2026年10月発行

「第23回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA23)の開催報告

  • 伊藤洋(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)

1. はじめに

自国の温室効果ガス(GHG)排出・吸収量及び気候変動対策に関する情報を適時に把握・報告することは、適切な削減策の策定などのために重要です。パリ協定では、GHG排出・吸収量の透明性の向上がすべての締約国に求められ、さらに2018年末の第1回パリ協定締約国会議(CMA1)においてはGHGインベントリ(以下、インベントリ)を含む隔年透明性報告書(BTR)の報告要件が決定されました。BTRには、インベントリ情報や、政策・措置、国が決定する貢献(NDC)の進捗状況、将来予測、支援の提供状況等を含みます。

日本の環境省と国立環境研究所は、気候変動政策に関する途上国支援活動の一つとして、2003年度から毎年度(コロナ禍で中止の2020年度を除く)、アジア地域諸国のインベントリの作成能力向上に資することを目的とした本ワークショップを開催しています。国立環境研究所地球環境研究センターに設置された温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は、2003年度の初回会合から事務局として、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議(COP)決定、パリ協定のCMA決定等の国際的な課題によって各国に課せられる要求事項、参加者のニーズを踏まえた議題・発表者の選定、参加者の招へいといったワークショップの企画および運営にあたっています。

2026年8月3日から6日の4日間にわたり、ブルネイ・ダルサラーム、バンダルスリブガワンでブルネイ首相府と共催で第23回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA23)を開催しました。1日目は分野ごとに2か国でペアを組み、互いのインベントリを詳細に学習する相互学習、2~3日目はBTRの紹介などの話題を扱う全体会合、4日目はブルネイメタノールカンパニー(BMC)視察という構成としました。

WGIA23には、メンバー国のうち15か国(ブータン、ブルネイ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本)のほか、オブザーバー4か国(ブラジル、モルディブ、トルコ、ウズベキスタン)からインベントリに関連する政策決定者、編纂者および研究者が参加し、IPCCのインベントリ作成を支援する部門である気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース(IPCC TFI)、UNFCCC事務局、国際エネルギー機関(IEA)事務局等の参加もあり、総勢124名(一部オンライン参加者を含む)による活発な議論が行われました。

2. WGIA23の概要と結果

(1)相互学習

1日目は相互学習とハンズオントレーニングを行いました。相互学習では、GIOが各分野の組み合わせを行い、インベントリ担当者同士が互いのインベントリをもとに事前にメールで質疑応答を行ったうえで、当日の議論に臨みます。

今次会合では、農業分野(インドネシア-マレーシア)、IPPU(工業プロセス及び製品の使用)分野(ブルネイ-シンガポール)で実施されました。多くのWGIAメンバー国は、初回のBTRを提出したものの、依然としてインベントリの完全性やQC(品質管理)などに課題を抱えており、排出区分の細分化や事業者からのデータ収集などに取り組んでいます。参加国は国独自の排出係数に関する研究や国内の事業者報告及び第三者検証制度についての経験などを共有しました。

インドネシアとマレーシアで実施した農業分野の相互学習。事前に交換したQ&Aシートを使って議論を行いました。GIOはファシリテーターとして参加しています。
写真1 インドネシアとマレーシアで実施した農業分野の相互学習。事前に交換したQ&Aシートを使って議論を行いました。GIOはファシリテーターとして参加しています。

(2)ハンズオントレーニング

IPCCインベントリソフトウェアに関する実践形式のトレーニングを、IPCC TFIから専門家を招き実施しました。トレーニングでは、ダミーデータを用いて、LULUCF(土地利用、土地利用変化及び林業)分野のその年における土地利用の変化を整理した土地転用マトリクスの作成及び土地転用に伴う排出・吸収量算定について、入力から出力までの一連の手順を学習しました。ソフトウェアの操作方法だけでなく、その基礎となるIPCCガイドラインの考え方についても理解を深めました。さらに、トレーニング後には参加国ごとの課題に応じた個別相談の機会が設けられました。

(3)全体会合

2日目は、平塚二朗環境省気候変動国際協力室長、アワン・ハジ シャハルディン・カイルル ブルネイ開発省事務次官による挨拶が行われ、令和8年熊本地震への哀悼の意が表されました。続いて、ブルネイ首相府からブルネイの気候変動対策、BTRの概要と技術専門家審査の経験の説明、日本国環境省から我が国の気候変動政策とその進捗状況等の概要説明を行い、日本独自の方法論を用いているブルーカーボンや環境配慮型コンクリートの算定方法について質疑が行われ、GIOからWGIAの趣旨説明が行われました。

