2012年11月号 [Vol.23 No.8] 通巻第264号 201211_264002

第3回地球システムモデリング国際会議参加報告 —地球システムモデリングの最新動向—

地球環境研究センター 特別研究員 加藤悦史

1. はじめに

2012年9月17日から21日に第3回地球システムモデリング国際会議(Third International Conference on Earth System Modelling: 3ICESM)が開催された。会議は初回の2003年、第2回の2007年に引き続き、ドイツ・ハンブルクのMax Planck Institute for Meteorologyで行われ、全球気候モデル(Global Climate Model: GCM)および地球システムモデル(Earth System Model: ESM)について最新の研究発表がなされた。

photo. 会議の垂れ幕

会場のMax Planck Institute for Meteorologyの入り口に掲げられた会議の垂れ幕

2. 会議の概要

まずセッションに先立ち、主催者であるMPI for Meteorology所長のMartin Claussenから開会の挨拶があり、同研究所のBjorn Stevensによる講義へと続いた。この講義では、モデル開発初期のSmagorinsky (1963) 論文から始まり、どのようにして全球気候モデルが発展してきたのか、また今後50年の方向性として何があるのかといった話題が繰り広げられ、モデルの階層化によって全球気候モデルの改善を進めていく最新研究の紹介がなされた。

会議は大きく八つのセッションに分かれているが、初日から最終日までの5日間にわたり、すべて全体会議で行われた。まず初めに、季節予報から近未来予測に関するセッションが開かれた。モデルのスキルの評価、気温変動における内部変動と外部強制の関係、データ同化手法、モンスーンの変化、エアロゾルと大西洋の温度の変化、既存再解析データの問題点など、多岐にわたる話題が提供された。二つ目の気候レジームのシフトおよび極端現象のセッションでは、モンスーン、台風などアジアに関連する気候変動の話題、またエルニーニョ、北大西洋の移動性の高低気圧によるストームトラック、第5期結合モデル相互比較実験(Coupled Model Intercomparison Project Phase 5: CMIP5)の気候モデルにおける地域的なバイアスについての解析などの講演が続いた。

2日目後半から3日目前半は、三つ目のセッションとして、雲・対流・全球熱バランスに関するセッションが開かれ、放射と対流に関する話題、アメリカ大気研究センターで開発された地球システムモデル(Community Earth System Model: CESM)の大気モデル(Community Atmosphere Model: CAM5)における雲の再現性改善と20世紀再現実験におけるエアロゾルの影響、CMIP5モデルにおける低層雲分布の話題など興味深い話題が提供された。

3日目途中からは、地球システムモデルにおける炭素など生物地球化学モデルの結合に関するセッションが開かれた。Victor Brovkinの招待講演では、タイムスケールに依存した炭素吸収の変化、窒素とリン制限による炭素吸収への制約、メタンハイドレート・永久凍土における炭素蓄積などの話題提供がなされ、続いてスタンフォード大学のKen Caldeiraにより、地球システムモデル研究の意義についての概念的な整理がなされた。その他の発表では、CMIP 5 ESMの結果を用いたCO2排出緩和時期の解析、CO2以外の放射強制力に関する気候フィードバックの評価、CMIP5 ESM陸域生態モデルにおける窒素制限の推定、MPI-ESMの海洋モデルにおける窒素循環など、各モデリングセンターの最新のESMの紹介がなされた。

4日目には雪氷圏に関するモデリング、成層圏モデリングに関する研究発表がなされた。雪氷圏に関しては、氷床モデリングにおける可変グリッドの有効性、CMIP5 ESMモデルでの海氷の再現性、永久凍土の気候変化への応答などモデリングの改善についての話題、成層圏に関してはモデルによる成層圏・対流圏カップリングの重要性の評価などの話題が印象に残った。

最終日の5日目は、前半は古気候、後半は将来シナリオの統合評価に関するセッションが開かれた。古気候に関しては、CMIP5での将来予測に利用したものと同じ地球システムモデルを利用した、最終氷期最盛期(2万1千年前)、6千年前、過去千年の実験に関するモデル間比較についてなどの発表があり、過去の再現についての議論がなされた。将来に関するセッションでは、招待講演としてDetlef van Vuurenにより、代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways: RCP)シナリオ以降の気候シナリオ構築に向けた、地球システムモデルと統合評価モデルの結合方法についての議論が展開された。とくにエアロゾル排出シナリオ、土地利用シナリオに関する問題点について、統合評価モデルと地球システムモデルのカップリングの方向性についての指摘がなされた。次にWolfgang LuchtからAnthropocene(アンソロポシーン、18世紀後半以降の人類が気候に影響を与えてきた時代)における、“Social Metabolism”(人類の社会・経済活動による物質・エネルギーの変化)概念と、それによる気候と土地利用変化への影響に関する話題、および包括的な影響評価手法の話題が提供された。

各日とも、各セッションに対応する日程でポスター発表が開催され、午後の2時間ほどにわたり、じっくりと研究者間で議論が繰り広げられていた。筆者も将来シナリオに関するセッションで発表を行い、最終日にもかかわらず多くの方と詳細にわたる意見交換を行うことができた。国立環境研究所からは小倉主任研究員も雲・対流・全球熱バランスのセッションにおいてポスター発表を行った。

最終日の統合評価に関するセッションの後、閉会の辞がMartin Claussenよりなされ、気候感度研究の進展、人類を含んだ地球システムモデリングのあり方、気候モデルの力学コアの開発方向性、地球システムモデルのデザインなどのまとめがなされ、5日間にわたる会議が閉幕した。

3. 感想

今回筆者は初めて地球システムモデリング国際会議に参加した。この会議はすべて全体会議で進められるということもあり、地球システムに関する研究の進展と問題点について幅広く知見を得ることができる、非常に重要な会議であることを認識した。地球システムモデル研究は、気候変動の将来予測および影響評価ツールとしても期待される分野である。その一方、それ以前の基礎的な気候力学の理解とモデルの改善についての議論が重要視されていることを、今回の会議において強く実感した。将来予測の不確実性に大きくかかわる、生物地球化学分野のカップリングおよび人為影響のセッションが非常に興味深い話題を提供していたが、会議全体のバランスからみると、もう少しこの分野について多くの時間を割いてもよいのでは、という感想をもった。筆者も地球システムにおける人為影響と気候変動リスク評価分野の研究者として、今後さらに地球システムモデリングに貢献していく必要性があると考えた。

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