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李遠哲氏(1986年ノーベル化学賞受賞者)が来訪しました フューチャー・アース特別セミナーとCONTRAILプロジェクト視察報告

10月25日に国立環境研究所において、“Sustainable Transformation of Human Society” と題する李遠哲氏の講演が行われました。

最初に国立環境研究所の渡辺知保理事長とIGAC(地球大気化学国際協同研究計画)谷本浩志共同議長(地球環境研究センター地球大気化学研究室長)から歓迎の挨拶がありました。その後、フューチャー・アース(FE)国際事務局日本ハブの春日文子事務局長(国立環境研究所特任フェロー)が、李氏が化学反応の素過程に関する研究業績により1986年のノーベル化学賞を受賞され、近年は、国際科学会議(ICSU、現ISC)の会長(2011年〜2014年)として、持続可能な地球社会の実現をめざす国際的な協働研究プラットフォームであるFEの創設に尽力されたことを紹介しました。

講演のなかで、李氏は、人間活動の影響により、特に1950年以降、CO2濃度の上昇が急激になっていること、2019年5月には観測史上最高値の415.70 ppm(マウナロア観測所)となったことを話しました。IPCCの第3次評価報告書(2001年発行)から第5次評価報告書(2014年発行、2018年に発行された1.5°C特別報告書の内容から、気候変動による極端な気候イベントなどのリスクはだんだん高まっていることを紹介し、実際に2009年に台湾を襲った台風Morakotや記憶に新しい2018年の台風21号で関西国際空港が大きな被害を受けたことを紹介しました。気候変動は地球規模の課題なので全球で解決していく必要があること、途上国は先進国が発展した過程ではない持続可能な社会を目指すこと、化石燃料に頼らないエネルギーとして太陽光発電を進めることを強調しました。

セミナーの後、李氏を地球環境研究センター(CGER)にご案内し、大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長が、地上ステーション、船舶、航空機を利用してCGERが行っている地球環境モニタリングの概要を説明しました。

また、町田室長を中心とする研究チーム(国立環境研究所、気象研究所、日本航空、ジャムコ、JAL財団)が実施している民間航空機による大気観測プロジェクト(CONTRAILプロジェクト)についても紹介しました。CONTRAILプロジェクトで使用しているCME(連続CO2観測装置)とASE(自動大気サンプリング装置)の実物を見ていただき、JALが採取した大気中の温室効果ガスを精密に分析する機器について説明しました。李氏は測定結果について関心を示されたので、町田室長はこれまでの観測結果として、高度10 kmにおいてもCO2濃度は地上と同じように上昇しており、北半球のほうが南半球より季節変動が大きいことや、北半球のCO2濃度の高い大気が南半球に輸送されていることが解明できたことを紹介しました。

午後は、大気化学実験棟にある光化学チャンバー施設にご案内し、環境計測研究センター反応化学計測研究室の猪俣敏室長が、施設の概要を説明しました。李氏は真空技術に精通しておられるため、この大きなチャンバーが10−6 Torrの真空まで引けることに感心なさっておられました。また、ガスを導入するガラスラインやラジカルの反応速度を計測するための光イオン化質量分析計もお見せしたところ、興味深くご覧になっていました。