2014年4月号 [Vol.25 No.1] 通巻第281号 201404_281006

【最近の研究成果】 気候変化による灌漑水源とその水量への影響

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員 眞崎良光

灌漑は、乾燥地や乾季での作物栽培や多毛作化を可能にした。温暖化により農地からの蒸発散量が増えると、農地の土壌水分を保つためには現在よりも多くの灌漑水量が必要となる。しかし、多毛作栽培や灌漑栽培が水資源をどの程度圧迫しているかを検討するための情報が不足している。そこで、現存の多毛作栽培や灌漑農地を将来にわたって維持する場合、作物生育に必要な水量を、生育期間中の蒸発散量に着目して水源(降水・河川から取水する灌漑水・河川以外から取水する灌漑水[注])別・農地利用(二毛作灌漑地・一毛作灌漑地・天水農地)別に評価し、それぞれの将来変化を調べた。

結果として、地球全体でみると、将来、農地からの蒸発散量の増加が予測されるが、この蒸発散量のうち、降水や河川から取水した灌漑水を起源とする量は、現在と大きく変わらない。これは、地域による違いはあるものの、農地利用ごとに地球全体で平均した降水量や河川流量が、現在と大きく変わらないためである。将来の蒸発散量の増加に応じて、河川以外から取水する灌漑水量を増やさなければならない。特に、灌漑により乾燥地や乾季での作物栽培が可能になった地域(インドなど)では、この傾向が顕著である。

fig

(a) インド南部と (b) ヨーロッパ中部〜地中海沿岸の二つの地域(黒く塗った地域)において水源別・農地利用別に評価した作物栽培期間中の蒸発散量。棒グラフは、過去(左側、1971〜2000年)と将来(右側、2070〜2099年、温暖化が最も進行するRCP8.5高位参照シナリオに基づく予測)を表し、水源別に色分けした。インド南部の二毛作灌漑地では、乾季を中心とする副作物の栽培期間中、河川以外から取水する灌漑水に依存しているが、将来気候下では、さらにその依存度が上がると見込まれる。ヨーロッパ中部〜地中海沿岸の灌漑農地では、将来、降水量が減少すると予想され、河川以外から取水する灌漑水への依存度が上がると見込まれる

脚注

  • 本研究の「河川以外」の水源には、貯水池や地下水、ダム操作により人為的に割増された河川流量などを含む。

本研究の論文情報

地球規模の灌漑用水要求量とその水源に対する気候変化の影響
著者: 眞崎良光, 花崎直太, 高橋潔, 肱岡靖明
掲載誌: 土木学会論文集B1(水工学) 70(4), 「水工学論文集 58」, I_289-I_294, 2014.

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