ココが知りたい温暖化

Q13カーボン・オフセットって何?

!本稿に記載の内容は2013年10月時点での情報です

「カーボン・オフセット」をすると自分が出した二酸化炭素を帳消しにできるそうですが、本当ですか。また、それに参加するとしたら、どんなことに注意する必要がありますか。

田辺清人

田辺清人 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員(現 公益財団法人地球環境戦略研究機関 上席研究員)

本当です。適切な考え方や手続きに従って行われるカーボン・オフセットは、自分自身の活動に基づく二酸化炭素排出の影響を帳消しにします。また、適切なカーボン・オフセット活動は、日本社会の低炭素化への移行や途上国の持続可能な開発を促進するといった、副次的なメリットももたらすと期待されます。それらを実現するためには、信頼できる民間事業者(カーボン・オフセット・プロバイダー)を選んでオフセット代行を委託する必要があります。

カーボン・オフセットとは何か

窒素酸化物(NOx)など地域的な大気汚染をもたらすガスと違い、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスは地球上のどこで削減しても効果は同じです。このため、地球上のどこか別の場所でCO2を削減することによって、自分自身のCO2排出の影響を帳消しにできます。「カーボン・オフセット」とは、広い意味では、この考え方に基づいて実施されるあらゆる取り組みを指すと考えられます。

環境省は、2008年2月に発表した「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」の中で、次のような意味の説明をしています。まず、自らがどれくらい温室効果ガスを排出しているかを知ることが、カーボン・オフセットの第一歩です。自らの排出量がわかったら、それをなるべく減らすように努力します。しかし、いくら努力しても、日常生活や企業活動からの排出量をゼロにすることはできません。そこで、最後の手段として、自分自身で減らす代わりに、後に述べるような方法によって地球上のどこか別の場所でCO2を減らす活動に貢献します。こうした一連の取り組みが、カーボン・オフセットなのです。

どうやってオフセットするのか

どうすれば、自分自身の排出量を減らす代わりに地球上のどこか別の場所でCO2を減らすことができるでしょうか。さまざまな方法がありますが、よく使われるのは、「排出枠」(排出権とも呼ばれます)を利用する方法です。

現在、一部の国や企業については、国際的な取り決め(京都議定書など)や国内の法律によって温室効果ガス排出量の上限(排出割当量)が決められ、それより多く排出してしまうと何らかの罰を受けます。規制を受けている国や企業は、努力して、設定された上限よりも排出量を少なくすることができれば、排出枠のうち余った分を同じように排出量規制を受けている他国や他社に売ることができます。そして、それを購入した国や企業は、その分だけ余分に、決められた上限以上に温室効果ガスを排出することができます。つまり、一定量の温室効果ガスを排出する枠が売り買いされているのです。この枠が「排出枠」と呼ばれるものです。京都議定書の下では、先進国の企業などが、発展途上国の温暖化対策を支援してそこでの温室効果ガス排出量を減らすことにより、排出枠を新たに作り出して獲得することも可能です。現在、さまざまな種類の排出枠が、国家間や企業間で売買されるだけでなく、商品として市場に出回っています。

排出枠の購入によるオフセット

あなたがカーボン・オフセットによって10トンのCO2排出の影響を帳消しにしたい場合、たとえば、京都議定書の下で有効な排出枠を市場から10トン分購入してそれを無効にすればよいのです。排出枠を無効にするというのは、その排出枠が他者に再度使われることを不可能にする、ということです。京都議定書の下で排出枠を無効にするための手続きは、国際的な取り決めで明確に決められています。排出削減目標を課せられている国は、有効な排出枠を手に入れて使えば目標で制限されている量(たとえば、日本なら「基準年比マイナス6%」として決められている量)以上に温室効果ガスを排出することを許されるのですが、あなたが排出枠を無効にすることによって、少なくとも10トン分はそのチャンスが失われます。各国は自らの排出削減により積極的に取り組まねばならなくなり、結局あなたは10トン分のCO2排出削減に貢献したことになるのです。

排出枠を使うという点で、カーボン・オフセットは、国家間や企業間で行われる排出量取引(排出権取引とも呼ばれます)と似ています。しかし、排出枠を使う動機が、カーボン・オフセットと排出量取引では異なります。排出量取引制度では、国家や企業は何らかの排出規制をかけられており、そこで課せられる目標を達成するために、やむを得ず排出枠を使います。一方、カーボン・オフセットは、他者から何も規制をかけられていない状況で、私たちが排出削減に貢献したいという願いや責任感に基づいて行う自発的な活動であり、その手段として排出枠を使うのです。

