ココが知りたい温暖化

Q15石油がなくなれば温暖化は解決?

!本稿に記載の内容は2010年3月時点での情報です

じきに石油が枯渇してしまうなら、温暖化問題は自然に解決されてしまうのではないですか。

藤野純一

藤野純一 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 主任研究員(現 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員)

枯渇するまで石油を使い続けると、それだけで地球温暖化は深刻なまでに進行すると考えられます。温暖化問題を解決するには、石油を利用することで得られるサービスを見直して、1) 再生可能エネルギーなど二酸化炭素をほとんど出さないエネルギーの利用割合を高める、2) エネルギー消費の少ない機器を普及させる、3) 家や街の構造を変えてあまりエネルギーを使わなくても必要なサービスが得られるようにするなど、さまざまな取り組みが必要です。

石油はあとどれぐらい使えるのか?

オイルメジャーの一つであるBPの統計(参考文献1)によると、2006年末現在、経済的に採掘が可能とされている埋蔵量(確認可採埋蔵量)は1630億トン(石油換算、以下同様)とされています。2005年現在、1年間に40億トン(そのうち、先進国22億トン、途上国16億トン、バンカー油[国際航空および外航海運のための燃料]2億トン)の石油を使っているので、このままのペースでいくと約40年でなくなってしまいます。筆者が中学校(二十数年前)のときに習った「石油の寿命はあと30年」から、今も大して変わっていません。

しかし、国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA、参考文献2)によると、2030年の石油の消費量は56億トン(そのうち、先進国25億トン、途上国29億トン、バンカー油2億トン)と予想されているので、現在の1.4倍になります。特に、中国やインド、ブラジル、ロシアといった経済発展の著しい国で石油の消費量が拡大することが予想されているためです。

一方、原油価格は、1990年代は1バレル(= 約159リットル)約20ドル前後で安定していました。最近では2008年7月に140ドルにまで高騰した後、世界的な経済危機とともに40ドル近くまで急降下しましたが、再び60ドルを超える水準(2009年7月現在)まで上昇しています。需要の増加や生産の逼迫等により原油価格が高騰すると、経済的に採掘が困難なところに存在している海底などにある油田を新たに採掘・開発するインセンティブが働きます。また、新たなタイプの石油であるカナダのオイルサンド(流動性をもたない高粘度の重質油を含む砂岩のことで、熱や水蒸気で油分を分離して石油を生産するため、今までの石油より余計に二酸化炭素[CO2]が排出される)が年間1.2億トン生産されるまでになっています。

以上のように、原油の消費量は拡大しながらも、新たな油田が見つかるため、IEAでは2030年になっても原油の供給量が大幅に減少することはないと予想しています。他方で、開発してきた油田の多くは既に枯れ始めていて、近いうちに原油の供給量は大幅に減少するという意見(ピークオイル論)もあります。実際に、英国・ノルウェー付近にある北海油田の生産量は年々減少しているため、既にピークを迎えていると推測されています。いずれ、消費量が採掘可能な量を上回り、すべての油田が枯れてしまえば、石油由来のCO2の排出はなくなり、温暖化問題は自然に解決されてしまうのでしょうか?

石油を全部燃やすとどうなるか?

もし現時点の確認可採埋蔵量である1630億トンの原油をすべて燃やしてしまったらどうなるでしょうか? 原油1億トンを燃やすと、0.84億トン(炭素換算)のCO2を排出するため、全部で1360億トンのCO2が排出されます。現状では、大気に排出されるCO2のうち約4割は海洋や陸域生態系に吸収され、残りが大気中に残留すると見積もられていますので、これがそのまま適用されるとすると、約820億トンのCO2が大気に残ります。一方、10億トンのCO2量の増加は、大気中の濃度の0.47ppmの増加に相当しますので、全部で38ppmの濃度上昇をもたらし、2005年の世界平均CO2濃度379ppmは417ppmにまで上昇してしまいます。これに加えて、エネルギー消費量のうち石油の占める割合(石油依存度)は、世界で37%(日本で48%)でしかなく、石油以外の化石エネルギー資源である石炭、天然ガスからもCO2が排出されることを勘案すると、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)第4次評価報告書で示された温暖化による深刻な影響を生じる危険なレベルの目安とされる1990年からの2〜3°Cの上昇のうち、2°Cに対応するCO2濃度400ppmから440ppm(温室効果ガス全体で490ppmから530ppm)を大幅に上回ってしまいます。つまり、石油を枯渇するまで使ってしまうと、それだけで深刻な温暖化問題を引き起こしてしまうのです。

石油が提供しているサービスは何か?

