NEWS2021年3月号 Vol. 31 No. 13(通巻364号)

令和2年度スーパーコンピュータ利用研究報告会を開催しました

  • 地球環境研究センター 研究支援係

地球環境研究センターは、令和2(2020)年12月23日(水)に「令和2年度スーパーコンピュータ利用研究報告会」を開催しました。この報告会には、毎年、多くの関係者にご参加いただいていましたが、令和2年度は、COVID-19(新型コロナウイルス)の感染状況に鑑み、オンラインのみでの開催といたしました。

国立環境研究所では、将来の気候変動予測や炭素循環モデル等の研究開発、膨大なデータを扱う衛星データ解析、その他の基礎研究などを支援する目的で、スーパーコンピュータ(以下、スパコン)を所内に整備・運用し、所内外の環境研究者に計算資源を提供することによって、スパコンがなければ実現できない研究成果を生み出してきています。

特に、平成27(2015)年6月より6年半の期間にわたって運用されたNEC SX-ACE機に代わり、令和2年3月2日からは新しい機種 NEC SX-Aurora TSUBASAが稼働しましたので(写真1)、さらなる研究の進展が期待されているところでもあります。

写真1 令和2年3月から稼働のNEC SX-Aurora TSUBASA。理論演算性能は、旧機種に比較して約6.3倍の622.8TFLOPSであり、今後の研究成果が期待される。

研究所のスパコンの利用・運用方針などは、「スーパーコンピュータ研究利用専門委員会」により審議を行い、その意見を踏まえて、所内外のスパコン利用希望ユーザーから申請された研究課題について、スパコン研究利用の可否を判定しています。そして、利用が認められたユーザーには、年に一度、当報告会での報告が義務付けられています。

報告は、毎年、所内及び所外利用の課題代表者(またはその代理)によって行われています。今回は、所内7、所外2、合計9課題における最新の研究成果が報告されました。

大気海洋結合モデル相互比較プロジェクトフェーズ7(CMIP7)に向けて温暖化予測モデルの雨と雪を予報変数として取り扱う試みや、雲が大気微量成分の光解離に及ぼす影響を取り入れる試みなど、新しい視点からのモデル開発に関する報告が行われました。

また、大気汚染予測モデルを伊那盆地に適用した例、瀬戸内海の水質予測に開発してきたモデルを全国の閉鎖性水域に展開した例、陸域統合モデルによって世界の干ばつ日数を予測した例(図1)など、これまで開発してきたモデルを利用して研究を発展・展開させた報告もありました。

図1 2100年における夏季(6月から8月)の干ばつ日数の変化。色の種類で、日数の相対的な変化(%)を示す。例えば干ばつ日数が100%増加する場所では、干ばつ日数が現在の2倍になる。相対的な変化の値は、分析に使った20アンサンブルメンバー(5つの影響評価モデル×4つの気候モデル)の平均値を表す。また、分析に用いた複数のモデル結果の、干ばつ日数変化が増えるか減るかの一致度を、色の濃さで表す。例えば、80%以上のモデルで干ばつ日数が増える(あるいは減る)と予測された場合に、最も濃い色で示す。画像拡大
図2 逆解析で推定されたCO2フラックスの長期変化(2005-2019年と1990-2004年の平均値の差)を表した図。赤、緑はそれぞれ放出が増加または吸収が減少、吸収が増加または放出が減少していることを示す(図1とは異なる課題の報告から)。

オンライン会議という初めての試みにもかかわらず、例年と同様かそれ以上に、研究利用専門委員会委員および参加者からの活発な質疑応答があり、さまざまな立場からの貴重な意見が出されて、スパコン利用をさらに発展させ、環境研究を進める機会とすることができました。また、これらの研究成果が、現在の環境研究におけるスパコンの重要性をあらためて示したと思われます。

なお、当日報告された内容の詳細については、地球環境研究センターのウェブサイト(http://www.cger.nies.go.jp/ja/supercomputer/ws/r2/)をご参照ください。また、こちらのサイト(http://www.cger.nies.go.jp/ja/supercomputer/)には、過去の報告会における発表内容に関する情報が掲載されています。