CGERリポート

「対流圏モニタリングデータ評価のための支援システム(CGER-GMET)の開発」
-トラジェクトリ計算および気象場表示システム-

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地球環境研究センターでは地球環境研究を担う所内外の多くの研究者と連携し長期のモニタリングや系統的なデータベースの整備、研究支援ツールの整備を実施してきている。

この支援ツールの一つとして当センターでは、モニタリングデータや大気汚染のデータの解析において不可欠な大気塊の移動経路すなわち流跡線(トラジェクトリ)の算出を、大気物理や計算機利用の専門知識を必要とせず誰でも行えるようにCGER-GMETを開発した。本システムは、UNIX上で動作するとはいえ、対話型操作環境を整え、計算開始の位置や時刻を入力するだけでトラジェクトリの算出や気象場の表示を、ヨーロッパ中期天候予報センター(ECMWF)の全球の格子点データセットを用いて行うことができる。

本レポートは、最近行った改良点の解説を含めて機能と応用例を中心にまとめたもので、一般利用者向けの機能紹介と詳細なマニュアルという性格を持ち、システムを有効に活用するため利用者が遭遇するであろう特異な例をとりあげ、システムの特徴が浮き上がるように工夫してある。

本システムは国環研の研究者だけではなく、国環研と共同研究を行う方々の利用も、使用許諾条件への同意の元で可能であり、多くのユーザーの方に利用いただけることを期待している。

システムの概要

本システムは1987年に林田らにより国立環境研の大型計算機用に開発されたものを、1994年にUNIXに移植、その後幾多の改良を重ねて現在に至っており、対話型の 操作環境によって計算を開始させる位置や時刻を指定すれば誰でも簡単にトラジェクトリの算出や気象要素のマッピング・時間変化を描画することが出来る。気象デー タとしては当センターが、研究支援の一環として購入・管理しているヨーロッパ中期天候予報センター(ECMWF)の格子点データセットに限られる。全球2.5度メッシュデー タについては1993年6月以降、アジア域(100-160E, 10-60N)の0.5度メッシュデータについては1992年以降のものが用意されており、国環研との共同研究であれば所外者の 利用も可能である。ただしシステムのリモートアクセスは許容されていず、当センターの専用機でのみ利用することが出来る。

内容

本レポートは本文と操作マニュアルの2部構成をとっており以下章立てに沿って簡単に紹介する。

【本文】


  • システムの概要
    トラジェクトリの計算は気象データセットのデータから任意の場所・時刻の気象値を補間算出し、時間積分により経路を算出する。気象データセットは、指定気圧面と一定間隔の経度線と緯度線とからなる3次元格子の格子点の気象要素を実測データと気象モデルから算出したものである。
    図2 トラジェクトリ算出結果
    地図上(下左)、経度ー高さ面(左上)及び緯度高さ面(右下)への投影図とおよび使用したパラメーター(右上)がA41枚にプリントアウトされる。
  • トラジェクトリの計算方法
  • 自動計算処理、グラフ表示等のサポート機能
    トラジェクトリ計算、地図上へ指定気圧面ごとの気象要素の表示や任意の地点での気象要素の経時変動を表示できる。
    本システムは大気圏にかかわる研究者をユーザーとして想定しており購入しているECMWFの格子点データセットから1000hPa~10hPaまでの15層の指定気圧面のデータのみ使用する。
  • トラジェクトリ計算例
    大気は同じ気圧面の上を移動すると仮定して大気塊の移動を算出する「等圧面法」と、温位を保って移動すると仮定して算出する「等温位面法」の2種類が出来る。等圧面法は指定気圧面上でのみ計算可能である。
    本システムでは補間方法と積分解法は下記のセットになっている。

    距離の逆二乗補間法―Euler法またはPetterssen法
    距離の線形補間―4次のRunge-Kutta法

    線形補間と距離の逆二乗補間とは、特に高さ方向の気象値を求める場合大きく異なるので目的により使い分けるとともに、解析結果の取り扱いにも注意が必要である。
    本なお、ECMWFのデータセットには風の垂直成分も含まれているが本システムで計算に用いるのは水平成分のみである。
  • 自動計算処理、グラフ表示等のサポート機能
    指定した緯度経度範囲内のメッシュ上の複数点を出発点に指定してトラジェクトリを算出できる。また、あらかじめ計算に必要なパラメーターをテキスト ファイルからプログラムに読み込ませることにより、例えば1年間毎日9時に観測所上空に到達する大気塊の前3日のトラジェクトリを自動的に算出するようなバッチ処理が できる。
    トラジェクトリ算出結果のグラフ表示を図2に、ジェオポテンシャルハイトと風ベクトルを重ね書きした例を図3に示す。 また得られたラジェクトリを100本まで重ね書きすることもできる。
    図3 ジェオポテンシャルハイトのコンター図に風ベクトルを重ね書きした例
  • トラジェクトリ計算例
    上下に隣接する指定気圧面でも等圧面法での算出結果が異なる場合があり、どの指定気圧面で計算するかよく検討する必要がある。
    等温位面による場合、温位面が気圧面に対して大きく傾いていると線形補間と距離の逆二乗補間で結果が大きく異なる。また距離の逆二乗補間では急激なトラジェクトリの折れ曲がりなど不自然な結果を与える場合がある。これは補間により得られた水平風速の変動が垂直方向に不連続となるためである。
    緯度経度でそれぞれ1.5度はなれた4点から同時刻に出発するバックトラジェクトリを求め、相対距離を比較した結果から、計算結果の位置の不確かさは3日で6-800km程度と見込まれる。
    波照間および落ち石岬上空に飛来する大気塊のトラジェクトリを数年分まとで3日前に気塊が存在する緯度帯や3日間に上空を通過した地域が季節によりどう変動するかといった応用例も紹介している。
  • まとめ
  • 本研究によって得られた成果
    本システムの解析結果を用いている論文17編と学会発表のextended abstract2件をリストアップ。

【操作マニュアル】

殆どの操作は図4のような対話型操作画面へ必要なパラメーターを入力するかプルダウンメニューから選択するかによって行う。マニュアルは図5に示した操作の流れに従い共通部分と個別操作部分にわけて記述している。キー操作や入力項目は色分けして地の説明と区別してある。また章立てと別に、丸囲み数字で示した各段階ごとの見出しをつけ、ユーザーが操作の流れの中のどの段階にいるのかがわかるように留意した。

図4 対話型操作画面
図4 対話型操作画面

計算結果を自動的に名前を付けて保存する場合のファイル命名規約や、グラフおよびテキストで出力される計算の結果についても図解入りで詳細に説明してある。

図5 GMETの操作の流れ
図5 GMETの操作の流れ