2014年4月号 [Vol.25 No.1] 通巻第281号 201404_281003
地球環境豆知識 27 ネガティブエミッション技術
二酸化炭素(CO2)は大気中に安定して存在する主要な温室効果ガスであり、CO2およびその他の温室効果ガス濃度は、今世紀前半においてCO2換算で450ppmを超える可能性が高い。この値は産業化以前からの全球平均気温の上昇幅がおよそ2°Cを超える限度と考えられている濃度である。積算でのCO2排出を抑制することは、人為的気候変動の大きさ、および将来の人類および自然への影響の大きさを決める鍵となる。そのため、将来的には大気よりCO2を取り除くことが必要となることも考えられている。大気中からCO2を取り除くことによって、過去に排出した大気に蓄積されたCO2を回収し、場合によってはオーバーシュートを調整することが可能かもしれない。このような大気からのCO2削減技術をネガティブエミッション技術(Negative Emissions Technologies: NET)とよぶ[注]。
2013年に発表された IPCC第1作業部会第5次評価報告書で示されたように、今後どの時点で排出のピークを迎え、どのような比率で削減するかといった排出の経路によらず、過去から積算したCO2排出量によって気候変動の大きさがおおよそ決まる。つまり、将来の気候変動によるリスクを緩和するための効果的な方策として、積算でのCO2排出量を制限する必要があり、ネガティブエミッション技術の利用可能性を探ることも重要となってくる。また、排出のピークを迎えた後に、どうしても排出が避けられないセクターによる排出量とそれによる温暖化についての問題がある。ネガティブエミッション技術によって、このような、ある限界以上は削減が難しいか不可能なセクター(農業、航空機など)からの人為排出をオフセットすることができるかもしれない。
ネガティブエミッション技術の方法論として以下のように二分することができる。(1) 自然界のCO2吸収を増大させる方法。(2) 化学工学的技術を使って大気中からCO2を除去する方法。これらに関し、さまざまな方法が考案されているが、(1) としては「人工樹木」などとして考えられている化学物質を用いた大気中CO2の直接回収、(2) の例としては、鉄散布による海洋肥沃化、広域での植林、海洋のアルカリ性化による風化反応の促進、バイオ炭、バイオマス地中埋設、そしてバイオエネルギー利用におけるCO2回収貯留(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage: BECCS)、などが挙げられる。
なお、現時点では、地球環境研究を行っているコミュニティの中でも、ネガティブエミッション技術の実施ポテンシャルに関する評価は、量的、質的にもさまざまである。また、社会的な側面からの倫理的問題、国際枠組みにおけるガバナンスの問題が指摘されている。
以下に、これまでの知見・論点のいくつかをまとめ、列挙する。
- さまざまな技術が潜在的に存在する。それらの幾つかは、副次的あるいは主要なものとしてCO2除去以外に他の機能(BECCSにおけるエネルギー生成、バイオ炭利用における土壌改良など)をもつため、近い将来市場での利用が可能かもしれない。
- 一般にCO2回収は高コストと考えられるが、それでも将来の緩和コストは、予測されている炭素価格の観点から、潜在的にネガティブエミッション技術が実現可能な域にある。
- それぞれの技術は開発段階においてさまざまである(たとえば、バイオ炭は昔からある技術であるが、大気中CO2直接回収はまだ実証段階の初期である)。
- すべての技術に関し、ライフサイクルベースでの大規模ネガティブエミッションのポテンシャルに関する研究が不十分である。
- BECCSは最も近々での利用ポテンシャルが考えられるが、試験的にさまざまな技術オプションによる実証実験が望まれる。
- 多くの方法では、圧縮と貯留の大きなキャパシティー、つまりCCSインフラの開発に依存している。つまり、いくつかのネガティブエミッション技術が実現可能な技術オプションとなりうるスケールにまで達するには、CCSが商業的に成功しパイプラインなどが配置されていることが前提条件となる。
- 大気中の濃度に重大な影響を与えるようなレベルになるまでには、かなりの技術的スケールアップが必要であり、おそらく20年以内には非現実的である。それゆえ、気候変動のリスクを小さくするためには、緩和努力が依然重要となる。
- これらの技術を広域で利用することによる、予想しえない環境あるいは気候へのリスクを考慮する必要がある。
- ガバナンスにおけるモラルハザードの問題。政策決定者が効果的な緩和プログラムや低炭素技術を開発しない口実を与えることによって、気候変動に対する緩和が進まない可能性がある。
脚注
- 二酸化炭素回収(Carbon Dioxide Removal: CDR)や CDR技術と呼ばれることもある。
参考
- Climate risk management and negative emission workshop, 6-7 December 2013 Tokyo, Japan
http://www.iiasa.ac.at/web/home/about/events/upcomingevents/Global_Carbon_Project_-_Tokyo.en.html