ココが知りたい温暖化

Q8二酸化炭素の増加が温暖化をまねく証拠

!本稿に記載の内容は2024年3月時点での情報です

二酸化炭素が増えると地球が温暖化するというはっきりした証拠はあるのですか。

江守正多

江守正多 (国立環境研究所)

はい、あります。過去数十年の間、地球ははっきりと温暖化しており、その主な原因は二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加以外に考えられません。これ自体が、何よりの証拠です。

理論的には温暖化するはず

証拠の話に入る前に、理論的なことを簡単に説明します。

まず、二酸化炭素の分子は「赤外線」を吸収・放出する性質があります。これは、物理学の量子力学という分野で非常によくわかっていることです。赤外線は電磁波の一種で、伝播することでエネルギーを運びます。

地球の表面は赤外線のエネルギーを放出して冷えようとしますが、大気中に存在する二酸化炭素などの「温室効果ガス」が、逃げようとする赤外線を吸収して、また赤外線を放出します。放出された赤外線の一部は地表面に戻ってくるため、温室効果ガスには地表面付近をあたためる効果があります。

実際にはこの過程はもっと複雑です(大気中にはたくさんの二酸化炭素分子があり、赤外線の吸収・放出が繰り返されますし、二酸化炭素分子は周りの窒素や酸素の分子と衝突してエネルギーをやりとりします。他にも水蒸気などの重要な温室効果ガスが赤外線を吸収・放出します)。その複雑な過程を考慮して、大気の中での高さ方向の赤外線のやりとりによって地球の気温が決まることを初めて精密に計算したのが、2021年にノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎さんの研究(Manabe and Wetherald, 1967)です。そして、真鍋さんはその方法を使って、大気中の二酸化炭素濃度が2倍に増えると地表付近の温度が2℃程度上がるという計算結果を得ました。 以上から、理論的には、二酸化炭素が増えると地球が温暖化する「はず」であることがわかります。

実際に温暖化したことが何よりの証拠

ですが、理論的な計算だけでは、現実世界に存在する重要な効果を何か見落としている可能性があるので、決定的な証拠にはならないでしょう。たとえば、真鍋さんの計算で完全には考慮することができない「雲」の変化などの効果によって、二酸化炭素が増えても現実にはほとんど温暖化しないということがあり得るかもしれません。

しかし、決定的な証拠はあります。それは、地球が過去数十年の間に、実際に温暖化したことです。
産業革命から現在までの200年程度(特にはっきりしているのは最近50年程度)の世界平均気温の上昇は、過去2000年程度の中で特異な大きさとスピードであり、自然には起きえない温暖化であることが明らかです。さらに時間をさかのぼっても、過去10万年の間で現在の地球が最も高温であると考えられています。

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図1古気候の記録から復元された世界平均気温の変化(灰色、西暦1−2000年)および直接観測による世界平均気温の変化(黒色、西暦1850-2020)。1850-1900年を基準として気温変化を示す。小氷期(約1400年から約1900年)と呼ばれるような気候変動があったことがわかる。また、約1970年頃(20世紀後半)から気温が短期間で急激に上昇した、最近の温暖化が見られる。IPCC 第6次評価報告書政策決定者向け要約、図SPM1(a)を改変。

その特異な温暖化の主な原因が人間活動(主に温室効果ガスの増加)であることも明らかです。その理由は、他にこの気温上昇を説明できる要因が見あたらないからだけでなく、実際に観測された気温上昇の大きさが、人間活動の効果によって理論的に説明できる気温上昇の大きさと一致するからです(1850-1900年平均を基準とした2011-2020年平均までの観測された世界平均気温変化量が+1.1℃であるのに対して、温室効果ガスの増加による効果が+1.5℃、大気汚染などその他の人間活動による冷却効果が-0.4℃で、差し引き+1.1℃が理論的に説明できる人間活動の効果です。実際には各数値には不確かさの幅がありますが、それを考慮しても人間活動が唯一の主要な要因であることは変わりません)。そして、人間活動の効果のうち、最大の割合(+0.8℃程度)を説明するのが二酸化炭素の増加による効果です。

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図2産業化以前(1850-1900年の平均)を基準とした近年(2010-2019年の平均)までの (a) 観測された世界平均気温上昇量および (b) 推定された各要因の寄与。人間の影響の寄与を合計したもので観測された気温上昇を説明することができ、自然の要因の寄与は小さいことがわかる。IPCC 第6次評価報告書政策決定者向け要約、図SPM2(a)(b)を改変。

人間活動以外では説明できない

人間活動以外に地球の温度に影響を与える要因には、太陽活動の変動、火山の噴火、気候の内部変動(何も原因がなくても自然に生じる変動)がありますが、どれも実際に起きた温暖化を説明できません。 

特に、太陽活動は最近40年程度の期間は長期的に弱まる傾向にあります。太陽活動が弱まると、雲の変化を通じて地球が冷える(太陽系外から地球に降り注ぐ「銀河宇宙線」が増え、それが雲の核になることで雲が増え、日射を遮る)というメカニズム(スベンスマルク効果)が提案され、注目されていた時期がありました。しかし、地球は冷えるどころか逆に温暖化していますので、太陽活動の変化で温暖化はまったく説明できません。 

火山の噴火も火山ガスから生成するエアロゾル(微粒子)が日射を遮って地球を冷やしますので、温暖化を説明できません。地球の内部変動は地球の持つエネルギーを一方的に増やし続けることはないので、やはり温暖化を説明できません。  

仮に、まったく見落とされていた重要な要因がこれから見つかったとしても、二酸化炭素の増加が地球をあたためた効果がどこかに消えてしまうわけではありません。 

なお、二酸化炭素は大気中の0.04%の成分でしかないのに、それが多少増えても温暖化するわけがない、と思う人がいるかもしれませんが、それは錯覚です。大気の主成分である窒素と酸素の分子は温室効果をもちません(つまり、赤外線を吸収・放出しません)。地球大気が持つ温室効果は水蒸気や二酸化炭素といった微量な成分によりもたらされているのです [注1]。そのうち2割程度は二酸化炭素によるものと考えられるので、それが増えれば地球が温暖化するのはまったく不思議でありません。

さらにくわしく知りたい人のために

第1-3版 江守正多(出版時 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室長/ 現在 地球システム領域 上級主席研究員)