地球表層システムの理解と持続可能な地球環境の実現に向けて
私たち人間の住む地球の表面には、大気や海洋、そして陸域があり、これら地球表層の環境を保全することは持続可能な人間社会をつくる上で欠かすことができません。しかし、近年では人間活動の影響を受けた気候変動により世界の陸域や海上の気温は長期的に上昇を続けています。将来は、海面水位の上昇や大雨の頻度の増加、さらに熱波や干ばつの被害を受けやすい国や地域では食料生産への深刻な影響も危惧されています。
このような中で、国立環境研究所は、2021年4月に第5期中長期計画に基づき活動を開始しました。第5期中長期計画において国立環境研究所には、環境科学全体を俯瞰し、環境政策との対応も踏まえつつ、当研究所が実施する必要のある環境研究の柱として「6つの研究分野と2つの体系化を目指す分野(表1)」が設定されました。その一つが地球システム分野です。
2021年4月に発足した地球システム領域は、環境研究の重要な柱の一つとして設定された地球システム分野の研究を推進する役割を持ちます。特に私たち人間が暮らす地球表層に着目し、地球表層システムで起こるさまざまな現象のしくみを理解し、その科学的知見を持続可能な地球環境の実現のために役立てます。
地球システム領域には8つの研究室と3つの推進室、2つの係が位置付けられ、地球システム領域に所属するメンバーは、国立環境研究所が2021年4月に新たに開始する戦略的研究プログラム「気候変動・大気質研究プログラム」をはじめとするさまざまな研究課題に国内外の研究者と連携して取り組み、地球表層を構成する大気・海洋・陸域における物理・化学プロセスと生物地球化学的循環の解明、人間活動の影響を受けた地球環境変動とそのリスクの将来予測などの研究に取り組みます。また、これらに必要となる計測技術の開発やモデリング手法の開発も行います。
さらに、地球システム領域には「知的研究基盤の整備」を専門に担う部署として「地球環境研究センター」が置かれています。「地球環境研究センター」は1990年に国立環境研究所に設置された30年の歴史を持つ部署であり、これまで地球温暖化をはじめとする気候変動に関わるさまざまな研究を推進してきました。2021年4月からは、地球システム領域の中に改めて「地球環境研究センター」を設置して、1993年に開始した温室効果ガスモニタリングに始まる地球環境の戦略的モニタリング、海洋や高山帯への気候変動影響のモニタリング、研究データの整備と利活用の推進、炭素循環・管理に係る国際共同プログラムや温室効果ガスインベントリに関わる活動の支援、スーパーコンピュータを用いた研究の支援、科学的知見の集約と社会への普及等を担い、これらの活動を継続・発展させます。
地球システム領域にはまた、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)シリーズを担う「衛星観測センター」(https://www.nies.go.jp/soc/)も位置付けられています。このように地球システム領域全体として、地上観測、船舶観測、航空機観測、衛星観測といった多様な観測プラットフォームによって得られる観測データを国際連携に基づき標準化された手法で整備し、そのデータを使って地球表層におけるさまざまな現象の解明や将来予測、リスク評価を行うことができる組織になっています。
地球システム領域のメンバーは、これからも国内外の研究者や機関と協力し、研究成果を最大化すると同時に、得られた成果やデータをこれまで以上に迅速に幅広くお伝えしていきます。科学的知見やデータについては国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の国際枠組みへも積極的に発信します。以上の活動を通して、私たちはこれからも持続可能な地球環境と人間社会の実現に貢献していきたいと思います。