2014年6月号 [Vol.25 No.3] 通巻第283号 201406_283006

「ココが知りたい生パネル—そうだったのか地球温暖化—(会場参加型パネルディスカッション)」を開催しました

  • 地球環境研究センター 交流推進係

2014年4月19日(土)、地球環境研究センターは国立環境研究所一般公開「春の環境講座」の企画として、大山記念ホール(中会議室)で午前と午後の2回、昨年の「夏の大公開」と同様のパネルディスカッションを行いました(「どーなってるの地球温暖化! ココが知りたい生パネル—人類は地球温暖化を止めることができるのか—」地球環境研究センターニュース2013年9月号参照)。

1. どうすれば会場の皆さんと積極的なコミュニケーションがとれるか?

今回のパネルディスカッションのテーマは、3月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)から地球温暖化の影響・適応・脆弱性に関する第2作業部会報告書が公表されたことから、「地球温暖化の影響」としました。

研究者による講演の後には、会場からのコメントや質問がほとんどないことが多く、話が一方通行になってしまうおそれがありました。そこで、今回はあらかじめ座席にアンケート用紙とペンを配布し、パネル開始までに、アンケート回答と「知りたいこと」を書いてもらいました。用紙はスタッフが回収して、司会者(モデレータ)にそのまま渡し、会場の関心事項を見ながらパネルを進める方式としました。

アンケートの内容は以下のようなものです。

  • Q1地球温暖化の様々な影響の中で何が一番心配ですか?
  • Q2地球温暖化の影響について一番わからない(疑問に思う、知りたい)ことは何でしょうか?
  • Q3地球温暖化も含め、これから何年先の地球環境が心配ですか? ◯で囲んで下さい。
    (1) 今から10年 (2) 10〜30年 (3) 30〜50年 (4) 50〜100年 (5) 100年以上
  • Q4本日のパネリスト・研究者に質問したいことを教えてください。地球温暖化に関することであれば何でも結構です。
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アンケートはすぐに書けるようにクリップボードに粗品のボールペンを付けて配布しました

これにより、参加者の関心事項から遠ざかることなく、双方の理解を深めていくことができたと思います。モデレータがアンケートの内容を考慮できるので、会場とのやり取りもスムーズで効果的でした。また、パネリストに研究者ではない職員を入れ、専門家同士の難しい話に入りこまないよう工夫しました。話の流れから、この非専門家パネリストの出番が多くなり、研究者パネリストと会場との距離を小さくする効果を発揮しました。

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一番手前がモデレータの江守室長、パネリストは男女2名ずつ(左から高橋主任研究員、金森主任研究員、肱岡室長、木村アシスタント)の4名、一番奥のペンギンみたいな人はアシスタントディレクターです

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2. 研究者からの話題提供と解説

まず、全体のモデレータである江守正多室長から、地球温暖化問題の構造(予測と対策)について簡単な説明を行い、地球温暖化の影響の位置づけを明らかにしました。

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その後、高橋潔主任研究員からIPCC報告書をもとに世界で起きつつある地球温暖化の影響の紹介、続いて肱岡靖明室長から日本での地球温暖化の影響予測として、コメの収穫量変化などを例に説明を行いました。

高橋主任研究員は世界各地で既にいろいろな影響が見られることをスライドで紹介しました。そのうえで温暖化の進行により、海面上昇、都市部への洪水、気温上昇・干ばつ等による食糧安全リスクなどの懸念があることを説明しました。

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肱岡室長からは温暖化が進んだ場合のモデルによる影響予測結果として、デング熱を媒介するヒトスジシマカの生息分布域の広がることを説明しました。さらに日本の品質の良いコメについて温暖化への適応策をとった場合ととらない場合についての比較を示し、苗の植え付け時期の変更などの「適応」により、ある程の減収は食い止められるものの、将来の収量は全体には減るであろうと述べました。

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3. ディスカッションの内容

(1) 何年先の環境が心配か

ここで、江守室長から、参加者に書いていただいた簡単なアンケートの結果が紹介されました。質問内容は「地球温暖化を含め、これから何年先の地球環境が心配ですか?」です。下記5つの選択肢から回答してもらいました。

  • (1)今から10年
  • (2)10〜30年先
  • (3)30〜50年先
  • (4)50〜100年先
  • (5)100年以上先

結果はグラフのとおり(午前の部が左、午後の部が右)です。午前の参加者と午後の参加者でかなり結果が違いました。この結果を会場に示しつつ、双方向のコミュケーションを絶やさないように進めました。例えば、午前の部では100年以上先の心配をする方が少なかったのですが、同じアンケートを高校生にしてみたところ、100年先が心配と回答した方が約2割いたことなども紹介し、いろいろな考え方があることをまず説明しました。

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最初に専門家ではない木村アシスタントから「今、自分は何をすべきかが知りたい」との問いかけがなされました。江守室長から、地球温暖化の対策には緩和(温室効果ガスの排出を止める)と適応(影響に対応する)という二つの方策(地球環境豆知識参照)があることを紹介し、緩和の観点から金森主任研究員にコメントを求めました。

(2) 私たちにできることは何か

金森主任研究員は、一言でいうのは難しい質問ですとしつつも、「例えば冷房の設定温度を少し上げるとか、使っていない照明はすぐに消すという行動の見直しがあります。これは最初のステップとしてはとても良いけれども、それで温室効果ガスを大きく減らせるかといえばそうではない。その次の段階として、お金がかかるけれど、古い電化製品をよりエネルギー効率が高い製品に買い換える。さらに可能であれば太陽光パネルを取り付け、化石燃料によるエネルギーを使わないようにすることいったことがあります。」と話しました。続いて肱岡室長から「例えば、熱中症に対してはどうするか考えてみると、先ほどの金森さんの話と反しますが、エアコンをつけること、そして寝る前に水を飲むことが適応となります。エアコンをつけてもそれを動かすエネルギーが太陽エネルギーであれば良い。豪雨による洪水氾濫の増加が考えられるが、自治体のハザードマップを参考にして家を建てるようにすれば洪水のリスクは減る。このようにいくつか答えはあります。もちろん、今すぐにはできない場合もあります。これらに関する研究は途についたばかりです。」とのコメントがありました。

(3) 地球温暖化にメリットはあるのか

江守室長からの「地球温暖化のメリットは何か考えられるか」との問いに対して、高橋主任研究員は「産業革命以前からの温度上昇が非常に大きい場合にはどの部門どの地域でも圧倒的に悪影響が大きくなるが、1.5〜2°C程度であれば、今耕作が出来ないような寒い地域でも作物が出来るようになるとか、冬の寒さが緩和されて風邪やその他の疾病による死亡などが減少することがあり得ます。」とコメントしました。

7月19日(土)には国立環境研究所「夏の大公開」が予定されています。このパネルでは、「地球温暖化は止められるか」、「温暖化の影響」とテーマを変えてきましたが、次回は、どのように緩和策や、外国との交渉や協力関係を進めるのかなどのテーマを取り上げたいと思っています。「夏の大公開」では、全所をあげて、子どもから大人まで楽しんでいただける役に立つ企画を多数ご用意させていただき、多くの方々のご来場を職員一同お待ちしております。

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