観測とシミュレーションで読み解く「温室効果ガス収支」ー”最良の科学”に向けてー
最終更新日:2023年3月9日
地球温暖化を防止するための国際枠組み「パリ協定」では、産業革命以降の温度上昇幅を2℃以内に抑え、さらに1.5℃以内に抑える最大限の努力をするという目標を掲げています。それを実現するために、世界各国で排出量の削減目標(NDC)を設定して対策に取り組んでいますが、国や地域ごとの温室効果ガスの収支を正確に集計することは難しく、科学的・客観的な評価が求められています。特に日本を含むアジア地域では、観測データとモデルを使って速やかに評価を行う体制の構築が遅れていました。
本ウェビナーでは、世界の温室効果ガス(主にCO2、CH4、N2O)の排出量と吸収量を包括的に分析して、報告書としてとりまとめている日本のプロジェクトの取組を紹介しました。はじめに3人の講演者により、さまざまな観測データとモデルを組み合わせ、温室効果ガスの収支を高精度かつ速やかに把握するための最新の研究とその成果をわかりやすく解説し、続いてパネルディスカッションでは、今後必要性を増す世界の温室効果ガスの排出量監視に向けた取組や、パリ協定の長期目標の達成度を確認する国際的な取組(グローバルストックテイク)への貢献、などについて議論しました。
本ウェビナーは、気候変動問題、温室効果ガスの現状と排出削減、地球環境の観測やモデリングなどに関心のある方を対象とし、大学生への講義レベルを想定して開催しました。当日は、企業、大学、研究機関、行政機関、NPO、報道機関等から延べ400名以上の方にご参加いただきました。
- 日時:2023年2月22日(水)13:30-15:00
- 開催形態:Zoomウェビナーによるオンライン開催
- 言語:日本語
- 参加費:無料
- 主催:国立研究開発法人国立環境研究所、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
- 協力:環境研究総合推進費SII-8
プログラム
※各講演は20分のうち「講演15分、質疑5分」となります。
- 三枝信子(国立環境研究所 地球システム領域長)
- 専門分野:気象学(大気境界層)、陸域炭素循環モニタリング、陸域-大気相互作用
「温室効果ガス収支の包括的な監視に向けて」
大気中の温室効果ガス濃度は、人為的な排出だけでなく自然変動による影響を受けるため、地表での放出源や吸収源と対応させて評価することが重要です。近年では、世界全体や国地域に加え、社会経済活動の中心である都市の温室効果ガス排出量や化石燃料採掘地点からの放出量など、より空間的に詳細な評価が求められています。また二酸化炭素だけでなくメタンや一酸化二窒素など多数の温室効果ガス、さらに大気質に関係する短寿命ガスについても収支を把握する必要性が高まっています。これらのニーズに応えるため、温室効果ガス収支を包括的に監視する体制作りが世界的に喫緊の課題になっています。本講演では、私たちが環境省・環境研究総合推進費「温室効果ガス収支のマルチスケール監視とモデル高度化に関する統合的研究」で実施している、日本の研究活動の概要をご紹介します。
- 伊藤昭彦(国立環境研究所 地球システム領域 物質循環モデリング・解析研究室長)
- 陸域生態系の物質循環(特に温室効果ガス収支)、気候変動影響、生態系による気候変動緩和を専門とし、陸域生態系モデルを用いた CO2 、CH4 、N2O 収支のモデル計算、土地利用変化や気候変動シナリオを用いた影響評価や対策評価に従事。
「大気観測に基づく温室効果ガスの動態解明 ~都市大気からバックグランド大気まで~」
国立環境研究所は、アジア・太平洋域における温室効果ガスの時空間分布を明らかにするために、航空機や貨物船、地上ステーション等を利用した大気観測を実施しています。最近では温室効果ガス排出量の半分以上を占める都市部からの排出を把握するための観測も開始しました。こうして得られたデータは、地域・国レベルから都市レベルでの排出量を評価するための解析システムの基礎データとなります。また、温室効果ガスの起源についての情報を与えるような同位体組成や酸素濃度等の観測も継続しています。さらに、各種濃度間の変動比を解析することで、風上の領域からの排出量の相対的な変化を推定する研究も進められています。発表では、波照間におけるCO2に対するCH4の変動比に基づく、中国からのCO2放出量の準リアルタイム推定法についても紹介します。
- 遠嶋康徳(国立環境研究所 地球システム領域 動態化学研究室長)
- 大気中の温室効果ガスの観測が専門で、モニタリングステーションにおけるCH4やN2Oの観測を行う。また、O2の観測に基づく炭素循環研究にも従事。
「大気シミュレーションを用いた温室効果ガス放出・吸収量の推定」
物質の大気中での輸送をシミュレーションする「大気輸送モデル」は、温室効果ガスの動態を解析する上で有力なツールです。国立環境研究所では、この大気輸送モデルと様々な大気観測による濃度データを使って、温室効果ガスの放出・吸収の分布や時間的な変動を推定する「逆解析」と呼ばれる解析を行っています。発表では、この逆解析の手法を簡単に解説するとともに、逆解析によって見えてくる自然界におけるCO2放出・吸収の分布や変化について、人間活動によるCO2放出と比較しながら、ご説明したいと思います。また、環境省・環境研究総合推進費「大気観測に基づくマルチスケールのGHG収支評価」のもとで行っている高解像度シミュレーションによる東京大都市圏にける大気CO2変動の解析についてもご紹介します。
- 丹羽洋介(国立環境研究所 地球システム領域 物質循環モデリング・解析研究室 主任研究員)
- 大気輸送モデルや逆解析システムの開発、および温室効果気体の動態、収支に関する研究を行っている。民間航空機を用いた大気観測プロジェクトCONTRAILにも従事。
【パネリスト】
- 梅宮知佐(地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動とエネルギー/生物多様性と森林 主任研究員)
- 早稲田大学人間科学博士号取得。国立環境研究所、カセサート大学森林学部(タイ)等勤務後、2013年よりIGES勤務。パリ協定の実施と国際協力に関する研究、東南アジア諸国を中心に能力構築プログラムの実施に携わる。
◎話題提供
「最良の科学によるパリ協定・グローバル・ストックテイクへの貢献とは?」
【モデレーター】
- 白井知子(国立環境研究所 地球システム領域 地球環境データ統合解析推進室長/GCPつくば国際オフィス代表)
- 東京大学理学系大学院博士課程修了後、宇宙航空研究開発機構、米カリフォルニア大学アーバイン校を経て、現職。大気化学研究のほか、地球環境データベースを運用、オープンサイエンスを推進している。
講演資料のライセンスについて
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問合せ先
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域 地球環境研究センター
GCPつくば国際オフィス
Email: gcp{at}nies.go.jp