そこは、西郷の港に架かる西郷大橋から見えるすこし小高い山の上にある加茂のNTTの無線中継所です。向井さんは、まだ国設の酸性雨局がないころから観測を始め、その当時、島根県の方々やNTTの局にも大変お世話になり、観測が実現したそうです。この場所は今は、ほとんど人も行かないような場所ですが、当時は見晴らしが良かったので、島の人も非常にたまにですが来られていたようです。そこは海抜200mの山頂となっており、NTTが本土と隠岐島後をマイクロウェーブで結ぶ中継所となっていました。サンプラーの保守の点から中継所内に場所を借用して電源は仮設電源を配備し用いていました。15年程度ここでやっていましたが、その内、酸性雨局ができ、そちらのメンテナンスも保健所の方がやっていたということで、場所を移動しました。
ちょっとした山道なのですが、ここで昔観測に来ているときに、車のバッテリーが上がって動かなくなって、偶然来た人に助けてもらったりもしました。隠岐島の人にはお世話になりっぱなしです。そういえば、隠岐には毎年来ていたのですが、最終的には、一つの民宿が常宿になっていて、そこのおかみさんの田中さんには、お世話になりました。ちょっと行ってみましょうか?
こんにちは。
久しぶりに、突然お邪魔したにも関わらず、いつものように暖かく迎えてくれました。
ありがとうございました。もう民宿はやっていないそうで、この部屋でいつも夕飯をいただいていました。
ところで向井さんが初めて隠岐島にきたのは?
1983年です。今から33年前です。
隠岐島の人たちはゆったりとしておおらかな優しい雰囲気がしますが、この風土によっているのでしょうか。
そうですね。例えば、隠岐は牛付きが有名ですが、スペインの闘牛のように最後までは闘わせないそうです。牛が負けたのを意識してだめになってしまうから、最後までは闘わせないそうです。
大気の他の観測とかはやってないんですか?
すこし、酸性雨や雪の研究もやりました。よく壇鏡の滝に行って水のサンプリングもやりましたね。隠岐島は、八百杉もそうですが、杉がたくさんあって、壇鏡神社にも杉がたくさんありますね。隠岐サンショウウオなんかもいるんで、自然保護が重要です。この水は環境省の日本の名水百選にも入っていますね。滝が雨のように落ちて裏から見えるようになっていたんですが、今は危険なので入れないようになっています。隠岐に降る雪はpHでは低い時は4.5ぐらいの酸性度だったので、こういった自然の酸性化が進まないかどうかが心配でしたが、土壌の中和力は比較的高くそれほど問題にはならないという状態でした。
この隠岐島で採取したフィルターサンプルなんですが、いまどうなってるんですか?
このフィルターなんですが、実は国立環境研究所の試料庫とタイムカプセル棟の中に眠っているんです。
いったいどこに?
それは、研究所に帰ってから、お連れしましょう。