2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号 201302_267007

太陽からの放射エネルギーの観測と利用 —地球観測連携拠点(温暖化分野)平成24年度ワークショップ開催報告—

地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁
地球環境研究センター 高度技能専門員 会田久仁子

1. はじめに

地球温暖化に対する緩和策や適応策を推進するためには、気候システムのメカニズムを理解し、温暖化の実態や影響を把握することが不可欠です。太陽の放射エネルギーは、大気や地表面におけるエネルギー収支等を通じて気候システムを駆動する一方、太陽光発電等による再生可能エネルギーの生成を通じて緩和策につながっています。

「地球観測連携拠点(温暖化分野)」(以下、連携拠点[1])の事務局である、地球温暖化観測推進事務局(Office for Coordination of Climate Change Observation: OCCCO)では、一般の方から研究者までを対象とした温暖化の観測に関するワークショップを、平成19年度より毎年開催しています[2]。平成24年度は「太陽放射エネルギーの観測と利用」をテーマに、(1) 気候システムの理解と気候変動の監視、(2) 再生可能エネルギー分野、のそれぞれにおける観測データの活用という観点から、観測の現状と課題について紹介するワークショップを平成24年11月15日(木)に東京で開催しました。以下、概要について報告します。

2. ワークショップ概要

冒頭、環境省・気象庁を代表して、環境省地球環境局の辻原浩研究調査室長(森芳友研究調査室長補佐代読)より開会のご挨拶がありました。続いて、東北大学の早坂忠裕氏より、太陽放射エネルギー観測の歴史・現状と課題に関する基調講演が行われました。気象分野では太陽放射のうち短波長域のエネルギーを「日射」と呼びます。早坂氏は、日射計のしくみと日射観測の精度を統一する世界放射基準、地上および衛星データを用いた日射量の測定、雲やエアロゾル(粒子状物質)の日射への影響、分光(波長別)観測における校正の問題等を紹介しました。最後に、気候変動研究の進展に伴い、日射にかかわる分野が気象学から植生、生態学、炭素循環、再生可能エネルギー等へ拡大していることに触れ、日射観測手法の標準化とデータの活用に向けた異分野交流が重要であると締めくくりました。

photo. 早坂氏

ワークショップの様子(早坂氏による基調講演)

次に、太陽光発電における太陽放射エネルギー利用の現状と課題について、産業技術総合研究所の大関崇氏より基調講演がありました。大関氏はまず、太陽光発電の基礎と最近の動向、技術的課題等を紹介し、発電コストを下げつつ導入量を増やすためには、日射および気象データを用いた発電量の推定や発電システムの遠隔故障診断が非常に有用になると説明しました。さらに、発電量の短時間予測では雲の影響を考慮した数値気象モデルの開発、広域予測では衛星データを用いた発電量マップの作成等、具体的な応用例を紹介し、エネルギー分野と気象分野の共同研究が今後重要になると述べました。

続いて、3名の専門家より太陽放射エネルギー観測に関する最新の話題について講演がありました。気象庁の大河原望氏は地上における日射観測を対象に、気象庁の観測地点数や使用測器の変遷、地球環境の監視を目的とする全球的な地上放射観測網と気象庁の貢献、日射の微弱な変化を精度よく均質の感度で測るために必要となる国際的な観測基準と日射計の校正体系の維持等について紹介しました。また、平成24年5月21日の金環日食の最中に気温が低下した例をあげ、大気現象に大きな影響を与える日射の長期観測は、温暖化予測の精度向上にとっても重要となる点を強調しました。

宇宙航空研究開発機構の村上浩氏は、太陽放射エネルギーにかかわる衛星からの観測について講演しました。大気中の温室効果ガスや水蒸気量、雲・エアロゾル分布、地表面被覆の状態等、観測対象に応じて衛星センサの波長帯を設定し、複数の波長における光量を組み合わせてさまざまな物理量を推定すること、推定精度の向上に向けて、衛星センサの校正と地上観測データとの比較検証に加え、衛星と地上で一貫・継続した校正と運用が必須であり、そのために大気・生態系等多岐にわたる分野の地上観測ネットワークと連携してセンサ開発に取り組んでいることなどを紹介しました。

千葉大学の高村民雄氏は、大気の濁り具合(光学的厚さ)や光の散乱の強さ等を左右して日射に大きな影響を与える、雲とエアロゾルの観測について講演しました。スカイラジオメータ等を用いて国内外の雲・エアロゾルの高度分布や性質などを監視する地上観測ネットワーク「SKYNET」の紹介に続き、日射量分布の推定では、地上・航空機観測データを用いて衛星による広域観測結果の比較検証や大気モデルによる解析結果の校正を行う例などを紹介し、最後に、大気に関する温暖化影響の評価から再生可能エネルギーに対する貢献まで、SKYNETの成果を広く社会に役立てたいと締めくくりました。

連携拠点ワークショップでは、長期継続観測を目指した機関間・分野間の連携の在り方に関する総合討論を毎年行ってきました。気候変動の監視という点では、太陽放射エネルギーの観測は長期的かつ継続的に行われることが重要です。今回の総合討論では、太陽放射エネルギーの長期継続観測に向けて解決すべき技術的課題や連携方策等について講演者と参加者の皆様にご討論いただき、以下のようなご意見をいただきました。(1) 情報共有:太陽放射エネルギーの観測に関する情報の収集と共有が非常に重要。どこにどのようなデータがあるかをまとめたポータルサイトがあるとよい。(2) 連携:太陽放射にかかわる異分野の研究者同士が、共通の目的や研究を通してつながるしくみがあるとよい。観測の業務機関と大学・研究機関の連携が重要。省庁を横断した連携が可能になれば長期継続観測が可能となる。(3) 校正技術:気象庁の測器校正技術を他機関にフィードバックできるとよい。産業技術総合研究所は分光スペクトルの測定で貢献が可能。

これまでのワークショップでは、総合討論の内容を今後の「取り組み」として取りまとめて文部科学省科学技術・学術審議会の地球観測推進部会へ提出し、毎年度の「我が国における地球観測の実施方針」に反映されるよう努めてきました。平成24年度もワークショップ総合討論の取りまとめを作成し、次年度の実施方針に反映されるよう提出準備を進めてまいります。

3. おわりに

ワークショップ当日は、太陽放射や太陽光発電の観測・研究・業務関係者を中心に、行政・教育・研究機関の関係者、企業ならびに一般より約130名の参加がありました。私たちにとって非常に身近な存在である太陽からの放射エネルギーの観測について、本ワークショップをきっかけに興味や理解が深まり、観測技術やデータの共有等、組織・機関の垣根を越えた連携が進展することを期待しています。

最後になりましたが、ワークショップ開催にあたり、多くの方々にご支援とご協力を賜りました。この場をお借りして、篤く御礼申し上げます。今後も連携拠点へのご支援をよろしくお願いいたします。

脚注

  1. 第42回総合科学技術会議(平成16年12月)で取りまとめられた「地球観測の推進戦略」の中で、地球観測の統合的・効率的な実施を図るために関係府省・機関の連携を強化する推進母体として、連携拠点の設置が提言されました。地球環境問題の中でも特に重要な地球温暖化分野の連携拠点については、気象庁・環境省が共同で運営することとし、平成18年度から活動を開始しました。
  2. 過去に開催した連携拠点ワークショップの情報をOCCCOのウェブサイトに掲載しています。​http://occco.nies.go.jp/activity/event.html

目次:2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号

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