2026年8月発行

第22回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-22)参加報告

  • 藤縄 環(地球システム領域地球大気化学研究室 主任研究員)

2026年6月29日から7月2日にかけて、第22回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(22nd International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space : IWGGMS-22)が、欧州中期予報センター(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts: ECMWF)およびドイツ航空宇宙センター(Deutsches Zentrum für Luft-und Raumfahrt: DLR)の共催により、ドイツ・ボンのライン川の畔にあるホテルで開催されました。会期中は天候にも恵まれ、気持ちの良い風の抜ける会場で、香川県高松市で開催された前回ワークショップと同様に非常に活発な議論がされました。この記事では、IWGGMS-22の概要等について、現地の様子などを交えつつ報告します。

今回のワークショップは前回同様、現地参加中心のハイブリッド形式での口頭発表および現地のみでのポスター発表で実施され、口頭発表が89件、ポスター発表が95件と前回と比較して多くの発表がされました。開催されたセッションは次のとおりです。

前回会議では温室効果ガスと大気汚染物質の観測結果を用いることで効果的に温室効果ガスの排出を検出する手法に関するセッションが設けられていましたが、今回は他のセッションの中に統合させることにより、セッション数が一つ減っています。詳細は後述しますが、日本の衛星ミッションであるGOSAT-GW(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle: 温室効果ガス・水循環観測技術衛星、愛称「いぶきGW」)をはじめとした温室効果ガスと大気汚染物質の同時観測の世界的な潮流に合わせた形となり、これにより両者の垣根を超えてより親和性の高い発表と議論がなされました。

セッション 1 – 現行衛星ミッションの状況と成果
セッション 2 – 将来衛星ミッションの計画と進捗
セッション 3 – リトリーバルアルゴリズム・先験値・プロダクト
セッション 4 – 校正と検証
セッション 5 – 全球〜領域におけるフラックス推定
セッション 6 – 都市・局所排出とホットスポット
セッション 7 – ステークホルダーのニーズとエンゲージメント

まず本ワークショップを共催したECMWFのVincent-Henri Peuch氏と、DLRのFlorian Schwandner氏よりそれぞれ開会の挨拶があり、例年通り、各衛星プロジェクトの観測状況について説明がありました。TROPOMI(TROPOspheric Monitoring Instrument)、GOSAT(Greenhouse gases Observing SATellite: 温室効果ガス観測技術衛星、愛称「いぶき」)、GOSAT-2、OCO-2(Orbiting Carbon Observatory)、OCO-3、MethaneSAT、MicroCarb、GHGSatなどの現行衛星観測により得られたプロダクトの最新バージョンやその改良点、衛星の状態などについて説明があった他、昨年6月に打ち上がったGOSAT-GWによる二酸化炭素およびメタン、二酸化窒素のレベル2プロダクト(※1)の暫定結果について、谷本領域長より発表されました。

セッション2では、将来衛星ミッションの開発状況について説明がありました。将来衛星ミッションとしては、CO2M(Copernicus Anthropogenic Carbon Dioxide Monitoring)や、TANGO(Twin Anthropogenic Greenhouse Gas Observers)、CO2Image、TALISMAN、Carbon-I(Carbon Investigation)についての発表がありました。将来衛星ミッションの潮流として概して言えるのは、衛星コンステレーション(※2)などによる高空間分解能化と、二酸化窒素などの大気汚染物質などをトレーサーに用いた点源観測に特に着目していることかと思います。

二酸化炭素であれば大規模火力発電所などから、メタンであれば埋立地や石油プラントからのガス・オイルリークなどにより排出される温室効果ガスを、時空間方向により高い解像度で測定することで、排出量推定精度の向上が期待されます。

セッション3では、各衛星プロジェクトのガス存在量を導出するアルゴリズム(リトリーバルアルゴリズム)の説明がありました。全体の印象としては、従来法の不確実性低減に向けたアプローチの一つとして、生成AIにも活用されているニューラルネットワークによる機械学習による導出法の開発、あるいは計算過程における処理速度向上への試みが多く見られました。

近年、民間、あるいは官民連合による、温室効果ガス観測衛星の開発が活発化しており、ガス存在量データについては、精度のみならず速報性もより重要視されはじめているため、機械学習などでの処理速度・導出精度向上に関する研究は今後より注目されることと思います。

セッション4では、TROPOMI、OCO-2、OCO-3、GOSAT-2の校正・検証評価結果について主に説明されました。地上設置型のフーリエ変換分光計(Fourier transform spectrometer: FTS)であるEM27/SUNは可搬性に優れているため、航空機観測による衛星観測の検証実験でも広く使用されています。衛星観測データの信頼性を向上させるためには、地上観測測器による検証実験が必要不可欠です。

また、定点観測による都市〜世界的な規模でのネットワーク(例えば、GEMINI-UKやCOCCON)を利用した検証結果についての発表もありました。今後はEM27/SUNを使用したネットワークを構築することで、これまで観測がなされていなかった地域における地上からの温室効果ガス観測の機会も増えるだろうと期待されます。

セッション5では、局所〜全球におけるフラックス推定、および温室効果ガスや大気汚染物質を推計するための逆解析について説明されました。衛星観測とモデルを組み合わせたデータ同化システムを用いた逆解析による高空間分解能でのフラックス推定手法についての発表が多くみられました。それぞれ異なるモデルや衛星観測による結果が示され、今後、温室効果ガスの衛星観測がさらに盛んになる中で、相互に検証・評価が進められるため、高い相乗効果が期待されます。

セッション6では、都市域における排出量推定手法やその結果について発表がありました。先述したように、機械学習を用いた点源の識別及び排出量推定や、二酸化窒素を用いた二酸化炭素排出量推定の高度化、衛星コンステレーション、あるいは複数の衛星データを用いた高頻度高分解能観測についての研究が盛んに行われている印象でした。

温室効果ガスは比較的長寿命であり排出量推定精度の向上には、単一の発生源から放出されたガス(プリューム)形状・範囲の推定精度の向上が不可欠となっており、推定手法やプリュームモデルの高度化についての研究も多くありました。

セッション7では、温室効果ガスモニタリングの持続可能性や、温室効果ガス排出量低減施策として、得られた衛星観測他のデータを政策決定に有効利用してもらうためにはどのようなアプローチが必要か、といった議論がされました。このセッションの最後には、環境省 地球環境局 気候変動観測研究戦略室の石原室長補佐より、GOSAT-GWを含めたGOSATシリーズの今後の展望と、GHGSatなどの他の温室効果ガス衛星観測を利用したメタン排出源の観測、継続的な温室効果ガスモニタリングの重要性と国際的枠組みへの貢献についての発表がありました。

民間による温室効果ガスの衛星観測事業への参入が活発化する中で、温室効果ガスのモニタリングを強化する観点から、産学官の連携を強化することがより重要であろうと感じました。

さて、次回のIWGGMS-23は、カナダ・モントリオールのMcGill大学での開催が予定されています。次回開催時期はちょうど、GOSAT-GWのレベル2プロダクトの一般公開直前と重なるため、GOSAT-GWにより得られた温室効果ガスや大気汚染物質のデータと、地上観測や他衛星との比較結果などが出てくることが期待されます。

ポスターセッション会場の様子
写真: ポスターセッション会場の様子
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