【最近の研究成果】 猛暑が森林の光合成を弱めることを、クロロフィル蛍光観測で確認
植物の葉に含まれるクロロフィル(葉緑素)は、太陽光のエネルギーを使って光合成を行います。このとき、使い切れなかった太陽光のエネルギーの一部が、赤色~近赤外線の範囲の微弱な光として外に出てきます。これを、太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)と呼びます。このSIFを離れた位置から測定することで、植物がどれくらい光合成をしているのかを推定することができます。このような遠隔からの観測技術を一般的にリモートセンシングと呼び、SIFの観測もリモートセンシングのひとつです。また温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズでもSIFを観測することができるので、全球規模での光合成活性の推定へ応用されています。国環研では山梨県富士北麓のカラマツ林に設置した地上観測タワーにおいて、GOSATなどの地球観測衛星によるSIF測定やモデルを用いたSIF計算を検証することを目的として、北海道大学の協力により2021年より分光観測(図1)を実施しています。本稿では、2022年夏季(7–8月)、特に短期的な猛暑(8月初旬の5日間の晴天期間)が森林生態系に及ぼす影響を解析した結果を報告します。
猛暑期間後半における日中9:00-15:00のSIFは、猛暑前と比較して低下しました(図2)。同時に森林の光合成によるCO2吸収速度(総一次生産)も減少しており、SIFが熱・乾燥ストレスに伴う光合成機能の低下を捉えられることが確認されました。
猛暑前後を含む3週間にわたるデータを解析したところ、SIFおよび総一次生産はいずれも最適温度(それぞれ約27℃、22℃)を超えると、猛暑期の最高気温(31℃)に向けて低下する傾向が確認されました。
様々な時間帯や天気のもとでは光の量等の光条件が異なりますが、そうした場合でも温度や大気乾燥度が光合成やSIFに及ぼす影響が同じかどうかを調べる必要があります。そこで光の量に対する総一次生産の比率を光合成の光利用効率とし、光の量とSIFの比率を葉群蛍光収率として計算しました。その結果、光利用効率と葉群蛍光収率は気温・大気乾燥度が高いほど低下する傾向(負の相関)を示しました。このことから、さまざまな光条件においても、高温・乾燥条件において光合成やSIFが弱くなることが確かめられました。
光化学反射指数(PRI)は葉に含まれる黄色の色素であるキサントフィルの変化を検出する指標です。PRIは植物のストレスが高いほどと小さくなるため、ストレスの診断に利用されます。今回の猛暑においてPRIは大気乾燥度と負の相関を示しました。この結果からSIFとPRIを組み合わせたリモートセンシングが、植生の熱・乾燥ストレス応答評価に有効であることがわかりました。
さらに、この研究では暑さと乾燥のどちらがより影響を与えたのか議論しました。植物は、葉の気孔を通してCO2と水蒸気の交換量を調整しています。この交換のしやすさを「コンダクタンス」と呼びます。乾燥条件において植物は水分を逃さないように気孔のコンダクタンスを小さくすることがあります。しかしその結果、水蒸気だけでなくCO2の交換量も減ることにより光合成速度が低下します。今回の研究では森林全体で見たコンダクタンス(群落コンダクタンス)が、大気が乾燥するほど小さくなることがわかりました。つまり乾燥することで気孔が閉じてCO2の取り込みが減り、総一次生産およびSIFが低下したと考えられます。
以上の結果は、観測事例が限られる北東アジアの主要樹種であるカラマツ林において、猛暑がCO2吸収機能へ及ぼす影響を遠隔評価する上で有用な知見およびデータを提供します。
参考文献:Morozumi, T., Kato, T., Kobayashi, H., Takahashi, Y., Noda, H. (2026), Detection of heat and drought effects on the photosynthetic activity using solar-induced chlorophyll fluorescence and a photochemical reflectance index in a cool-temperate larch forest in Japan. Ecological Research, 41, 3, e70074, doi:10.1111/1440-1703.70074.
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黄緑色のカラマツ林:https://cger.nies.go.jp/cgernews/202401/398006.html
※図は論文のデータをもとにコラム記事のために作成されたオリジナル画像
