自治体との連携、具体的には地方自治体が取得した排出データを定期的に報告するための連携や、共同での研究活動の資金調達のための連携、研究者と政策決定者の双方向のフィードバックを推進するための連携、が必要不可欠となるでしょう。二酸化炭素の直接排出と間接排出を定量化することが重要との共通認識が参加者の間で得られていますが、まず、直接排出量のデータを収集し、次に間接排出量を加えることが合理的でしょう。完成したら、このデータベースは、都市の境界領域内だけではなく境界を越えたさまざまなセクターのカーボンフットプリントに関する情報を提供することができます。さらにこのデータは、今後、WUDAPTプロジェクト(LCZに関連する物理的、空間的、社会経済的データ。WUDAPTでレベル0、1、2を公開)から得られた情報と統合され、低炭素で気候に対してレジリエントな都市開発を実現するために利用されます。

3. 今後の取り組みと期待される成果

今後2年間で、世界の大都市のなかからいくつかを選び、それらの都市のデータベースを構築することが主要な取り組みになります。都市の選定に関しては、(1) データ数が多いこと、(2) 炭素排出の信頼できるデータがあること、(3) 気候(気象)条件が異なること、という3つの基準があります。そして、東京、パリ、ニューヨーク、ロンドン、上海、メキシコシティ、バンコク、ヨハネスブルグ、メルボルン、サンパウロ、バンクーバー、ミラノ、コロンボ、モスクワ、シカゴ、ロサンゼルスの16都市が選ばれました。東京とパリのデータベースの構築に関する取り組みはすでに始まっています。また、上記のいくつかの都市の関連した取り組みが、気候変動対策に取り組む都市のネットワークである世界大都市気候先導グループ(C40)のような先導的な組織のもとですでに進められており、それらが私たちの計画目標の達成を容易にすることが期待されます。

WUDAPTグループは、これら選択された都市に関する基本となるマップを提供するため、主として土地被覆分析に取り組むことになっています。WUDAPTのレベル1と2のデータから、社会経済に関する情報、輸送のデータ、建物の分類などが加わると、データベースが拡充していきます。また、人工衛星Landsat-8の画像やALOS-2(だいち2号)搭載のPALSAR-2センサを利用して、土地被覆マップの解析のための代替方法を開発することも計画されています。

炭素排出データ、土地利用データ、そして上述の手法で推計するその他のさまざまなデータ(たとえば米国エネルギー省二酸化炭素情報分析センター(Carbon Dioxide Information Analysis Center: CDIAC)のようなグローバルな炭素排出データをダウンスケールして推計されるローカルなグリッド毎の炭素排出データ)を、ポートフォリオを用いて関連付けます。

都市や地域レベルの炭素排出量を明らかにするという、この取り組みの最終的な成果は、持続可能な都市や社会の実現に向けて、情報に基づくよりよい政策決定を進めるために大いに役立つと思われます。計画の達成については、人的・資金的な課題を解決できるかどうかにかかっています。このテーマに興味をもっているほかのステークホルダーと協力して、プロジェクトを開発し実現する体制を築き、今後の課題に取り組みます。ネットワークを強化する第一段階として、新しく設立されたFuture Earth Cities Knowledge Action Network (CKAN)に私たちの取り組みを提案しました。この情報アクションネットワーク(KAN)の事業は、今もなお進展中です。都市の情報アクションネットワークは、持続可能な都市化に関する知見を提供するなかで、さまざまな研究分野やステークホルダーのグループが関与するための基盤作りをすることになっています。計画は都市の情報アクションネットワークの目的に沿って進められます。とくに、持続可能な都市の将来像を描いて、その実現に向けて努力する研究者や政策決定者が利用できるような貴重な情報を提供することが目的です。低炭素な都市化や都市の開発に影響を与えることになる今後20〜30年が極めて重大だということは、研究面でも政策においても十分理解が得られています。全球の排出量分布の作成については、複数の都市シナリオの影響が大きいでしょう。都市の炭素排出量に関するデータベースの構築は、都市化への異なる道筋の影響を分析したり、それに対応する都市の類型を解析したりするために必要不可欠なものでしょう。都市の排出データ分析から得られた知見により、研究者や政策決定者は、都市化の過程で可能性がある緩和策の違いについて理解できます。こういったデータベースがあることで、持続可能で気候に対してレジリエントなコミュニティを構築するための斬新な計画を開発し実行することが容易になるでしょう。

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写真1Future Earth CKANへの貢献の可能性に関するセッションで

この活動の成果が、全球の炭素排出を管理するために都市ができることとして、どんな都市化のシナリオを選択すべきかを明らかにし、活動の成果として、都市の気候に関する研究者やエネルギーモデルの研究者、都市計画に携わる人、市民グループなどのステークホルダーの活動を支える人材を育成することが期待されています。

アクセス可能な公開データベースの開発や興味をもっているほかのグループとの協力体制を築くことだけではなく、今後2年間で著名な雑誌に論文や解説を掲載し、プロジェクトに関する情報発信をするつもりです。

なお、本ワークショップの参加者リストや講演スライド等、ワークショップに関する情報はGCPつくば国際オフィスのウェブサイト(http://www.cger.nies.go.jp/gcp/gcp-wudapt-workshop-on-global-urban-carbon-mapping.html)からダウンロードできます。

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写真2ワークショップの参加者たち

脚注

  • Gurney K.R., et al. (2015) Track urban emissions on a human scale. Nature 525, 179-181.

*本稿はAyyoob Sharifiさん、山形与志樹さんの原稿を編集局で和訳したものです。原文(英語)も掲載しています。

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