中山忠暢1)
CGERリポート
CGER'S SUPERCOMPUTER MONOGRAGH REPORT Vol.29
本モノグラフ(Part VI, CGER-I167-2023)は、Vol.11 (Part I, CGER-I063-2006)、Vol.14 (Part II, CGER-I083-2008)、Vol.18 (Part III, CGER-I103-2012)、Vol.20 (Part IV, CGER-I114-2014)、及びVol.26 (Part V, CGER-I148-2019)の後続版である。
執筆者が中心になってこれまでに開発してきた水文生態系モデルNICE (National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)は3次元グリッド型の水文生態系モデルであり、様々な植生から構成される自然地モデル・主要作物や灌漑を含む農業生産モデル・管路網や都市構造物を含む都市モデル・ダム操作や水輸送モデル等、様々なサブモデルから構成される。また、NICEは水循環に加えて熱・土砂・栄養塩・炭素循環、及びそれに伴う植生遷移のシミュレーションが可能であり、近年はプラスチック循環への拡張を行っている。執筆者はこれまでに、NICEを用いたシミュレーションによって、地域から全球スケールまでの様々な流域圏(釧路湿原、首都圏、霞ケ浦から全国一級河川流域109水系まで、及び、長江・黄河流域、メコン川流域、シベリア湿原、モンゴルからグローバル主要河川流域まで)を対象に、自然-人間系システムの開発や人為活動が生態系変化に及ぼす影響解析を行ってきた。
本モノグラフ(Part VI)では、急激な経済成長の一方で環境劣化の著しいモンゴルを対象に、NICEとインバースモデルを結合した新たなモデルNICE-INVERSEを開発し(図1)、感度解析や不確実性評価を通して流域から国土スケールにおいて人為活動が水資源の改変に及ぼす影響を評価した結果について紹介している(図2)。同モデルを用いた解析によって、モンゴルの経済的な中核である首都ウランバートル及び南ゴビの鉱山の中核を含む2つの流域(トゥール川及びガルバ川流域)を対象に、人為的活動がこれらの流域の水循環へ及ぼす影響を定量的に評価した(図3)。また、これらの流域でのパラメータの感度解析及び家畜飲水量の時空間変動を逆推定し、急激な都市化と鉱山開発に伴う水循環の改変が定量的に評価され、地域的な水文生態学的劣化と水ストレスの関連性が示唆された(図4)。さらに、NICEをモンゴル全土の29の河川流域へ拡張し、国土スケールでの水資源劣化要因の評価を行った(図5)。
本モノグラフで紹介している手法は、今回対象としたモンゴルのように都市化・農地開発・鉱山開発などの人為活動に伴うインベントリデータの入手が難しい地域において水資源量の時空間的変動を評価するために有効である。また、都市、鉱山、牧畜民、地域社会の間で紛争を引き起こす可能性のある将来の水紛争を予測するとともに問題解決のためにも強力なツールになると思われる。





