COP30現地参加報告
概要
2025年11月10日から11月22日(1日延長)、ブラジル連邦共和国ベレンにおいて、国連気候変動枠組条約第30回締結国会議(COP30)が開催されました。開催地であるベレンは、ブラジル北部パラー州の州都で、アマゾン川の河口に位置しています。国立環境研究所(NIES)地球システム領域からは、谷本浩志領域長、佐伯田鶴主任研究員、寺尾有希夫主任研究員、岡本祥子の4名がCOP30公式展示およびジャパンパビリオンでのセミナーに参加し、主に温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)、日本GHGセンター(仮称)を紹介し、政府関係者から協力関係の構築に向けた打診も寄せられるなど、反響を得ました。本記事では、COP30における活動を報告します。
*COP30について、詳細は下記をご覧ください。
・国立環境研究所 COP30特集ページ:
https://www.nies.go.jp/event/cop/COP30/index.html
*過去のCOPの記事はこちら
https://cger.nies.go.jp/cgernews/cop/
COP30の詳細は、下記をご覧ください。
- 気候変動適応センター COP30特集ページ
https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/cop/index.html
ジャパンパビリオンセミナー
11月17日(現地時間10:00〜11:15)、環境省が主催するジャパンパビリオンにおいて、「気候科学広報及びビジネスへのGOSATデータ活用推進」と題したセミナー( https://www.copjapan.go.jp/cop30/seminar/1701/ )を開催しました。このセミナーは、2025年6月に打ち上げ成功した温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)シリーズの3号機である温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)と日本GHGセンター(仮称)の準備状況を説明し、GOSATデータを利用したビジネスへの展望を紹介するものでした。
国立環境研究所(NIES)地球システム領域からは谷本領域長と佐伯主任研究員が登壇し、寺尾主任研究員がセミナーで使用するスライドの取りまとめとセミナー中の写真撮影、筆者がオンライン参加者用のZoom操作を担当しました。発表者の資料がなかなか揃わず、さらに開始ギリギリまで会場に現れずにヒヤヒヤする場面がありましたが、寺尾主任研究員が急いで資料を受け取り、発表直前に資料投影用パソコンへコピーしてくれて、セミナーを滞りなく続けることができました。
最初に、環境省の土居健太郎地球環境審議官より、GOSAT-GW打ち上げ成功の報告と本セミナーのアウトラインの説明がありました。そして、谷本領域長が、「GOSAT-GW温室効果ガス衛星観測ミッションと日本GHGセンター計画」というタイトルで発表を行いました。この発表では、日本の研究機関によって行われている温室効果ガス(GHG)の観測や日本GHGセンター(仮称)の構想を紹介するとともに、GOSAT-GWに搭載されている「温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)」の精密観測モードによる観測データの解析結果を初めて公開しました。そして、本解析に尽力した染谷有主任研究員、藤縄環主任研究員、Hyunkwang Lim特別研究員の功績を称え、会場から大きな拍手が送られました。
谷本領域長が発表したTANSO-3による初解析結果については、下記報道発表をご覧ください。
- 報道発表「「いぶきGW」(GOSAT-GW)搭載温室効果ガス観測センサ3型(TANSO-3)による観測データ(精密観測モード)の初解析結果について」
https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/20260108/20260108.html
