2015年9月号 [Vol.26 No.6] 通巻第298号 201509_298006

オフィス活動紹介:国環研GOSATプロジェクトオフィス 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」〜後期利用運用の状況〜

2009年1月23日に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、2014年1月に5年間の定常運用期間を終了後、後期利用運用として観測を継続しています。GOSATには温室効果ガス観測センサTANSO-FTS(Fourier Transform Spectrometer)と雲・エアロソルセンサTANSO-CAI(Cloud and Aerosol Imager)が搭載されています。2014年の5月24日(UT)に太陽電池パドルの一方が故障しましたが、片翼太陽電池パドルでも観測に必要な電力が確保できましたので、5月30日には両センサの観測を再開しました。その後TANSO-CAI は特に問題なく作動することが確認されましたが、TANSO-FTSの動作状況が捗々しくありませんでした。9月にはTANSO-FTSポインティング機構の性能劣化が顕著となり、ミラー駆動制御系パラメータ設定変更や観測地点を衛星直下点に限定する形態での運用を3ヶ月間実施しました。2015年1月26日にTANSO-FTS ポインティング機構を主系から従系へ切り替え、2015年2月1日以降は安定して観測データを取得していましたが、2015年8月2日にTANSO-FTSの熱赤外バンド(TIR バンド4)検出器の冷凍機が突然停止しましたので、以後は熱赤外バンドの観測を中断しています。TANSO-FTSの短波長バンド(SWIR バンド1~3)は正常に動作しており、TANSO-CAIと併せて観測データを継続して取得しています。

前号(2014年11月)以後のGOSAT関係の主要イベントを以下に紹介します。

1. 報道発表(その1)

南米ペルーの首都リマで開催されたCOP20・CMP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)の期間中、2014年12月4日に「温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による大都市等における二酸化炭素観測データと人為起源排出量との関係について」と題してリマと東京で報道発表を行い、TANSO-FTSのデータが大都市等における化石燃料消費による二酸化炭素(CO2)濃度の上昇を捉えている可能性を提示しました。詳細は http://www.gosat.nies.go.jp/jp/related/download/GOSAT_L4CO2_20141205_jp.pdf を参照ください。GOSATにより高濃度(2009年6月〜2012年12月の平均)の人為起源CO2が観測された領域(1°グリッド。赤道で100kmグリッドに相当。25個以上のGOSAT-FTSデータがあるグリッドのみ表示)を図1に示します。グリッドの描画色は人為起源CO2濃度を示しており、濃度が高い領域として7箇所が抽出されています。今回の研究結果により、衛星でCO2濃度を観測することが、化石燃料による温室効果ガス排出(インベントリ)の監視ツールとして有効利用できる可能性があることがわかりました。

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図1GOSATにより高濃度の人為起源CO2が観測された領域 [クリックで拡大]

2. GOSAT関連会議

GOSATプロジェクトでは、過去8回の研究公募(RA)を行い、2015年9月現在も第9回公募を行っています。RA選定・評価委員会により採択された研究課題のRA研究者の方々には、毎年開催されるRA PI(研究公募 研究代表者)会議で研究の進捗状況をご報告いただくと共に、研究者間の意見交換や討議、センサの運用状況やGOSATプロジェクトが提供するプロダクト等に関する情報収集の場として活用されています。今年は6月16日〜18日に米国パサディナのカリフォルニア工科大学で開催された「第11回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ The 11th International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space (IWGGMS-11)」の期間に先立ち、6月15日に「第7回GOSAT RA PI会議」をカリフォルニア工科大学で開催しました(写真1)。今までのRA PI会議は非公開で3日間、研究テーマ別の分科会も開催していましたが、今回は6月10日からのIWGGMSの前日の1日間に凝縮しての開催となり、公開のIWGGMSでRA関連のテーマを発表する研究者の方々には、RA PI会議に於いて2分間での内容紹介をお願いしました。当会議には、研究代表者(PI)と研究分担者(Co-I)が36名、GOSATプロジェクト関係者等を含め参加者は総勢58名でした。午前中のプレナリーセッションでは、GOSATプロジェクトからの報告の後に、19件の2分間内容紹介が行われ、午後は11件の研究報告と総合討論が行われて過密スケジュールの1日が終了しました。次回のRA PI会議は2016年6月に日本で開催する予定です。

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写真1第7回GOSAT RA PI会議参加者(カリフォルニア工科大学にて)

3. 報道発表(その2)

2015年7月に海洋研究開発機構と国立環境研究所が共同で、GOSATデータを用いたCO2吸収排出量の推定値(トップダウン法による結果)(図2)と、CO2吸収排出量の地上観測ネットワークを機械学習モデルによって経験的に広域化した値(ボトムアップ法による結果)とを用いて、これら2つの手法が推定する近年のCO2吸収排出量の整合性の調査結果を発表しました。報道発表「地上・衛星観測データが示す大気中二酸化炭素の行方〜異なる2つの最新手法を相互的に評価〜」の詳細は、http://www.nies.go.jp/whatsnew/2015/20150717/20150717.html を参照ください。

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図2GOSATによるCO2吸収排出量の推定手法の概念図 [クリックで拡大]

4. 展示ブースによる広報

シンガポールで開催された第12回アジア・オセアニア地球物理学会(AOGS: Asia Oceania Geosciences Society)年次総会で、2015年8月3日〜7日の期間、東南アジア域の研究者を対象にGOSAT観測データのユーザ開拓と利用促進、GOSAT-2の紹介を目的として展示ブースを出展しました。展示ブースの壁紙デザイン、バナー制作、各種配布物の制作・調達、展示ブースでの接客に至るまで地球環境研究センター内専門スタッフの協力を得て、期間中の多数の来訪者にもきめ細かく対応できました。GOSATプロジェクトパンフレット、GOSAT-2フライヤ、GOSAT・GOSAT-2をデザインした栞、GOSATサンプルデータやデータ入手方法説明書等を記録したUSBメモリ、書いた文字を消せるボールペン・マーカーペン等、準備した配布品は4日間で概ね全てなくなりました。期間中のブース来訪者(約350名)への対応を通じ、アジア・オセアニアの研究者にとってGOSATの認知度はそれほど高くなく、観測データを無償で入手できることやセンサ性能について、研究者の方々への積極的な普及・宣伝活動の必要性が痛感されました(写真2、3、4)。次回のAOGSは2016年に北京で開催されます。

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写真2, 3, 4第12回アジア・オセアニア地球物理学会での国立環境研究所のブース。熱心に説明を聞いてくださる来訪者の方もおおぜいいらっしゃいました

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