北アルプス涸沢雪渓消滅の危機
今年2023年夏は猛暑日が続き、地球沸騰の時代の到来という言葉が脳裏を過ります。地球環境研究センターの気候変動影響モニタリング(高山帯)では山小屋などに自動撮影カメラを設置し、高山帯の融雪や植生活動を観測していますが、北アルプスの涸沢カール*1での観測を2013年に開始して以降、今年は雪渓の減少が非常に早いことが明らかになりました(図1)。
涸沢は北アルプス南部(長野県松本市)の北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳といった3000m級の稜線に囲まれた標高約2300mに位置します。直径約2kmの日本最大級のカール地形に残る越年性雪渓(万年雪)と秋の色鮮やかな紅葉が多くの登山者を魅了しています。ところが近年、この越年性雪渓が消滅の危機に瀕しているのです。
涸沢では毎年10月後半から5月初めにかけて大量の雪が降ることに加えて強風で飛ばされた雪が渓谷に吹き溜まり、さらに雪崩によって雪が谷底に堆積するため積雪の深さは最大で20mを超えます*2。5月以降は気温の上昇につれて徐々に融雪が進みますが、夏でも谷筋などに残っている雪を雪渓といい、夏以降も雪渓が消えずに越年するものを越年性雪渓といいます。雪渓が越年できるかは、その年の積雪量と融雪量の収支で決まります。文献*3によると1970年代には毎年大量の越年性雪渓があり、翌年も融けずに数年分の雪渓が累積するほどでした。
しかし、定点カメラによる観測を開始した2013年以降の12年間で越年したのは2013, 2014, 2015, 2017, 2021年の5回だけで、2018年以降は2021年を除き越年性雪渓が消滅しています(図2)。越年性雪渓が消滅した原因としては積雪量の減少、気温上昇による融雪量の増加、さらにそれらが同時に起きていることも考えられます。また、今年は5,6月に雨が多かったことも融雪の早期化に影響を与えた可能性があります。
山に積もった雪は「天然の白いダム」と言われるように大切な水資源です。今後も雪渓の消滅が続くと、山小屋での水不足や高山植物の乾燥、紅葉への影響などが危惧されます。今後も定点カメラなどを使った高山帯のモニタリングを強化・継続していきます。
北アルプス涸沢については、以下を参照してください。
https://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/mountain/station.html?id=33
気候変動影響モニタリングについては、以下を参照してください。
https://db.cger.nies.go.jp/gem/ja/mountain/