REPORT2022年2月号 Vol. 32 No. 11(通巻375号)

港区立エコプラザ「脱炭素社会と気候変動月間」展示・オンライントークの報告

  • 黒住雄一郎(港区立エコプラザ 館長)

1.展示の様子

港区立エコプラザは、区民の環境の保全に関する理解を深めることにより、環境への負荷の少ない生活文化の形成に寄与することを設置目的とした施設として、環境保全に関する情報の発信や、様々なイベントを行っています。

COP26が開催される11月をエコプラザでは「脱炭素社会と気候変動を考える月間」として、気候変動に関する基本的な情報から、気候変動の「適応」を重点とした、展示やオンライントークなどを開催しました。COP26でも冒頭から強いメッセージがありましたが、気候変動によって発生する事象は、既に世界中で多くの被害をもたらし、これからの私達の生活においても多大な影響を及ぼす恐れがあり、今後起こりえる気候変動の影響に備えるため、「適応」について学ぶ機会となりました。

展示では、国立環境研究所様のご協力により、人工衛星「いぶき」の観測データの公開動画(図1)や、気候変動枠組条約やIPCC評価報告書についての概要紹介、「ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編」をパネルにして展示しました(図2)。観測データの動画は施設の正面入り口付近に設置したモニターに映し、来館者からはインパクトのある映像に驚きの声が上がっていました。パネル展では、研究者による気候変動適応の記事に、様々な方が足を止めて熱心に観覧されている姿がありました。

図1 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」の人工衛星「いぶき」の観測データの公開動画の様子。
図1 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」の人工衛星「いぶき」の観測データの公開動画の様子。
図2 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」のパネル展示の様子。
図2 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」のパネル展示の様子。

2.オンライントークの様子

11月11日(木)に国立環境研究所 気候変動適応センター長 向井人史氏による、オンライントークを開催しました。COP26、気候変動(温暖化)とは、気候変動影響とリスクに対する「適応」の重要性について、の3つのテーマをもとにご講演いただきました(図3)。

図3 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」の向井氏によるオンライントークの様子(向井氏:左と筆者:右)。
図3 「脱炭素社会と気候変動を考える月間」の向井氏によるオンライントークの様子(向井氏:左と筆者:右)。

イベント時に開催中だったCOP26(2021年10月31日~11月13日に開催)については、国連事務総長による気候変動に対してのアクションが必要だというメッセージ、COP26初日に紹介された世界各地の気候変動による影響の様子を映した動画などの紹介があり、気候変動はすでに進行している事がわかる大変インパクトのある冒頭となりました。

その後、地球温暖化についてお話があり、1896年に科学者が地球の温度上昇は二酸化炭素が影響していると推定したことを始めに、大気中の二酸化炭素濃度を観測することで研究が進みました。世界的な動きとして気候変動枠組条約も結ばれ、現在では人為的な二酸化炭素の排出量をほぼゼロまで削減しない限り、気温上昇は進むというお話がありました(図4)。

図4 大気中二酸化炭素濃度変化観測の例。
図4 大気中二酸化炭素濃度変化観測の例。

地球の気候はすでに変化しており、パリ協定以降に日本でも2018年に「気候変動適応法」を策定したとお話がありました。気候変動の対策として、温暖化原因の削減は「緩和」、影響への対策は「適応」と説明がありました。今後予測できない気候変動に対してどう対応していくか、グローバルな部分だけではなく、地域によって気温上昇の違いや、動植物の生息域の変化、海面上昇など環境の変化が様々あり、ローカルな問題としても対応が必要になっていくとのことでした(図5)。

図5 気候変動に関する動き。
図5 気候変動に関する動き。

日本で行われている適応策については、日本各地でつくられている高温耐性米や、大雨対策としての整池、遊水地の整備などの紹介がありました。また港区でも海抜の低い地域があり高潮による影響の懸念や、氾濫の恐れがある古川など低い地域は、東京都により古川地下調整池が設置されているとお話がありました。

お話の最後には、気候変動の影響への対処としては、短期的には、災害等の素早い対応と備えが必要であり、中長期的には予想される気候変動に対応する計画と対策、長期的には気候変動の予測の変化に合わせた計画・対策の見直しが必要であり、これは国でも企業でも大切なことであるとのことでした。そして、たゆまざる温室効果ガスの削減が必要であり、我々がどのようにリスクを見極められるかということが大切である、ということで、1時間のご講演はあっという間に終了しました。大きな課題から身近なところまで幅広くお話があり、参加者からはご好評を頂きました。エコプラザとしても気候変動だけではなく、気候変動の「適応」についても、強く発信していかなければならないと感じました。