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子どもたちの故郷、波照間での環境研究を伝える
-2022年度波照間エコスクール 現地開催報告-

  • 林しおん(地球環境研究センター)
  • (写真撮影)成田正司(企画部広報室)

6月末に開催された落石エコスクール(北海道根室市)に引き続き、7月7日に波照間エコスクール(沖縄)も3年ぶりに現地開催されました。本開催について、落石、波照間両エコスクールに同行した事務職員からご報告します。

1. はじめに

写真1 波照間ステーション外観
写真1 波照間ステーション外観

波照間エコスクールは、2017年に第1回が開催されました。島内の小学校5・6年生を対象として2年に一度開催し、小学校卒業時にはすべての児童が参加できる、という予定で企画しています。しかしながら、2021年は新型コロナウイルス感染のまん延のため中止せざるを得ない状況となりました。本年、同ウイルスの感染状況と各種制限の緩和を鑑み、3年ぶりに現地開催をおこないました。また5・6年生7名に加え、時間の都合上授業のみではありましたが昨年参加ができなかった中学校1年生4名にも参加してもらうことができました。

2. エコスクール -小中学校での授業-

まずは1限目、波照間小中学校にて授業をおこないました。最初に大気・海洋モニタリング推進室 町田室長から、ステーションの概要と温室効果ガスについての授業がおこなわれました。国立環境研究所があるつくば市、両ステーションがある波照間・落石の位置関係を示し、空気がきれいな波照間での観測がとても大事であること、CO2などのデータを1993年からとっていることについて説明がありました(写真2)。次に、ステーションに設置されている観測機器や観測塔について、何を測定しているのか、どのような構造になっているのかの説明がありました。実際にステーションで観測されたCO2のデータから、CO2の濃度が季節によって増減していることがグラフで示され、夏になるとその濃度が低くなること、その要因は植物の働きにあることも学びました。子どもたちは町田室長お手製のワークシートを使用して、一生懸命答えを記入していました。

また世界で特に権威のある学術雑誌の一つである「Nature」に掲載された論文(2019年5月)*1の中に、“Hateruma, Japan” という言葉が出てくることも紹介されました。この論文は、フロン類の中でも特にオゾン層の破壊をもたらす物質である、トリクロロフルオロメタン(CFC-11)の放出量が2013年から中国東部で増加している可能性を明らかにしたもので、波照間での大気観測データが使用されています*2。子どもたちからは、「波照間」が世界的に有名な雑誌に登場しているという驚きとともに、執筆者の研究者に会ってみたい、という声もあがっていました。

写真2 ステーションについて説明する町田室長
写真2 ステーションについて説明する町田室長

続いて笹川基樹主幹研究員から、PM2.5とは?というテーマで講義がおこなわれました。そもそも「PM」とは?「2.5」とは?という導入の説明から、PM2.5が工場の煙や排気ガスだけではなく、波しぶきや砂粒のような海が身近にある波照間の子どもたちに関わりの深い自然からも発生することが説明されました。また沖縄県が注意喚起を出した場合にどのような行動をすればよいかについて、PM2.5が「非常に多い」と報じられた日の「琉球新報」の記事を取り上げ、身近な事例として説明しました。

さらにPM2.5は、空気中に浮遊する、2.5μmに満たないとても小さな粒子であることから、口や喉を通り過ぎて肺の奥まで入ることができて体にとって危険であること、波照間ではすぐに健康に影響が出る数値が出ているわけではないが、注意喚起が出たらマスク着用などの対策を行うことが重要であることが伝えられました。

「『2.5』とは何を示すか」という笹川主幹研究員からの質問では、「視力!」といった元気のよい答えも飛び出し、子どもたちとコミュニケーションをとりながらの和気あいあいとした授業となりました。またこちらも笹川主幹研究員お手製のワークシートを使用して、わからないところを友だちや先生に聞いたりするなど、積極的に参加する姿が見られました(写真3)。

写真3 PM2.5について説明する笹川主幹研究員
写真3 PM2.5について説明する笹川主幹研究員

3. エコスクール -ステーション見学-

2限目は車でステーションまで移動し、施設の見学をおこないました。4人と3人の二手に分かれて、ステーション内部と観測タワーを交互に見学しました。ステーション、特に観測タワーを間近に見た子どもたちは、「ここに登れるの!?」とドキドキとワクワクが混ざったような様子でした(写真4)。

当日は天気も良く、観測タワーからは波照間島東側を一望できるだけでなく、石垣、波照間間を運航する大型フェリー「ぱいじま2」や、お隣の西表島まではっきりと見ることができました。先生から「今波照間島で一番高いところにいるよ」と聞くと、子どもたちは興奮した様子で周囲を見渡しながら、この塔の上で空気を採取しているという話にしっかりと耳を傾けていました(写真5)。

