ココが知りたい温暖化

Q8サンゴの白化は温暖化のせい?

!本稿に記載の内容は2013年10月時点での情報です

最近、温暖化の影響でサンゴが白化しているという報道をよく目にします。今起きているサンゴの白化の原因は、温暖化の影響でしょうか。

山野博哉

山野博哉 地球環境研究センター 衛星観測研究室 主任研究員 (現 生物・生態系環境研究センター 生物多様性保全計画研究室長)

今起きているサンゴの白化に、温暖化による海水温の上昇が影響しているのは間違いないものと思います。ただし、白化を引き起こす原因は、高水温だけではありません。サンゴにとってストレスとなる要因、たとえば淡水や土砂の流入、強光なども白化を引き起こします。白化を防ぐには、温室効果ガスの排出量を減らして温暖化を抑制するとともに、サンゴが受けているストレスを明らかにし、それが人為影響である場合は低減することが必要です。

サンゴの白化はなぜ起こるのか?

今回話題となっているのは、深海にいる宝石サンゴではなく、サンゴ礁を形成する造礁サンゴ(以下、サンゴ)です。サンゴ礁は熱帯や亜熱帯の海岸を縁取り、人々はそれを漁場やレクリエーションの場として利用しています。また、サンゴ礁は天然の防波堤として波をさえぎり、海岸を浸食から守ります。緯度が高くなり水温が下がると、サンゴはサンゴ礁を形成しなくなりますが、日本では日本海側では新潟県佐渡島、太平洋側では千葉県までサンゴの分布が確認されています。サンゴ自体は動物ですが、褐虫藻と呼ばれる藻類を体内に共生させ、その光合成生産物に依存して生きています。サンゴの白化は、環境ストレスにより褐虫藻の光合成系が損傷され、サンゴが褐虫藻を放出することにより起こります。このとき、サンゴの白い骨格が透けて見え、白くなるため白化と呼ばれます(写真1)。環境が回復すれば褐虫藻を再び獲得してサンゴは健全な状態に戻りますが、環境が回復せず白化が長く続くとサンゴは死んでしまいます。

photo

写真11998年の高水温により白化したサンゴ

写真提供:波利井佐紀氏(琉球大学熱帯生物圏研究センター)

ストレスとしてよく挙げられるのは高水温です。近年、サンゴの白化の頻度が増大していることが明らかになり、温暖化による水温上昇との関係が盛んに議論されるようになりました。サンゴの棲息に適する水温は25°Cから28°Cといわれており、30°Cを超える水温の状態が長期間続くと白化が起こります。本州など温帯域では水温が30°Cを超えることはありませんが、平年値より水温が上昇すると、その付近に分布するサンゴが白化を起こしたことが報告されています。このことは、サンゴがそれぞれの環境に適応しており、平年値を上回る水温がストレスとなって白化が引き起こされることを示しています。水温が上がると単純にサンゴの分布域が温帯域に広がっていくというわけではないのです。

温暖化による長期的な海水温の上昇に加え、短期的な海水温の上昇がエルニーニョなどの気候的な原因でも引き起こされます。1997〜1998年に世界的に大規模な白化が起こった年は、高水温がエルニーニョによってもたらされました。沖縄周辺では2001年と2007年夏にも白化が起こりましたが、これは全世界的な現象ではなく、沖縄周辺での暖水塊の発生によるものと考えられています。また、高水温だけでなく、淡水や土砂の流入、強光などすべてのストレスが白化を引き起こします。これらストレスの複合効果も考慮しなければなりません。高水温と強光、高水温と淡水・土砂流入の複合効果によって白化が起こった可能性が指摘されています。

いずれの場合においても、温暖化による海水温の上昇が、背景としてサンゴ白化に影響を与えているのは間違いありません。温暖化による長期的な海水温の上昇に加え、短期的な海水温の上昇、他のストレスとの複合効果を考慮する必要があります。

サンゴの白化は止められないのか?

最近100年間で、海水温は世界平均で0.5°C、九州・沖縄周辺では0.7から1.1°C上昇しています(気象庁・海洋の健康診断表より)。海水温が上昇を続ける中、サンゴの白化は止められないのでしょうか? 白化を食い止めるためには、サンゴ自身の適応と、人間活動の両方が鍵となります。

遺伝子を用いた分子系統学的研究により、サンゴに共生している褐虫藻には、少なくとも五つのタイプがあることが明らかになっています。サンゴの中にも種によって白化しやすいものとしにくいものがあったり、また、同じ種の中でも白化しやすいものとしにくいものがあったりします。こうした環境ストレスに対する感受性の差は、サンゴに共生している褐虫藻のタイプの違いによるものであり、サンゴは白化することにより、温度耐性の弱い褐虫藻を放出する一方で、温度耐性の強い褐虫藻を獲得し、白化前より高水温ストレスに強くなるという仮説が提唱されています。白化が環境変動に対するサンゴの適応的な応答を示すものであるとしたら、白化後に温度耐性の強い褐虫藻を獲得することにより、サンゴは海水温の上昇に対して適応できる可能性があります(図1)。

figure

図1サンゴの白化する水温(直線と点線)と将来の海水温(上下している線)

(a) サンゴが海水温の上昇に適応できない場合。将来的にすべてのサンゴが白化してしまう可能性がある。(b) サンゴが温度耐性の強い褐虫藻を獲得することにより海水温の上昇に適応する場合。点線は、サンゴが白化後死んでしまう水温を示す。

出典:Hughes et al., Science, 301, 929-933, 2003.(American Association for the Advancement of Scienceより許可を得て転載)

もちろん、われわれは、サンゴ自身の適応力に期待するばかりではなく、対策を考える必要があります。前述のように、白化は、高水温と他のストレスの複合影響としてもたらされる場合があります。たとえば、1998年に沖縄県石垣島で起こった白化は、梅雨期の降水に伴う淡水・土砂流入と、エルニーニョ現象によりもたらされた高水温の複合によるものである可能性が指摘されています。複合影響を実験的に明らかにするとともに、白化の起こった場所の情報を広く収集し、ストレスとなる地域的要因を特定して、土砂流入など人為影響がある場合はそれを低減する努力が白化を減らすために即効性のある対策となるでしょう。インターネットの普及にともない、サンゴ礁に関して、白化をはじめとした広域のデータの収集とデータベース化が進んでいます(環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター http://www.coremoc.go.jp/、ReefBase http://www.reefbase.org/など)。また、人工衛星のデータを用いて広域で白化を検出する研究もなされています。こうした広域のデータに基づいて、周辺の環境と対応させることにより、白化を起こす地域的要因を明らかにすることが必要です。

さらにくわしく知りたい人のために

  • 日本サンゴ礁学会「サンゴ礁Q&A」http://www.jcrs.jp/wp/?page_id=622
  • 土屋誠 (1999) サンゴ礁は異常事態. 沖縄マリン出版.
  • 茅根創, 宮城豊彦 (2002) サンゴとマングローブ. 岩波書店.
  • 環境省・日本サンゴ礁学会 (2004) 日本のサンゴ礁. 環境省.
  • 琉球大学21世紀COEプログラム編集委員会 (2006) 美ら海の自然史—サンゴ礁島嶼系の生物多様性. 東海大学出版会.