実際には、私たち一般市民が、自分自身で排出枠を市場から購入して、国際的に合意された手続きを踏んでそれを無効にして他者が使えないようにする、というのは容易ではありません。このため、私たちのために排出枠の購入や無効にする手続きを代行する民間事業者(カーボン・オフセット・プロバイダー)が次々と誕生しています。カーボン・オフセット・プロバイダーは、さまざまな手続きの代行の対価として私たちが支払う手数料で、利益を獲得します。手数料は、プロバイダーによってさまざまに異なり、また時期によって変動します。

オフセットすべき「自分の排出量」とは

いったいあなたは何トン分をオフセットすべきなのでしょうか。その問いに対して、唯一つこれだけが正しいという答えはありません。カーボン・オフセットとは、他人に強制されて行うものではなく、「地球温暖化問題の解決に貢献したい」という自分自身の意思に基づいて行うものです。私たちの日常生活やレジャー活動からはさまざまな形でCO2が排出されています(図1)。何をもって「自分の排出量」と見なし、そのうちどれくらいをオフセットするか、ということを自分自身の考えに従って決めた後、なるべく正確にその量を計算すればよいのです。

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図1日常生活やレジャー活動におけるCO2排出源と日本人一人あたりの排出量(2007年度)

[注]各活動につき、2007年度における日本全体でのCO2排出量を全人口で割った平均値。ただし、国際航空利用については、全人口ではなく出国者数で割った平均値を示している。なお、これら一人あたり排出量は参考として示したものである。実際のカーボン・オフセットでは自分自身の排出量を計算することが望ましい。

[資料]国立環境研究所・温室効果ガスインベントリオフィスのデータほか、国土交通省「航空輸送統計年報(平成19年度)」など各種統計をもとに作成。

たとえば、「先日の海外旅行は楽しかったが、そのためにCO2を大量に出したはずだ。せめて往復の飛行機からのCO2排出量の一部を、自分の責任分としてオフセットしたい」というケースがあります。一方、「自分のCO2排出活動をなるべく幅広く把握し、そこから出るCO2をすべてオフセットしたい」と考える人も増えているようです。

オフセット対象とすべきCO2排出活動の範囲の設定については、カーボン・オフセット・プロバイダーがさまざまな参考情報やアドバイスを提供しています。また、排出量算定も各プロバイダーのホームページで行えます。

カーボン・オフセットのメリットと課題

カーボン・オフセットは、私たち一般市民が、自らの責任感に基づき地球温暖化問題の解決に貢献したい、という想いを実現するための有効な手段だといえます。この本来意義に加えて、カーボン・オフセットの普及は、

  • CO2排出量の『見える化』の進展を通じて、日本の低炭素社会への移行を促進する。
  • プロジェクト投資や排出枠購入を通じて、開発途上国の持続可能な開発を促進する。

という効果ももつと期待されます。

気をつけるべきこともあります。カーボン・オフセットは、ともすると「お金を払えばいくらCO2を出してもよい」という無責任な取り組みになりかねません。カーボン・オフセットは、そもそも地球温暖化問題の解決のために取り組むものなのですから、まずは自分なりの排出削減努力を心がけることが必要でしょう。

カーボン・オフセット・プロバイダーの選択も重要です。地球温暖化など環境問題に対する考え方や、排出量計算・排出枠調達などに関する専門性のレベルなど、プロバイダーによってまちまちです。選択にあたっては、事業の理念、CO2算定方法とその根拠、排出枠調達方法などの詳細な説明、料金設定(排出枠調達コストとの関係)、オフセット実施の証明・確認方法、などについての情報公開の有無とその内容が判断材料となるでしょう。地球温暖化問題の解決に貢献するためにカーボン・オフセットに取り組みたい、という思いが適切に活かされるよう、各プロバイダーが公開している情報をよく比較して、自分が最もよく共感できる事業者を選択したいものです。

さらにくわしく知りたい人のために

  • 國田かおる編著 (2008) カーボン・オフセット. 工業調査会.
  • 環境省「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」2008年2月
  • カーボン・オフセットフォーラム http://www.j-cof.go.jp/