2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号 201302_267004

アジア低炭素社会に向けた道しるべ—低炭素アジアに向けた10の方策 シンポジウム『アジア低炭素発展への道』開催報告

社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 研究員 芦名秀一

1. はじめに

目的地はわかっているけれども、そこにどのように行けばよいのかわからない—そのような時に道しるべがあると大変に有用です。私たちは、2009年度より環境省の環境研究総合推進費(S-6)の一環として、アジア低炭素社会に向けた「道筋」に関する研究を進めてきました。2012年度の研究成果として、アジア低炭素社会に到達するためにはアジア全域で何をすべきか、また、政府、産業界、市民、国際社会などの各主体はどのような役割を演じるかについての道しるべ(方策)を「低炭素アジアに向けた10の方策」としてとりまとめました。この10の方策を、広くアジア低炭素社会実現にかかわる関係者に広めることを目的に、10月30日にイイノホールにて「アジア低炭素発展への道」と題したシンポジウムを開催いたしました。

シンポジウムでは、環境省の関地球環境局長および国立環境研究所大垣理事長より開会の挨拶があり、引き続いて、社会環境システム研究センターの甲斐沼フェローよりアジア低炭素社会研究プロジェクトの全体像が紹介されました。次に、社会環境システム研究センターの増井室長より10の方策についての概要が紹介され、その後に、各方策を実際に担当したチームのリーダーおよび筆者を含めた担当者から、方策の内容が具体的に説明されました(写真)。シンポジウムの詳細は、ウェブサイト(http://2050.nies.go.jp/sympo/121030/)をご覧下さい。

photo. 林良嗣教授

写真方策1「階層的に連結されたコンパクトシティ」を紹介する交通チームリーダー林良嗣教授(名古屋大学)

2. 「低炭素アジアに向けた10の方策」とは

2005年の世界の温室効果ガス(GHG)排出量のうち、アジアの排出量は全体のおよそ36%を占めています。アジア地域では、今後急速な経済発展が見込まれており、そのシェアはさらに拡大するといわれています。そこで、地球全体の平均気温上昇を2℃までに抑制するのに必要となる2050年までに世界全体の排出量を半減させるような低炭素社会を実現するためには、アジアにおける排出削減が大きな鍵を握るといえます。エネルギー多消費型の社会に向かっていく前にアジアが低炭素型の社会に移行する取り組みを行っていく必要がありますが、そのためには技術的政策や制度、政策をどのように組み合わせて実施していくのが望ましいのか、その手順をまとめた道しるべを明確に示していくことが重要といえます。

しかし、低炭素社会への転換は容易ではありません。中央・地方政府、民間企業、NGO・NPO、市民の誰かが行動を起こすだけで実現できるものではなく、各主体が長期的な視点から目指す社会の姿をしっかりと見据えて、それぞれの役割を強く認識しながら協力して取り組み、国際的な場でもそれを後押ししていくことが不可欠といえます。低炭素アジアに向けた10の方策は、このような観点から、アジアが低炭素社会に向かうためにいつまでに誰がどのような行動を起こすべきかを10個の方策としてとりまとめたものです。

図に、10の方策の全体像を示します。方策1から方策6までは主に資源やエネルギーの利用に伴う二酸化炭素(CO2)の排出量を対象とした方策です。方策7はアジアの農業からのメタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)の排出抑制を目指したもので、方策8では土地利用起源のCO2排出・吸収源対策をとりまとめています。また、方策9、10は直接排出削減に貢献するわけではありませんが、方策1から8を実施するための基盤となる横断的な方策で、それぞれの方策を下支えする役割を担っています。

fig. 10の方策

低炭素アジアに向けた10の方策

都市交通では人口減少を見越した空間、インフラを整備していくこととして、コンパクトで階層的な中心機能配置やシームレスな階層的交通システムの形成を方策1で取り上げています。資源については、方策3で資源の利用を画期的に減らすものづくり、寿命を長くするもの使い、資源を繰り返し使うシステムづくりが重要な点としてあげられています。エネルギーシステムからのCO2削減方策は方策4から6で示されており、まずは省エネルギーによって総量を下げる、次に再生可能エネルギー等の割合を高めていく、そして炭素隔離貯留等でCO2を大気中に出さないようにする、という三点が重要とされています。農業については方策7で水田の水管理技術の普及、適切な施肥と残渣の管理および家畜排せつ物からのメタン回収・利用が具体的な対策としてあげられていますが、同時に農業が対象とする地域の環境風土や経済に強く依存する産業であることから、国レベル状況を考慮した分析が重要ともされています。各方策のさらなる詳細については、アジア低炭素社会プロジェクトウェブサイト(http://2050.nies.go.jp/file/ten_actions_j.pdf)をご参照ください。

3. おわりに

日本を含めたアジアが低炭素社会に向かうためには、社会全体での取り組みが必要となります。また、将来の低炭素社会に向けた道筋は、GHG排出量削減だけはなく、人口減少や高齢化といったさまざまな問題を同時に解決できるものである必要があります。

アジアは多様ですので、すべての国が今回示した10の方策で低炭素社会に移行できるわけではありません。シンポジウムでは、アジアの多様性を認めつつ、各国の実情や将来見込まれる社会・経済の変革も加味したシナリオの必要性や、10の方策を出発点としつつもより具体的な戦略を描くことの重要性が参加者より指摘されました。また、各国政府の役割についても、さらに検討を進めていくことの必要性が指摘されています。今回は、まずアジア全体として見たときの道筋を検討した成果を報告いたしましたが、今後は各国の発展段階や地域の実情に合わせ、低炭素社会に向けて各主体がどのような役割を担うべきかの具体的な戦略も含んだ各国版10の方策の検討を進めていく予定です。

目次:2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号

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