RESULT2021年3月号 Vol. 31 No. 13(通巻364号)

最近の研究成果 土壌炭素プールの予測とその不確実性:最新の地球システムモデルに関する分析

  • 伊藤昭彦(地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室長)

土壌には大気中の二酸化炭素(CO2)の約3倍に相当する炭素が存在しており*1、その変化は将来の温暖化に影響を与えます。そのため、気候予測に用いられる地球システムモデルには、土壌炭素プールとその環境変化への応答が組み込まれています。本論文では、IPCC第6次評価報告書に向けて行われた地球システムモデルによる実験結果*2に基づき、土壌炭素プールの現状と予測結果を比較しました。

日本で開発されたMIROC-ES2L(参考)を含む15モデルの結果を用い、土壌炭素の全球総量、ターンオーバー(土壌中での滞留時間)、将来シナリオ条件下での変化などを分析しました。まず現状において、土壌炭素の総量にはモデル間で3,200~29,640億トン(炭素重量ベース)にわたる差違が見られましたが(図)、その主な原因はターンオーバー時間に関する観測的な知見が不足しているため、モデル間でその設定値が大きく異なるためと考えられました。

参考
伊藤昭彦ほか「最新の地球システムモデルで再現された土地利用変化の影響」地球環境研究センターニュース2020年12月号

 地球システムモデルによる全陸域の土壌炭素の推定結果。(a)土壌炭素の平均的なターンオーバー時間、(b)土壌炭素プールの総量。各パネル中の横線は、観測などに基づく既往研究の推定値を示す。cCwdは倒木などの粗大枯死物、cLitterは落ち葉などの小さな枯死物、cSoilは腐植などいわゆる土壌層の炭素プール。

次に将来シナリオ下では、土壌炭素は多くのモデルで増加傾向が見られ、不確実性は残されているものの土壌による温暖化への緩和効果を示唆する結果でした。ゼロエミッションなど温暖化抑制の目標を達成するには、適切な管理により土壌を活用し、その予測に用いるモデル精度を向上させていく必要があります。