続いて、欧州宇宙機関(ESA)のFrank Martin Seifelt氏が「GHG observations from Space: ESA-Japan cooperation」というタイトルで、日本の研究機関とESAのGHG観測のための協力関係について発表を行いました。そして、国際連合環境計画(UNEP)のRuth Do Coutto氏が「From data to action: How UNEP’s International Methane Emissions Observatory will leverage Japan’s GOSAT-GW to drive mitigation」というタイトルで発表を行いました。発表では、UNEPが運営する国際メタンガス排出観測所(IMEO: International Methane Emissions Observatory)というメタン排出削減のための科学的かつ信頼性の高いデータ提供する機関の活動について説明があり、GOSAT-GWのメタンデータへの期待も感じられました。
GOSAT-GWでは、従来の学術・行政分野でのデータ利用に加えて、民間企業でのデータ利用拡大を推進しています。そこで、本セミナーでも、二件の民間企業からの発表がありました。まずは、損害保険ジャパン株式会社(以下、損保ジャパン)の矢野敬祐氏とMomentick Ltd.のDaniel Kashmir氏による「LNGサプライチェーン低炭素化とリスクマネジメントを加速する:衛星画像分析と実測によるメタン排出検知ソリューション」および「Momentick - Emission Intelligence」というタイトルで、2025年8月から提供が開始された損害保険とメタン排出検知ソリューションについての発表がありました。現在損保ジャパンがクライアントへ提供しているレポートでは、すでに公開されている衛星データを使用していますが、GOSAT-GWのメタンデータが利用可能になれば、ぜひ解析に使っていきたいとのことでした。ちなみに、Kashmir氏は本セミナー唯一のオンライン登壇者だったため、個人的にはセミナーの中でこの発表が一番緊張しました。
次に、株式会社三菱UFJ銀行(MUFG)の橋詰卓実氏とGHGSat Inc.のStephane Germain氏による「衛星データが導くサステナブル金融の新たな航路」および「GHGSat - CO2」というタイトルの発表がありました。 MUFGでは、GOSAT-GWの広域観測で液化天然ガスプラントやパイプラインからのメタン漏洩の可能性のある場所を事前に特定し、その情報を用いて高い空間分解能を有するカナダの商用衛星GHGSatでその漏洩詳細を把握するという”tip and cue”(※)スキームで、事業の採算性と温室効果ガス排出削減への貢献を考えており、発表では、前回のCOP29以降の進展が報告されました。
最後に、広島大学の近藤雅征准教授が、「気候変動および温室効果ガスに関する全国的な教育プログラムの枠組み」というタイトルで、日本GHGセンター(仮称)に関連する人材育成プログラムについて紹介しました。発表が始まってすぐに、発表資料投影用パソコンが固まってしまうというトラブルが発生してしまいました。事前に発表資料を集めて一つのファイルにまとめておくよう言われていたため、会場の投影用パソコンのスペックに対してファイルサイズが大きくなりすぎたことが原因と考えられます。
発表の後には、当初パネルディスカッションが予定されていましたが、時間が押してしまったために、慌ただしく佐伯主任研究員によってGOSATシリーズデータ配布先ウェブサイト情報が紹介され、環境省の永森一暢室長による締めの挨拶で終了となってしまいました。それでも、下のような集合写真はきちんと撮ることができました。
(※)tip and cue
撮像された衛星データの解析結果(Tip)を起点として新規の撮像指令(Cue)を出す技術で、移動する対象物を連続的に観測することで、既存の方法よりも高精度に移動物体の検出および行動予測を行うことができ、定常観測している領域に変異があった際に高解像度の画像を取得し、迅速かつ効率的に示唆のある高解像度の画像を提供することができる。
引用:令和4年度地球観測技術等調査研究委託事業「将来観測衛星にかかる技術調査」中間報告 「Tip & Cueのトレンド」(27p)
https://www.mext.go.jp/content/20230119-mxt_uchukai02-000026968_2.pdf
公式展示ブース出展
COP30後半週の11月17日から20日にかけて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、リモート・センシング技術センター(RESTEC)と国立環境研究所(NIES)の三機関合同で展示ブースを出展しました。JAXAチームは前半週のみの参加だったため不在で、展示ブースはNIESチーム(佐伯主任研究員、岡本主任研究員、寺尾)とRESTEC佐藤氏で対応しました。
