ココが知りたい温暖化

Q11省エネ製品に買い替えるべき?

!本稿に記載の内容は2013年9月時点での情報です

冷蔵庫などの家電機器は、どんどん省エネ効率がよくなっていると聞きますが、まだ使えるのを捨てるのはもったいない気がします。私はいつ買い替えればよいのでしょうか。

田崎智宏

田崎智宏 循環型社会・廃棄物研究センター 循環技術システム研究室 主任研究員(現 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長)

その製品をどのくらいの頻度で使っているのか、買い替えによってどれだけ省エネ効果が得られるのかなどの条件によって答えが変わるので、一概にはいえません。エネルギー消費を考えるのであれば、環境省の買替判断ツール「しんきゅうさん」を使って判断するのがよいでしょう。ただし、製造時等のエネルギー消費量のデータ取得に限界があって、この量が考慮されていませんので、「しんきゅうさん」の結果で電力消費や温室効果ガスの排出が買い替えない場合に比べて10%以上削減されるかどうかを、買い替えの判断としていただくのがよいでしょう。

環境面から買い替えの是非を判断する方法

新しい省エネ製品に買い替えるべきか、それとも今の製品を使い続けたらよいか、どちらが環境によいのかの判断に用いられる方法は、ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment: LCA)という評価方法、もしくはLCAと同様な考え方をベースにしています。LCAは、製品などが引き起こす環境負荷をその製品の製造段階やその製品に用いられる原料や材料の製造段階、消費者が使用する使用段階、その後の廃棄・リサイクルの廃棄段階などのすべての段階(ライフステージといいます)について求めるものです。これを、買い替えをする/しないというように複数の条件に適用することで、環境負荷の大小を比較・評価することができます。

買い替えを判断する場合は、この「すべての段階」をどの範囲とするかが少し複雑です。単純化すると、現在使用している製品(現保有製品)を継続して使う場合には、図1 (a) の左側に赤で示したエネルギー消費量が今後の製品使用により発生します。一方、省エネ製品に買い替えをする場合には使用時のエネルギー消費量が減るので、右側の赤で示したように、環境負荷は小さくなります。しかし、買い替えで購入する製品を製造するためなどの追加的なエネルギーが消費されますので、買い替える場合には黄色の分を計上する必要があります(正確には、買い替えで購入する製品の製造等のエネルギーをすべて計上するのではなく、比較する年数分だけを計上しなければならないなど、もう少し複雑になります)。そのほか、現保有製品を廃棄するためのエネルギー消費が発生しますが、これは継続使用の場合も最終的には廃棄することとなりますので、両方のケースに計上されます。両者を比較すると、「いつ買い替えればよいか」は使用時と製造時のエネルギー消費の大小関係に大きく左右されることがわかります。この大小関係は製品種や考慮している環境負荷によって異なり、たとえば、ノートパソコンは全エネルギー消費の半分程度、ないしはそれ以上が使用段階以外で発生しており、使用時のエネルギー効率がよほど大幅に改善しない限り、買い替えはお薦めできません。一方、エアコンと冷蔵庫は、全エネルギー消費に比べて使用段階におけるエネルギー消費が占める割合がかなり大きいことに加え、近年の省エネ化が大きく進行しているので、早期の買い替えであっても環境面で有利です。エネルギー資源以外の物的資源消費を考慮した場合でも、この優位性は変わりそうにありませんが、まだはっきりとしたことはいえません。ただし、物的資源の消費については、図1 (b) のように使用時以外での寄与が大きい製品が多く、これを考慮しない場合よりも買い替えのタイミングを遅くすべきということは多くの場合にあてはまることといえるでしょう。

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図1買い替えるべきかを判断するための環境負荷の大小関係の概念図

現状の消費者向け買い替え判断ツールを用いる際の注意点

買い替えの是非を検討したこれまでの研究の多くは、エネルギー資源の消費や温室効果ガスの排出に着目しています。たとえば、消費者向けの買い替え判断ツールとしては、環境省の「しんきゅうさん」があり(末尾の資料を参照)、製品使用中のエネルギー消費を考慮しています。たとえば、家電製品のLCA評価では、全ライフステージのエネルギー消費のうち1割程度までを使用段階以外で発生させています。この約1割のエネルギー消費を考慮しないと、エネルギー消費だけを考えた場合でも、本当によい買い替え時点よりも早く家電製品を捨ててしまうことになります。「しんきゅうさん」の結果で、買い替えによる電力消費や温室効果ガス排出の削減量が買い替えない場合の10%以上であるかどうかを、買い替えの判断としていただくのがよいでしょう。

実際の買い替え判断はさらに複雑

ところで、実際の買い替え判断はさらに複雑です。まず、消費者がその製品をどのくらいの頻度で使っているのか、買い替えない場合にその製品を何年使うのかによっても、図1の黒の部分の大きさが変わりますので、青の部分との大小関係が変わる、すなわち買い替えるタイミングが変わります。たとえば、エアコンの使用段階におけるエネルギー消費量は使用頻度によって倍以上の違いがあります。あまり使っていないものについては遅めに買い替える方がよいことになります。それから、より大型の製品に買い替える場合はエネルギー消費量が増えることも多いので注意が必要です(特にテレビ)。加えて、上述した計算は製品カタログ等に記載されているエネルギー消費量に基づいて行われますが、カタログ値と実測値にはある程度の乖離が生じます。

現在よりもより的確な判断ができるように、メーカーや小売業者等にさまざまな製品の全ライフステージにおける環境負荷データの公開を求めていくことは大切なことでしょう。

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