2013年7月号 [Vol.24 No.4] 通巻第272号 201307_272001

第9回二酸化炭素国際会議参加報告 1 二酸化炭素の最前線

地球環境研究センター 特別研究員 安中さやか

1. はじめに

第9回二酸化炭素国際会議(International Carbon Dioxide Conference: ICDC)が、6月3〜7日に中国北京市で開催された(写真1)。筆者は本会議に出席し、国立環境研究所(以下、国環研)で実施している海洋表層二酸化炭素(CO2)分圧観測をもとにした全炭酸推定に関するポスター発表を行った(写真2)。以下、本会議の概略および本会議で報告された海洋炭素循環に関する最新の研究成果を紹介する。

photo. 会場入り口

写真1第9回二酸化炭素国際会議、会場入り口

photo. ポスター発表

写真2ポスター発表する筆者(右から二人目)

懸念されたPM2.5や鳥インフルエンザ問題をものともせず、400名以上の研究者が参加し、口頭発表が128件、ポスター発表が322件あり、活発な議論が行われた。ドイツ・マックスプランク研究所の Heimannが紹介したICDCの歴史によると、第1回ICDCは、大気CO2濃度の増加が認識され始めた1981年、40名の参加のもと、スイス・ベルンで開催されたが、その後、参加者が増えているとのことで、関心の高さがうかがえる。また、発表も、大気、陸上、海洋におけるCO2研究から、CO2排出を抑えるための政策にも言及する社会学的な研究まで、広範囲に及んでいた。

参加者リストから参加者の所属国を数えてみたところ(図1)、開催国の中国からの参加者が130名と最も多く、北京市のみならず、中国各地から集まっていた。次に多かったのは米国から(73名)で、日本からの参加者は55名で3位だった。ちなみに、国環研からの参加者は、17名だった。

fig. 所属国別参加者数

図1所属国別のICDC参加者数

2. CO2排出量と大気中のCO2濃度上昇 —近年の動向—

イギリス・イーストアングリア大学のLe Quéréは、CO2排出量の年々変化を国別に示した。ヨーロッパ連合(EU)やアメリカの排出量は頭打ちから減少へと転じる一方、中国やインドの排出量は増加している。特に2000年以降の中国の排出量の増加は凄まじく、2006年以降、世界最大の排出国となるとともに、世界全体の排出量が、IPCC第4次評価報告書の予測シナリオよりも速いスピードで増えている原因になっていることを報告した。それに対して、中国からは、これまでは政府のコントロールが効いていなかったことを認め、2030年前後を目安に、対策を取る予定であるとの発表があった(中国・精華大学・Qi)。Le Quéréの一連の研究は、他の多くの発表の中でも紹介されていた。

また、近年、CO2排出量に対して、大気のCO2濃度の増加が少ないとの指摘が多くなされた(イギリス・イーストアングリア大学・Le Quéré、アメリカ・NOAA・Wanninkhof、フランス・LSCE・Ciais、スイス・ETH・Gruber、オーストラリア・メルボルン大学・Raynerなど)。新たなミッシングシンク(missing sink)とも言われ、その原因を探る研究報告がいくつかあったが、まだ、結論は出ていないようである。

3. 海洋のCO2吸収とその時空間変化

海洋は、陸上生態系と並んで、人為起源CO2の二大吸収源であると考えられている。海洋全体では、2GtC前後のCO2を吸収していると見積もられており、吸収域の地理的分布や時間変化の詳細が、徐々に明らかになっている。

大気海洋間のCO2交換を推定する主な手法は、次の二つである。ひとつは、海洋CO2の観測値と、水温や塩分など物理場との関係を統計的に導出する方法(イギリス・イーストアングリア大学・Landschützer、国環研・中岡、オーストラリア・ニューサウスウエールズ大学・Sasseなど)、もうひとつは、モデルに観測値を組み込んで計算する方法(オランダ・SRON・Houweling、国環研・Maksyutovなど)である。しかしながら、両者とも、特に観測数の少ない領域での不確実性が大きく(フランス・LSCE・Peylin、アメリカ・ウイスコンシン大学・McKinley、イギリス・イーストアングリア大学・Watsonなど)、今後の研究の進展が待たれる。

海洋内部でのCO2変動を、海洋の流れ(循環場)や気候変動に結びつけた研究がいくつかあり、興味深かった。全球規模で見た海洋表層から内部への炭素の輸送は、生物活動によるものよりも、海洋循環場に伴うものが卓越しており(フランス・LOCEAN・Levy)、海面から水塊が効率的に運ばれる海域で人為起源CO2の蓄積が見られた(気象研・Ishii)。熱帯太平洋域におけるエルニーニョとCO2フラックス変化の関係(イギリス・イーストアングリア大学・Landschützer、国環研・中岡)や、インド洋南部での風の変化と海洋内部のCO2変動の関係(インド・熱帯気象研究所・Valsala)が報告された。

海面で吸収されたCO2は、全炭酸として海洋の炭素循環に組み込まれる。そこで、筆者は、国環研で実施している海洋表層CO2分圧観測をもとに、2002〜2008年北太平洋域における全炭酸のマッピングを行い、これまでにない精度で推定ができたことを報告した(図2)。そして、全炭酸の季節変動は各領域での生物生産をよくあらわしており、その経年変動は、北太平洋域における卓越した気候変動である北太平洋10年規模変動(Pacific decadal oscillation: PDO)と密接にかかわっていることを示した。

fig. 全炭酸のマッピング結果の一例

図2全炭酸のマッピング結果の一例(2008年12月;単位はµmol/kg)

筆者らの研究室も参加しているプロジェクトの一つであるSOCATは、会議期間中に2011年末までの観測データを対象としたver2がweb公開され、世界中の誰もがデータを取得できるようになった。また、ver3に向けたスケジュールも決まった(イギリス・イーストアングリア大学・Bakker)。

4. おわりに

筆者は、ICDCに初めて参加し、CO2研究に関する世界の最新動向を幅広く知ることができ、近接分野の研究者の間での情報交換が行えたことは、今後の研究を進めるうえで、非常に有用であった。

なお、次回のICDCは、4年後、第1回の開催都市であるスイス・ベルンで、第10回記念大会として開催される。

略語一覧

  • 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)
  • アメリカ海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)
  • 気候環境科学研究所(Laboratoire des Sciences du Climat et de l’Environnement: LSCE)
  • チューリッヒ工科大学(Eidgenössische Technische Hochschule Zürich: ETH)
  • オランダ宇宙研究所(Netherlands Institute for Space Research: SRON)
  • 海洋気候研究所(Laboratoire D’océanographie et du Climat: LOCEAN)
  • 海洋表層CO2統合データベース(Surface Ocean CO2 Atlas: SOCAT)

霞める北京

安中さやか

第9回二酸化炭素国際会議の会場は、オリンピックのメインスタジアム「鳥の巣」のすぐ隣で、周囲は高層のホテル群に囲まれていた。1980年代には60%の人が自転車を使っていたのに対し、現在では、35%の人、つまり600万人の人が車を使っているとの発表があった(ドイツ・ハンブルグ大学・Jiang)が、まさにその通り、道路には車があふれており、道を渡るには、車に轢かれない様に、何度も何度も左右を確認せざるを得なかった。そして、晴れているけど空気が淀んでいるのか、単に曇り空でもやがかかっているのかわからないが、少し離れた建物はぼんやりとたたずんで見えた。活気に満ち溢れた会場との対称的な風景が印象的だった。

photo. ホテル群

ホテルの部屋から見たホテル群

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