2026年3月発行

GOSAT-GWが開く次の観測へ ―第21回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-21)参加報告―

  • 楊 征倫(地球システム領域 物質循環観測研究室 特別研究員)

はじめに

2025年6月9日から12日にかけて、第21回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(21st International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space: IWGGMS-21)が香川県高松市で開催されました。本ワークショップは国立環境研究所(NIES)主催、環境省共催のもと、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、情報通信研究機構(NICT)、香川大学、千葉大学CEReS、日本大気化学会、香川県MICE誘致推進協議会の協力を得て、現地参加を中心としたハイブリッド形式で実施されました。会場からは瀬戸内海を一望できる美しい景観が広がっていました。

写真:オープニングセレモニー(国立環境研究所 広報室 成田正司氏 撮影)
写真:オープニングセレモニー(国立環境研究所 広報室 成田正司氏 撮影)

オープニングセッションではNIES地球システム領域の谷本領域長の進行のもと、NIES木本理事長及び環境省からの挨拶で始まりました。会議は以下の8つのセッションで、80件の口頭発表と68件のポスター発表が行われました。

1)現行ミッションの状況と成果
2)将来ミッションの状況と計画
3)アルゴリズム・先験値・プロダクト
4)校正・検証
5)全球〜領域のフラックス推定と検証
6)都市・局所・施設スケール排出の定量化と検証
7)多成分観測・モデリングとGHG–AQ(温室効果ガス-大気汚染物質)のシナジー
8)ステークホルダーのニーズとエンゲージメント

現行ミッションの状況と成果及び将来ミッションの状況と計画

先ず日本側から、NIESよりGOSAT/GOSAT-2プロジェクトの現状が共有されました。GOSATとGOSAT-2はいずれも継続運用されており、長期時系列データは全球平均濃度の監視や季節変動の把握に留まらず、インバージョンや排出推定など多様な研究・応用へと展開してきた点が紹介されました。将来ミッションのセッションでは、全球平均の監視に加え、都市・大規模排出源の検出や国別インベントリの検証まで視野に入れる考え方が示され、その要件を担う次世代ミッションとしてGOSAT-GWが位置づけられました。谷本領域長はGOSAT-GW(Greenhouse gases Observing SATellite and Water cycle: 温室効果ガス・水循環観測技術衛星、愛称「いぶきGW」)の計画概要を紹介し、2025年度の打上げ、設計寿命7年を想定した次世代ミッションとして、温室効果ガス観測センサTANSO-3を搭載し、CO2・CH4に加えてNO2の同時観測も可能とする設計であることを示しました。観測は2つのモードで構成され、広域観測モード(Wide Mode)は観測幅911 km・空間分解能約10 km、精密観測モード(Focus Mode)は観測幅90 km×90 km・空間分解能約1~3 kmとし、全球と局地観測を両立させる考えが説明されました。これを踏まえ、全球平均濃度の継続監視に加え、国別排出インベントリの検証やメガシティ・発電所など大規模排出源の把握を主要な狙いとする点も強調されました。

米国側からは、OCO-2およびOCO-3が引き続き良好な状態で安定運用されていることに加え、今後の観測・プロダクト提供の方針が共有されました。OCO-3では、Snapshot Area Maps(SAMs)モードによる面状の高密度観測が紹介され、都市域や点源プルームの識別に有用であるとともに、全球規模観測を補完できる観測手法として説明されました。また、観測記録の長期性とデータプロダクトの品質が極めて重要であり、特に自然炭素循環の研究においては、長期かつ高品質なデータの蓄積が不可欠である点が強調されました。次に、将来に向けては、アメリカ航空宇宙局(NASA)本部から今後のGHG観測計画の枠組みが概説されるとともに、Earth System Explorerの概念検討としてCarbon-Iが紹介され、CH4・CO2・COを対象に全球の排出ホットスポット把握と月次フラックス推定を狙った「Global Mode」(観測幅約103 km・分解能303 m×345 m)と、湿地・大都市・農業等のホットスポットを詳細観測することを目的とした「Target Mode」(観測幅約100 km・分解能35 m×30 m)を組み合わせる構想が紹介されました。

欧州側では、まずSentinel-5 Precursor(S5P)/TROPOMIが、広域観測(観測幅約2,600 km、分解能約5.5×7 km2)として、メタン観測の基盤であり続ける点が共有されました。将来計画では、CO2Mが紹介され、3機コンステレーション(各機観測幅270 km以上)でモニタリングを強化し、XCO2・XCH4に加え、NO2やSIFも空間分解能2 km×2 kmで設計されています。また、フランス国立宇宙研究センターからはMicroCarb CO2ミッションの最新状況として、4.5 km×9 kmの分解能で全球大気CO2濃度を測定することが紹介されました。その後、2025年7月に打ち上げられました。さらにオランダ宇宙研究所(SRON)からは、ESA SCOUTのTANGO-CarbonとTANGO-Nitroを2028年打上げ予定とし、30×30 kmの観測域を200/300 mの空間分解能でCO2/CH4とNO2を同時観測可能であると示しました。

