TAKEMURA, T., AND SPRINTARS DEVELOPER TEAM
CGERリポート
CGER’s Supercomputer Monograph Report Vol. 24
要旨
大気中の微小粒子状物質エアロゾルは、視程や健康に影響を及ぼすだけではなく、大気放射エネルギー収支を変調させる2つの作用を通して気候システムへも影響を及ぼす。その1つの作用はエアロゾル・放射相互作用と呼ばれ、エアロゾル粒子が太陽放射・地球放射を散乱・吸収することによる。もう1つの作用はエアロゾル・雲相互作用と呼ばれ、エアロゾル粒子が雲の凝結核・氷晶核となることを通して、雲の微物理・光学・物理特性を変化させることによる。気候システムに対するこれらのエアロゾルの効果を定量的に評価すべく、大気海洋大循環モデルMIROCに結合させる形で、全球エアロゾル気候モデルSPRINTARS(Spectral Radiation-Transport Model for Aerosol Species)を開発してきた。SPRINTARSでは、MIROCの放射スキームおよび雲・降水スキームで使用する全球のエアロゾル質量混合比を導出するために、対流圏の主要エアロゾル種の輸送過程(発生・移流・拡散・化学反応・沈着)を計算する。
本モノグラフは、以下の論文に基づいて記述されている。
- [Chapter 1] Takemura, T., H. Okamoto, Y. Maruyama, A. Numaguti, A. Higurashi, and T. Nakajima (2000) Global three-dimensional simulation of aerosol optical thickness distribution of various origins. J. Geophys. Res., 105, 17853–17873.
- [Chapter 2] Takemura, T., T. Nakajima, O. Dubovik, B. N. Holben, and S. Kinne (2002) Single-scattering albedo and radiative forcing of various aerosol species with a global three-dimensional model, J. Climate. 15, 333–352.
- [Chapter 3] Takemura, T., T. Nozawa, S. Emori, T. Y. Nakajima, and T. Nakajima (2005) Simulation of climate response to aerosol direct and indirect effects with aerosol transport-radiation model. J. Geophys. Res., 110, D02202, doi:10.1029/2004JD005029.
SPRINTARSのエアロゾル輸送過程、エアロゾル・放射相互作用、エアロゾル・雲相互作用は、上述のTakemura et al.(2000, 2002, 2005)でそれぞれ開発された。本モノグラフには、Takemura et al. (Atmos. Chem. Phys., 2009, doi:10.5194/acp-9-3061-2009)に記載されている事項など、その後に改訂された過程も含まれる。ただし、観測値との比較には、旧バージョンによる計算結果が使用されている。
SPRINTARSを利用したいくつかの研究成果は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次および第5次評価報告書へ引用された。SPRINTARSは、IPCC評価報告書におけるエアロゾルの気候影響評価に関する主要貢献グループである2003年開始のAeroComなど、複数の国際モデル相互比較プロジェクトに参画している。SPRINTARSは、全球雲解像モデルNICAM(e.g., Sato et al., Sci. Rep., 2016, doi:10.1038/srep26561)へも組み込まれている。また、エアロゾル週間予測システムへも応用されている(http://sprintars.net)。SPRINTARSが、エアロゾル関連の科学的課題の解明や日常生活サポートに今後も利用され続けることを望んでいる。