RESULT2022年5月号 Vol. 33 No. 2(通巻378号)

最近の研究成果 気候モデルMIROCにおける雲・降水プロセス高度化の気候変動予測への影響

  • 廣田渚郎(地球システム領域気候モデリング・解析研究室 主任研究員)

気候モデル*1による気候変動予測には大きな不確実性*2がある。不確実性の最大の要因は、モデルの雲・降水プロセスにあると考えられている。例えば、多くの気候モデルでは、計算資源の制約から、大気中で生成された雨・雪粒子は即座に地表に落ちる簡略的な表現がなされている。日本の気候モデルMIROC*3では、雨・雪粒子が大気中をゆっくり降りてくるプロセスをより現実的に表現する改良を行った。

その結果、これまでMIROCには、大気上層の雲が観測に比べて少なくなるバイアスがあったが、それが軽減された(図1a—c)。また、温暖化が進むと、上層雲の高度が高くなる変化がより明瞭に見られる様になった(図1d, e)。雲は、高度が高い程、温室効果がより効率的に働くので、これは雲による温暖化の加速効果が強くなったことを意味する。上層雲量の過少バイアスは、他の多くの気候モデルにも見られるものである。今後さらに、物理プロセスの表現を改良していくことによって、気候変動予測の不確実性を低減していくことが期待される。

図1 雲の緯度高度断面図。(a)観測、(b, d)改良前のMIROC、(c, e)改良後のMIROC。(a—c)は現在気候再現実験の雲氷量、(d, e)は世界平均気温が1℃上昇した時の雲氷量の変化。
図1 雲の緯度高度断面図。(a)観測、(b, d)改良前のMIROC、(c, e)改良後のMIROC。(a—c)は現在気候再現実験の雲氷量、(d, e)は世界平均気温が1℃上昇した時の雲氷量の変化。