中国の温室効果ガス観測衛星の動向については、近年打上げたTanSat-1、GF-5、FY-3D、DQ-1に加え、今後は次世代の大型GHG衛星FY-3H、TanSat-2、DQ-2や商業小型衛星XIGUANGシリーズによるメタン点源監視等が並行して進んでいることが紹介されています。現況としては、TanSat-1は運用を停止し、FY-3D/GASとDQ-1は観測を継続しています。将来計画では、先ずFY-3H/GAS-IIは受動型でCO2・CH4・CO・N2Oを対象とし、面的観測(観測幅100 km・空間分解能 3 km)を強化する設計です(2025年9月に打ち上げ)。また、2026年に打上げ予定のTanSat-2も同じく受動型で、広域観測(CO2・CH4・NO2・SIF;観測幅2,900 km・分解能2 km)と高分解能観測(CO2・CH4・NO2;観測幅50 km・分解能0.5 km)を組み合わせる設計を紹介しました。そしてDQ-2は「能動型+受動型」のXCO2観測として、ACDL LiDAR(XCO2)+SWIR(XCO2)+IR(CO2鉛直プロファイル)を組み合わせる構成が示され、観測幅100 km、空間分解能 3 kmが挙げられました。

民間等では、施設・ポイントソースの排出を衛星で検出・定量する取り組みの最新状況が共有されました。まずMethaneSATは、観測幅約200 km、空間分解能約100 m×400 mの観測を特徴とし、広域とポイントソースの両方を高精度でマッピングできるのが特徴です。但し本会議終了後の2025年7月1日に活動停止が発表されています。次にCarbon Mapperでは、ハイパースペクトル衛星「Tanager-1」が運用段階に入り、平均約6時間の遅延で較正済みデータが提供されていること、さらにTanager 2–4の開発が進行中であることが報告されました。また、Tanager-1の空間分解能(約30 m)を活かしてCH4およびCO2のプルーム検出・定量を進め、将来的に複数機運用が進めば、重点地域に対するサブデイリーの観測機会が増える見通しも示されました。さらにGHGSatについては、メタン観測衛星10機にCO2衛星1機を加えたコンステレーションとして、高空間分解能(約25 m)で施設スケールの検出・定量を継続していることが説明されました。加えて、2025年にGHGSat-C12〜C15の打上げが予定されており観測能力の拡充が見込まれるほか、2026年にも追加機の計画が示されています。

アルゴリズム・先験値・プロダクト

本セッションでは、衛星GHG観測におけるリトリーバル手法(retrieval algorithms)や先験値(priors)、およびプロダクト(products)の更新・改善について報告がありました。とくにOCO-3のACOS v11再処理など、地形影響の低減やプロダクト品質向上に向けた改良が紹介されました。

校正・検証

本セッションでは、TCCON・COCCON・AirCoreなどを用いた衛星XCO2/XCH4プロダクトのバイアスと不確かさを評価する取り組みが報告されました。また、OCO-2/OCO-3やGOSAT/GOSAT-2の検証に加え、CO2Mの運用プロダクト検証・観測計画についても議論されました。

全球〜領域のフラックス推定と検証

本セッションでは、衛星観測(主にTROPOMI/GOSATなど)を用いた全球〜領域スケールのフラックス推定(逆解析)と、その結果の比較・検証について報告がありました。特に、複数のTROPOMI XCH4プロダクトを用いた逆解析の推定差の要因解析や、Community Inversion Framework(CIF)等の共通フレームワークによる地域メタン排出量推定の事例が紹介されました。

都市・局所・施設スケール排出の定量化と検証

本セッションでは、都市・局所・施設スケールの排出(主にCH4・CO2)を、衛星・航空機・地上観測データで検出・定量化し、検証する事例が報告されました。例えば、モーガン州立大学のDoyeon Ahn氏は、OCO-3 XCO2とTROPOMIのNO2を組み合わせたCross-Sectional Flux(CSF)手法により、複数都市の年排出量を推定する研究を紹介しました。また、ランス大学のAlohotsy Rafalimanana氏は、衛星リモートセンシング観測に基づく都市CO2逆解析における「スケール依存性」をテーマに、パリを対象として、Weather Research and Forecasting(WRF)モデルのLES(large-eddy simulation)モードを用いた100 m級の高解像度シミュレーション(WRF-LES)により、解像度の違いが局所的なCO2ピークやプルーム形状の再現に影響し、都市排出量推定にも差を生じることが報告されました。

多成分観測・モデリングとGHG–AQシナジー

本セッションでは、温室効果ガス(GHG)と大気汚染物質(AQ)を同時に観測・解析などに関する研究が報告されました。例えば、Astrid Müller氏(NIES)は、沿岸・海上域で衛星検証に用いる参照データが乏しいことを背景に、船舶搭載のXCO2・XCH4・XCOとNO2の同時観測を、定常観測網を補完する手法として紹介しました。

ステークホルダーのニーズとエンゲージメント

本セッションでは、衛星GHG観測を政策や排出削減行動に結び付け、インベントリ作成者や各国関係者に加え、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)におけるグローバル・ストックテイク(GST: Global Stocktake)、世界気象機関(WMO)の全球温室効果ガス監視(G3W: Global Greenhouse Gas Watch)、国連環境計画(UNEP)の国際メタン排出観測所(IMEO: International Methane Emissions Observatory)などの国際的な枠組み・機関を早期から巻き込み、目的適合(fit-for-purpose)なプロダクトを共同開発することの重要性が強調されました。

おわりに

集合写真(国立環境研究所 広報室 成田正司氏 撮影)
集合写真(国立環境研究所 広報室 成田正司氏 撮影)

IWGGMS-21開催後まもなくGOSAT-GWは打ち上げに成功しました。次回のIWGGMS-22はヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)及びドイツ航空宇宙センター(DLR)がホストを務め、2026年6月29日~7月2日にドイツのボンにて開催されます。衛星観測に関する最新成果の報告と活発な議論が期待されます。最後に、会議運営にご尽力いただいた実行委員・関係者の皆様に感謝申し上げます。

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