続いて、インドネシア、ラオス、タイ、トルコから初めて提出したBTRに基づき、各国の最新の国内状況に関する基礎情報や温室効果ガスの排出・吸収量、緩和策等について報告され、より堅牢で透明性が高く、持続可能なインベントリシステムの構築について質疑が行われました。

全体会合では総勢124名(一部オンライン参加者を含む)による活発な議論が行われました。
写真2 全体会合では総勢124名(一部オンライン参加者を含む)による活発な議論が行われました。

続いて、IEAからエネルギー分野のデータ収集及び途上国支援活動が説明され、インド及び韓国からはエネルギー分野の国独自の排出係数の開発が説明され、国独自の排出係数をどう開発し、定期的に更新するか議論が行われました。

2日目の最後には、報告の完全性を一部免除される等の柔軟性条項について、GIOからWGIAメンバー国の適用状況、ブータン及びフィリピンからはそれぞれの国における適用状況及び今後の改善計画が説明され、柔軟性条項の使用縮減に向けた質疑が行われました。

3日目は、中国から一回目のBTR提出とその技術専門家審査の優良事例と経験、シンガポールから技術専門家審査を踏まえた次期インベントリ作成準備、マレーシアから公開の場で他の国から関連事項について質問を受ける進捗の促進的な多国間検討(FMCP)を受けた経験とその教訓が説明されました。続いて、IPCC TFIから、その最新の活動、UNFCCC事務局からパリ協定の下での支援の概要が紹介され、技術専門家審査及び進捗の促進的な多国間検討への対応方法について議論されました。

今回の会合では、分野別に実施した相互学習において、継続的なパリ協定の下のインベントリ提出に向けて、報告の完全性の向上のための詳細なデータの収集、国独自の排出係数の開発等、各国のインベントリの改善への取組について情報が共有されました。全体会合において、堅牢なインベントリが各国の気候目標の進捗を追跡し、改善を優先する分野を特定するための基礎となることが認識共有されました。エネルギー分野においては、詳細かつ高品質な活動量の収集のため、国際的な支援の重要性が指摘され、また、柔軟性条項の使用縮減のため、データ保管やQA/QCを国内体制に組み込む必要性も指摘されました。さらに、技術専門家審査や進捗の促進的な多国間検討において、技術専門家審査チームとの詳細な意見交換や他国の実践から学ぶことの重要性が認識共有されました。
また、懇親会では、ブルネイの伝統的な踊りや音楽が披露され、美しい音楽を聴きながら食事を取ることで各国からの参加者間の距離も縮まりました。会合を通し、ブルネイ政府の温かなもてなしのもと、積極的なコミュニケーションが取られ、ネットワークの強化の一助となりました。

4日目は、ブルネイメタノールカンパニー(BMC)へ視察に行きました。BMCは2006年に日本の三菱ガス化学株式会社、伊藤忠商事などが出資し設立、2010年よりブルネイで豊富に産出される天然ガスを原料としたメタノールの製造を行っている会社です。BMCでは、現場担当者から、会社で作成している温室効果ガス報告等の説明を受けたのち、プラントの視察を行いました。

プラント入口にて撮影された集合写真
写真3 プラント入口にて撮影された集合写真

3. 今後の予定

ほとんどのWGIAメンバー国がインベントリを含むBTRをUNFCCC事務局に提出しており、このうち既に技術専門家審査及び進捗の促進的な多国間検討を経験した国については改善すべき点が特定されています。強化された透明性枠組み(ETF)はこのサイクルを通じて段階的な改善を促していく枠組みであり、各国は技術専門家審査及び進捗の促進的な多国間検討を踏まえて次回のBTRの提出に向けて準備をしています。今後の提出に向けては、各国とも一層の能力向上が必要であり、インベントリの精度をより高められるようWGIAを来年度以降も継続、発展させていく方向性等が確認されました。

第1回からの報告はhttps://www.nies.go.jp/gio/wgia/index.htmlに掲載しています。WGIA23の詳細も、同Webサイトで公開されています。また、今会合の開催について報道発表を行いました(https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/Press20260825.html) ので併せてご覧ください。

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