NEWS2022年12月号 Vol.33 No. 9(通巻385号)

離島の海岸で大型台風に耐える波照間ステーション

  • 町田敏暢(国立環境研究所地球環境研究センター 室長)
  • 笹川基樹(国立環境研究所地球環境研究センター 主幹研究員)
  • 島野富士雄(地球・人間環境フォーラム 主任研究員)

2022年8月末に父島の東方で発生した台風11号は発達しながら真西に進み、観測ステーションのある波照間島付近で強い勢力を保ったまま3日あまり停滞し、その後北方に抜けていきました。波照間島には毎年複数の台風が近づき、観測の中断や設備の被害をもたらすことがあります。自然の力にはかないませんが、私たちはこれらの障害を少しでも小さくするために長年培った経験を活かして対応しています。ここでは台風11号対策の一部をダイジェストで紹介します。

8月29日(月)、父島の東方にあった熱帯低気圧が台風に成長。進路が波照間島のある先島諸島方向であるのでステーションの常時監視を行っている地球・人間環境フォーラムから地球環境研究センター関係者に注意喚起を行うと共に、監視体制を強める。

9月1日(木)、台風は先島諸島の南方で停滞。中心気圧が920hPaになるまで発達し、波照間島が強風域に入る。ステーションの監視情報では20m/sec程度の風速。暴風域に入る前に現地管理人の阿利さんより看板の収納、換気システムの停止、雨水タンクのバルブ閉鎖を行うとの連絡。週末も要監視体制を続けることを決定。

9月2日(金)、波照間島は依然として強風域。台風が北に向かって移動を始める。幸いにも波照間島の東側を通過するので、進路との関係から破壊的な暴風にさらされることにはならないと予想。

9月3日(土)、波照間島が暴風域に入る(図1)。10時過ぎにネットワーク遮断。暴風のために阿利さんもステーションには近づけないので、ネットワークの復旧は台風通過後とする。幸い遮断直前までの計測システムの動作は正常であったことを確認する。21時30分に停電発生。波照間ステーションには自家発電設備があり、これが作動して計測システムへの通電は継続される。しかし自家発電による電力はエアコンには供給されない設定なので通常は27℃の室温が33℃まで上昇。高温の影響で一部の計測装置が停止。

図1 2022年9月3日の天気図(気象庁ホームページより:https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickdaily.html?show=20220903)。台風の目の少し左上あたりが波照間島。
図1 2022年9月3日の天気図(気象庁ホームページより:https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickdaily.html?show=20220903)。台風の目の少し左上あたりが波照間島。

9月4日(日)、波照間島は暴風域から抜けるが依然として強風域。9時30分電力会社からの電力供給が回復し、エアコンが再起動する。ここまで自家発電により連続観測を行うことができた。阿利さんが15時にステーションに入り、ネットワークを復旧し換気システムを起動。ステーションの他の設備に異常はないことを確認。島内も目立った被害はなかったが、ステーション入り口にあるアダンが倒木していた(写真1)。

写真1 倒木したアダン
写真1 倒木したアダン

9月5日(月)、波照間島は強風域からも抜ける。高温のために停止した装置をつくば市の国立環境研究所からのリモート操作で復旧。各計測システムに異常がないことを確認。設備も異常なく、通信も順調と確認。要監視体制を解除。

以上のように、今回の台風では大きな被害は受けませんでしたが、現地管理人の阿利さんはじめ、多くの関係者の迅速で適切な対応によって波照間島のような厳しい自然環境の下でも高精度の観測を維持できています。