それでは、石油の資源量がなくなる前に石油の使用を抑えるためにはどうすればよいのでしょうか。日本では2006年に年間2億6800万トン(一人あたり2.1トン)の石油を消費していますが、そのうちエネルギー用途として、産業に7800万トン、自動車に5000万トン、家庭・業務に3200万トン、発電に1500万トン、飛行機に480万トン、そして原材料用途(プラスチックなどの石油製品)として540万トンを使っています(参考文献2)。

石油を、もし資源量が豊富で安価な石炭に置き換えたら、同じエネルギーを生み出すのに石炭は石油の約1.3倍のCO2を排出するため、さらに温暖化問題を加速してしまいます。固体資源である石炭を、利用に便利な液体燃料にしようとすると、転換にエネルギーを使うため、さらに余計にCO2を排出することになります。石炭を利用しながら温暖化問題に対応するためには、二酸化炭素隔離貯留技術(Carbon dioxide Capture and Storage: CCS[ココが知りたい地球温暖化「二酸化炭素を回収・貯留する技術とは?」参照])などのCO2処理技術を真剣に検討しなければなりません。一方、天然ガスで置き換えたら、約0.7倍のCO2排出に抑制できますが、石油同様に資源量に限りがあり、液体燃料に転換する際にロスがあるため、根本的な解決策にはなりません。

必要なサービスを満たしても投入するエネルギーは減らせる

日本の家庭部門では、暖房(27%)、冷房(1%)、給湯(31%)、厨房(6%)、動力、照明他(37%)にエネルギーが使われています(参考文献3)。そのエネルギーの約4割が灯油やLPG(Liquefied Petroleum Gas: 液化石油ガス)などの石油製品、約2割が都市ガス、残りの約4割が電気、1%が太陽エネルギーによって賄われています。脱温暖化2050研究プロジェクト(参考文献4)では、2050年に向けて、人口・世帯数の減少の他に、(1) 屋根の上に太陽熱や太陽光を設置しバイオマスなどの地域資源を利用してCO2をほとんど出さないエネルギーの利用割合を拡大する、(2) 高効率エアコンや高効率照明などによる省エネでエネルギー需要を削減する、(3) 自然光を取り入れ、高断熱住宅など家の構造を変えることでエネルギーをそれほど使わなくても明るくて寒くない家にする、ことでサービスを維持・向上させてもエネルギー投入を半分にでき、化石燃料の利用をほとんどなくすことができると推計しています。業務、旅客輸送、貨物輸送、産業部門においても、とるべき対策は変わりますが、(1) CO2を出さないエネルギーへの転換、(2) 利用する機器の高効率化、(3) サービス形態の見直し(例えば、歩いて暮らせる街にして移動自体を少なくする、情報通信の技術を使って移動しなくても用事をすませられるようにするなど)、により移動に伴うCO2排出量を大幅に削減することができます。そうやってすべての分野で対策を進めれば、サービスの質を高めても2050年におけるエネルギー投入を2000年に比べて40%削減することができ、排出するCO2を全体として1990年に比べて70%削減することが技術的に可能なことを示しました(参考文献5)。

石油が枯渇しても温暖化問題は解決しません。しかし、温暖化問題や資源問題、持続可能な発展を真剣に考える、大きなきっかけにはなるのではないでしょうか。

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図1石油の利用と温暖化の関係

参考文献

  • BP (2007) Statistical Review of World Energy June 2007.
  • IEA (2007) World Energy Outlook 2007.
  • EDMC (2008) エネルギー・経済統計要覧 2008年版.
  • 脱温暖化2050研究プロジェクト、http://2050.nies.go.jp
  • 藤野純一, 日比野剛, 榎原友樹, 松岡譲, 増井利彦, 甲斐沼美紀子 (2007) 低炭素社会のシナリオとその実現の可能性. 地球環境, 12(2), 153-160.

さらにくわしく知りたい人のために

  • 藤和彦 (2007) 石油を読む 第2版—地政学的発想を超えて. 日経文庫.
  • 西岡秀三編著 (2008) 日本低炭素社会のシナリオ-二酸化炭素70%削減の道筋. 日刊工業新聞社.
  • 藤野純一・榎原友樹・岩渕裕子編著 (2009) 低炭素社会に向けた12の方策. 日刊工業新聞社.