ココが知りたい温暖化

Q7地球全体の平均気温の求め方

!本稿に記載の内容は2016年6月時点での情報です

地球全体の平均気温はどうやって求めるのですか。観測点のない海洋上や陸上奥地などの気温はどうやって推測するのですか。また、観測点の周囲の環境が変われば、気温データにも見かけの変化が出てしまいませんか。

野沢徹

野沢徹 大気圏環境研究領域 大気物理研究室長 (現 岡山大学大学院自然科学研究科 教授)

地球上に不均一に分布する観測データは、まず緯度5度×経度5度に格子点化され、さらに面積の重みを付けて平均することで、全球平均気温が算出されています。現在、一般的に算出されている地球の平均気温には、陸上のデータだけでなく、海洋のデータも考慮されています。また、観測機器や観測場所、周辺環境などの変化の影響もできるだけ取り除かれています。

陸上の観測空白域はさほど大きくない

温度計による気温の直接観測が世界的に行われるようになったのは1850年頃からですが、現在では世界に7000前後の観測地点が存在しています。地域的な分布にはかなりのばらつきがあり、欧米などでは非常に密に存在している一方で、サハラ砂漠やシベリア北部、アマゾン奥地などでは観測点が少ないです。ただし、これらの地域にも数百kmに一点程度の割合で観測点が存在しますし、観測の空白域は面積的にもそれほど大きくはありませんので、地球の平均気温の算出には大きな影響はないと考えられます。

地球表面の7割を占める海上の気温は海面水温で代用

地球の平均気温を算出する際の海洋上の大気温度は、海洋表層の海水温度で代用されています。海洋表面の水温はさまざまな船舶により観測されており、昔はバケツで海水を汲み上げて計測されていましたが、近年では、エンジンの取水口近くに設置した温度計により計測されています。海洋上の気温も船の甲板上で観測されてはいますが、昼間の気温は船舶のヒートアイランド効果(甲板が日射を受けて熱を帯び、甲板上の大気を暖める効果)の影響を受けてしまうなどの問題があるため、地球の平均気温の算出には用いられていません。しかし、1か月以上の時間スケールを考える上では、海洋表面の水温変動と夜間に観測された海洋上の気温変動がほぼ等しいことが知られているため、海洋上の大気温度として海洋表層の海水温度を代用することに大きな問題はありません。

見かけの変化をもたらす要因には個別に対処

地球の平均気温データに見かけの変化をもたらし得る要因としては、(1) 観測機器の劣化や更新に伴う変化、(2) 観測場所の移動(経緯度や標高)、(3) 観測時刻や月平均値算出方法の変化、(4) 都市化などの観測点周辺環境の変化、が挙げられます。このうち、(1) 〜 (3) については、物理的な考察や統計的推定、変化前後の同時観測などによる補正が行われています。(4) についても、周辺の観測点との気温差が年々増大している地点を除く、などの対応が取られています。これらとは別に、人口や土地被覆、衛星から見た夜間地上光などの分布から都市と田舎を峻別し、平均気温に対する都市化影響の有無を評価する研究も行われています。また、都市によるヒートアイランド効果は夜間の弱風時に顕著であるため、夜間の地上風速データを活用した都市化影響評価も行われています。これらの結果はいずれも、大陸規模以上の空間スケールで平均した気温については、都市化の影響はほとんど無視できることを示しています[注]

地球の平均気温は、格子点化された平年偏差の面積重み付き平均

地球の平均気温を求めるには、まず初めに各観測点の気温の平年値(西暦の一の位が1の年からの30年平均値。たとえば1961〜1990年の30年平均値など)からの差を求めます(これを平年偏差と呼びます)。次に、地球を緯度5度×経度5度に分割した各格子内に存在する観測点の平年偏差を単純に平均して格子点データを作成します。地球の平均気温を求める際に、各観測点の平均気温そのものではなく、平年偏差を用いるのには理由があります。平均気温は観測点の地形や標高にも依存するため、複数の観測点を含む格子の平均気温を定義する際には、このような点も考慮しなければなりませんが、平年偏差であればその必要がない上に、長期的な変化傾向の情報は保持されるからです。格子点化された平年偏差のデータに、各格子の面積の重みを付けて平均することにより、地球の全球平均気温(平年偏差)の時系列を算出します(ここで用いる「全球平均」は、「観測データが存在する限られた格子点の面積重み付き平均」を意味します)。図に示すように、平均操作に用いられる格子点数も現在から過去に遡るにつれて減少していきますが、このような、観測データが地球上の限られた地域にしか存在しないことによる誤差は、せいぜい±0.1°C程度と見積もられています。

figure

(a) 1881〜1910年および (b) 1981〜2010年において、月平均気温データが存在する割合(U.K. Met. Office (http://www.metoffice.gov.uk/) の地球の平均気温のデータを元に作成)。白は3分の1(10年分)未満、黄色は3分の1以上、緑は3分の2(20年分)以上。灰色はデータが存在しないことを示す。近藤洋輝(訳)「WMO気候の事典」を参考に作成

19世紀終盤以降に約0.85°C上昇、主な原因は温室効果気体の増加

このようにして算出されている地球の平均気温からは、19世紀終盤以降(1880〜2012年)に平均地上気温が約0.85°C上昇したことがわかります。この上昇速度は、年輪や堆積物などから推定された過去10000年間の気温変動にも例を見なかったほど急激であったと考えられています。特に、1950年代以降の気温上昇は顕著であり、100年間あたりで1.2°Cも気温が上昇する勢いです。この気温上昇の原因はいったい何でしょうか。気候モデルを用いた統計的推定によれば、近年の気温上昇は、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果気体の濃度増加なくしては説明できないと考えられます。人間活動が気候に重大な影響を与え始めていることは、ほぼ疑いようのない事実であるといえるでしょう。

大陸規模よりも小さい空間スケールで平均した気温には、都市化の影響が無視できない場合があります。例えば、都市化が著しく進展している日本の平均気温には、多少なりともその影響が存在することを気象庁も認めています。

さらにくわしく知りたい人のために

  • 気象庁編 (2015) 異常気象レポート2014(特に1.2節「大気・海洋・雪氷の長期変化傾向」). 気象業務支援センター.(気象庁のウェブサイト http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_change/ からもダウンロード可能)
  • WMO編(近藤洋輝訳) (2004) WMO気候の事典. 丸善.
  • 藤部文昭著 (2012) 都市の気候変動と異常気象(特に第5章「気候変動の信頼性に関する問題」). 朝倉書店.