写真4 いざタワーへ!ヘルメットと軍手をしっかり装着します。
写真4 いざタワーへ!ヘルメットと軍手をしっかり装着します。
写真5 約20mの高さにも「楽しい!」と元気な子どもたち
写真5 約20mの高さにも「楽しい!」と元気な子どもたち

ステーション内に一歩足を踏み入れると、見たことのない機械が並ぶ非日常感あふれる室内に子どもたちは「すごい…」と声を漏らしていました(写真6、7)。機器の説明と共に、小瓶を使った海水実験も体験してもらいました(写真8)。まず、海水を入れた小瓶に指示薬となるBTB溶液を滴下します。この段階で海水は弱アルカリ性を示す青色になりますが、小瓶に息を吹き込んだ後に蓋をして振ると、吐き出されたCO2を海水が吸収し、中性を表す緑、更に息を吹き込むと酸性を表す黄色に色が変化します。次に手で仰いで新鮮な空気を入れて再び小瓶を振ると、海水からCO2が放出され、今度はまた黄色や緑から、元の青色に戻ります。一人ひとりに「海水実験キット」として小瓶を渡して実際に実験をしてもらうと、魔法のような色の変化に子どもたちは大興奮でした(写真9)。

写真6 先ほど学校での授業で聞いた観測機器を間近に見ながら、しっかりと説明を聞く子どもたち
写真6 先ほど学校での授業で聞いた観測機器を間近に見ながら、しっかりと説明を聞く子どもたち
写真7 引率の先生も興味津々のようです
写真7 引率の先生も興味津々のようです
写真8 笹川主幹研究員の説明を真剣に聞く子どもたち
写真8 笹川主幹研究員の説明を真剣に聞く子どもたち
写真9 色が変わった!!
写真9 色が変わった!!

4. おわりに

2022年度は、地球環境モニタリングステーション波照間(以下:ステーション)竣工30周年という記念すべき年でもあります。エコスクールと合わせ、7月8日と9日には一般の方を対象とした記念講演会、ステーションの一般公開も開催されました。(記念講演会、一般公開の様子は地球環境研究センターニュース11月号でご報告いたします。)

一般公開開催中、エコスクールに参加した生徒さんの一人が、保護者の方と一緒にもう一度ステーションに足を運んでくれました。エコスクールの大きな目的は、子どもたちに自分の住む波照間にどんなものがあり、どんな研究がおこなわれ、それがどのように活かされているのか知ってもらうことにあります。さらには今回のように子どもたちから家族につながることで、ステーションの役割と国立環境研究所の活動をより広く知っていただくことができます。今回のエコスクールによって、「島の東端にある何か」だったステーションが、「環境研究を支える大事なもの」であることを、子どもたち、先生をはじめとしたたくさんの人に知っていていただくことができ、現地開催の大きな意義を感じました。

国立環境研究所には、約50名の事務系職員が所属しています。研究ユニットに入って業務を行う部署の他、会計、人事、広報など、多岐にわたる業務をおこなっています。事務職員の業務は、仕事と研究のつながりが見えづらく、ややもすると単調で機械的な仕事運びになりがちです。

写真10 ステーション前で集合写真(撮影時のみマスクを外しています)
写真10 ステーション前で集合写真(撮影時のみマスクを外しています)

私は、この4月に地球システム領域に着任しました。着任前にも落石、波照間のステーションの業務にかかわったことはありましたが、両ステーションのエコスクールを連続して経験したのは初めてです。いずれも人里から離れた日本の端での観測、地元の方のサポート、ご理解なしに進めることは困難です。特に波照間は石垣島からさらに船で移動するいわば「離島の離島」であり、台風被害、塩害対策など難点は多岐にわたります。地球システム領域着任前に来たステーションは、どこか少し「研究内容を学ぶ側」という気持ちの方が強かったような気がしますが、着任後は自分の仕事が「研究を進める側」であることを肌で感じました。研究現場で熱意をもって話を聞く子どもたちを目の前に、自分が子どもたちの未来にとって重要な仕事をしていることや、一つのメール、電話、書類がどれも大切な研究につながっていることを、今回のエコスクールを通じて再認識することができました。

事務職員のひとりとして環境研究の一端を担いたいと願って入所した初心を忘れず、引き続き地球システム領域の職員として日々の業務に邁進していきたいと思います。

最後に、今回のエコスクール、並びに日々のステーション運営にご理解・ご協力いただいている皆様に、改めて心より御礼申し上げます。今後とも波照間ステーション、国立環境研究所の研究へのご理解・ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。