展示ブースは既存の会議場Hangar(飛行機格納庫を再利用したそうです)に設置され、今回のために設営されたパビリオンや総会などが行われたメイン会場よりも空調が効いており快適でした。運営事務局から、展示ブースの建物はメイン会場から離れているので人が少ないかもしれない、という事前連絡がありましたが、実際は多くの方が展示ブースにも訪れており、寂しい感じはありませんでした。COP30会場の中では比較的安価なレストランがHangar側にあったことも、人の流れにつながっていたと思います。一方で、メイン会場との往来には一度外に出る必要があり、夕方の激しいスコールで通路が水没してしまい孤立したことがありました。
展示内容は、三機関のポスターを掲示するとともに、それぞれが作成したビデオをつなげたものをモニターに常時上映しました。そして今回初登場した展示が、くるくる回転するGOSAT-GWの3Dホログラム映像です。ずっと見ているとなんてことはないのですが(失礼)、通りがかりにパッと目にすると驚かれる方が多く、「ワォ」と大きな声とリアクションで立ち止まってくれる方がたくさんいらっしゃいました。なんだか動いているものがあると見てしまうのは万国共通のようです。
ブース出展の4日目にあたる11月20日午後2時ごろ、日本でも報道されたとおり、メイン会場で火災が発生し、参加者全員が場外へ避難することになりました。火災から離れていた展示ブースでも避難指示が出ました。筆者はちょうどその時、フードコートでランチを購入して一口食べたところで、お皿を持って屋外に避難しました。その後、建物に戻ったり出たりを繰り返し、どうやら今日はもう再開しないぞ、という雰囲気になり、午後3時ごろに展示を撤収し、会場を後にしました。本来なら5時まで展示を行う予定でしたが、火災というアクシデントで強制終了することになり、終わった!という達成感があまりなかったのが少し残念でした。
筆者(寺尾)はCOPに参加するのは初めてでしたが、普段接することのない政府やNGO関係者、他分野の研究者や学生と交流する機会を得て、GOSATシリーズの紹介をすることができました。駐ブラジル日本国特命全権大使の林禎二大使にお越しいただいた際には、GOSATデータの活用などの連携を通して日本とブラジルの協力関係を築きたいとのお話がありました。GOSATシリーズ観測データへの期待も大きく、UNFCCCのプログラムオフィサーをはじめ、多くの方々から衛星観測データの活用についてのお話しがありました。特にアフリカと南米の方々が(残念ながら熱帯域は衛星観測データ数が非常に少ないのですが、そもそも地上観測データも非常に少ないので)大気観測データに高い関心があると感じました。また、筆者が温室効果ガスの長期観測を行っているバングラデシュのコミラで水管理の仕事をしている方と知り合うことができたなど、予想外の出会いもありました。
Air Mail出発前~ベレンでの生活
出発前に一番大変だったことは、宿泊場所の確保でした。元々ベレンには十分な宿泊施設がなく、宿泊費が高騰していたことに加え、公式展示の日程の発表が遅れたために、直前まで宿泊場所の予約をすることができませんでした。治安や価格、COP30会場までの距離等を合わせて考え、結局は会場まで徒歩圏内の集合住宅二部屋を予約しました(選択肢はあまりありませんでした)。
航空便の確保についても難航しました。日本からは当然直行便はなく、東京/羽田空港からパリ/シャルル・ド・ゴール空港、サンパウロ/グアルーリョス空港(帰りはレシフェ/グアララペス・ジルベルト・フレイレ空港)を経由して、およそ二日かけてベレン/ヴァウ・デ・カエンイス空港に到着しました。今回の出張は筆者(岡本)にとっては初めての南アメリカで、移動時間が長すぎると、時差ぼけしない!というのは新たな発見でした(個人差はあるかもしれません)。
現地に到着後、ベレンの治安は悪いと聞いていたため不安だったのですが、COP30会期中の厳しい警備のおかげで、危険を全く感じることなく過ごすことができ、会場までも毎日歩いて通っていました。また、会期中はCOP 30専用のバスが街中を走っており、COP30の名札を見せれば無料で乗ることができました。そして、夜に食事へ行く時などには、Uber taxiを使用していました。
また、現地の不動産仲介業者がポルトガル語のみの対応でしたが、スマートフォンの翻訳機能のおかげで、チェックイン、チェックアウト、トラブル時の連絡の全てを問題なく行うことができました。谷本領域長と寺尾主任研究員が宿泊した部屋のエアコンから水がかなりの勢いで滴り落ちるというトラブルにも、WhatsApp(国際的に使用されているメッセージアプリ)で連絡して、迅速に対応してもらいました。
今回の出張では先端技術の粋を集めたスマートフォン(連絡、翻訳、配車、時計、撮影など多機能!)が大活躍し、便利な世の中になったなぁと心の底から思いました。
