グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)から「世界のCO2収支2025」が公開されました
グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP: Global Carbon Project)はフューチャー・アースの研究プロジェクトの1つであり、世界気候研究計画(WCRP: World Climate Research Programme)とも連携している国際研究プロジェクトです。GCPは、生物活動と人間活動、両者を含む地球上の炭素循環や、両者の間の相互作用、フィードバックを包括的に把握することを目的としています。
GCPは毎年、世界の二酸化炭素(CO2)収支(または炭素収支)について、様々なデータ・手法を統合し、定量化した結果を「世界CO2収支」(GCB: Global Carbon Budget)として報告しています。2025年の報告(GCB2025)は、2006年の初回から始まって20回目のもので、130人以上もの科学者が参画しています。この中には、国立環境研究所(NIES)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、気象庁(JMA)、気象庁気象研究所(MRI)、エネルギー総合工学研究所(IAE)、東京大学(UT)の科学者が含まれており、大気・海洋のCO2観測や海洋フラックスマッピング(JMA, MRI, NIES)、海洋生物地球化学モデル(MRI)、地球システムモデル(JAMSTEC)、大気―海洋・陸域間のフラックスインバージョンモデル(NIES, JAMSTEC)、陸域生態系モデル(IAE, UT)といった観測・数値モデルで貢献しています。
図中の値は人間活動に起因するフラックス・蓄積量(単位:10億トン/年(炭素換算))を表しており、GCB2025で推定された2015-2024年の間の平均値。
2024年のCO2収支
化石燃料起源の排出量は2023年から1.1%増加し、103 ± 5 億トン/年(炭素換算)(セメントの炭酸化による吸収量2億トン/年を含む)となる一方、土地利用変化に伴う放出量は13 ± 7 億トン/年(炭素換算)と推定されました。したがって、合計の人為起源放出によるCO2放出量の推定値は116 ± 9 億トン/年(炭素換算。CO2換算の場合は424 ± 32 億トン/年)となります。 大気への蓄積量は79 ± 2 億トン/年(炭素換算。濃度増加率では3.73 ± 0.1 ppm yr-1)と2023年と比べて22 億トン大きく、2024年の平均大気濃度は422.8±0.1 ppmに達しました。 海洋による正味吸収量は34±4 億トン/年(炭素換算)、陸域の正味吸収量は19±11億トン/年(炭素換算)と推定されました。なお、これらの推定値をあわせた陸域・海洋の正味吸収量は、上記の人為起源放出量と大気への蓄積量から考えられる正味吸収量と比較すると17億トン/年の差があり、依然として大きな不確定性が存在しています。
2025年のCO2収支の初期評価 注)
2025年、化石燃料起源の放出量は継続して増加傾向にある一方、陸域の吸収量はエルニーニョ以前のレベルまで回復の見込み
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世界の化石燃料起源のCO2放出量は2024年から1.1%(0.2%から2.2%の間)増加する見込み
中国やインドの放出量は過去10年間(2015-2024年)の増加傾向と比べて小さいものの、2025年も増加が見込まれます。一方、アメリカやヨーロッパの放出量も、今年は気象条件の変化などにより、増加が見込まれています。 -
南アメリカの森林伐採・森林劣化の減少により、土地利用変化によるCO2放出量は減少する見込み
土地利用変化による放出量はピークを迎えた1990年後半から減少傾向にあり、特に過去10年間ではその傾向が顕著になっています。 -
化石燃料起源と土地利用変化を併せた合計の人為起源CO2放出量の増加速度は過去10年間で緩やかに(2015-2024年は年0.3%、その前の10年間は年1.9%の増加)
2025年の人為起源のCO2放出量は422億トン(CO2換算)で、化石燃料起源の増加分は土地利用変化の減少で相殺されています。 -
1.5℃目標に向けた“残余炭素予算”はほぼ使いきった
2024年の気温上昇幅(産業革命以前と比べて)は1.36℃であり、気温上昇を1.5℃以下に抑えるという目標に対して許容される今後のCO2放出量(残余炭素予算)は1700億トン(CO2換算)になります。これにより、2025年レベルの放出量が続けば4年で使い果たすと見込まれます。 -
2024年に大きく減少した陸域の正味CO2吸収は2025年にエルニーニョ以前のレベルに回復する見込み
炭素収支の統合解析により、過去10年間では、人為的に大気へと放出されたCO2の21%を陸域が、29%を海洋が吸収していると見積もられています。 -
大気CO2濃度の年平均値は2025年に425.7 ppmに達する見込み
気候変化により陸域と海洋の吸収が弱まり、その影響は1960年からの大気CO2濃度の上昇に対して8%寄与したと見積もられました。
注) 詳細は、Global Carbon Project本部による プレスリリースに記載されています。 なお、今年は日本の化石燃料排出量予測も報告されました (ノルウェーCICEROによる算出(詳細_日本語、詳細_英語))

