名誉研究員記授与式レポート
2025年9月4日、地球システム領域において野尻幸宏氏((元)地球環境研究センター副センター長)向井人史氏((元)センター長)への名誉研究員記の授与式が行われました。名誉研究員というのは国立環境研究所において多大な功績を行った研究者に与えられるその名の通り、その名誉を称える職名です。野尻氏、向井氏ともに、国立環境研究所のモニタリング事業にご尽力し大きな功績を残しておられます。
授与式でははじめに谷本領域長より、お二人の功績についての説明がされました。まずそれを簡単にご紹介します。
野尻氏は、1981年に国立公害研究所計測技術部研究員として入所以来、海域、陸水域における元素の動態と循環の研究を実施し、霞ヶ浦、摩周湖などの観測研究によって特別研究推進に寄与してこられました。1990年の研究所改組においては、研究所の研究体制が整っていなかった地球温暖化研究を拡大する任務で、プロジェクト専任の主任研究員に就任され、温室効果ガスに関係する研究基盤整備に注力されました。1995年には温暖化現象解明研究チーム総合研究官に任じられ、所内の温暖化関連重要プロジェクトのとりまとめに当たられました。
地球環境研究センターモニタリングとして太平洋の定期貨物船を利用する二酸化炭素観測を実施され、それは1995年の開始以来現在まで30年間継続されています。モニタリング観測は、所を代表する国際的に重要な地球環境観測の一つとなりました。定期貨物船を利用する二酸化炭素観測は、北太平洋海洋科学機構(PICES)の海洋モニタリングサービス賞(PICES Ocean Monitoring Service Award)を受賞され1)、太平洋科学研究への貢献が評価されています。また、1997年から2003年には、科学技術振興事業団(当時)のCREST研究代表者として、西部北太平洋の海洋定点観測プロジェクトを実施されました。
2007年公開のIPCC第4次評価報告書においては研究所のメンバーとして初めて第1作業部会報告のLead Authorを務められました。2013-14年公開のIPCC第5次評価報告書においては第1作業部会報告のRevier Editorおよび第2作業部会のLead Authorを務めるとともに、2011年1月開催の第2作業部会第1回Lead Author会合をつくばで開催する地域代表者を務め報告書作成に貢献されました。
野尻氏の研究業績は、国際研究データベースGoogle Scholar Citationにおいてh=index60、総被引用22000以上を数えます。また、国際研究者データベースResearch.comによれば、Best Earth Science Scientistsとして国内27位にランクされました。研究業績に対し、2013年に日本地球化学会賞、2016年に海洋学会宇田賞を受賞されています。
向井氏は阿波踊りで有名な徳島県出身です。1982年に、国立環境研究所の前身である国立公害研究所に入所されます。向井氏は当時の計測技術部大気計測研究室の配属となり、そこで大気粉じんの成分分析に係る研究に関わり特にバックグラウンドの大気汚染という観点から1983年に越境輸送に関わるモニタリングを島根県隠岐の島で開始しました2)。この観測は環境省の酸性雨観測網が整備される以前の東アジアの越境汚染研究として先導的な研究でありました。この自主的なモニタリングを退職するまで継続されました。その後は島根県へ観測が引き継がれ継続されていることから40年を超える日本でも非常に貴重なレコードとなっています(CGERモニタリングよりも長いと言われます)。向井氏はこれを主軸に大気粉塵中の成分のキャラクタリゼーションや無機元素の微量分析領域を中心にして研究を行ってきました。中でも鉛同位体比や硫黄同位体比を用いたアジア大陸からの越境輸送の化学トレーサーの確立は国際的に大気環境研究に影響を与えた仕事としてあげられます。アジアの各地での調査や発生源調査、大気粉じんや降雪などを通してこれらの東アジアでの越境輸送トレーサーとしての特性を明らかにしました。この功績によって2023年に大気環境学会の学術賞(斎藤潔賞)を受賞されています。
また、向井氏は、波照間、落石での長期モニタリングや太平洋船舶観測に参加し、アジアを含めた二酸化炭素の長期的広域観測研究を推進されたことも大きな功績のひとつです。同時に研究管理官、副センター長、センター長として長年にわたりCGERの各種のモニタリングを支えて来られ、大気、海洋、陸域モニタリングの展開、温暖化問題に関する広報活動など発展に寄与しました3)。大気二酸化炭素の収支に関しても同位体利用など高度計測手法を導入する一方で、国内オキシダント基準の統一事業などの多くの成果を挙げておられます。
授与式では谷本浩志領域長よりお二人に名誉研究員記が手渡されました。野尻氏と向井氏に一言ずつ感想や近況、今後の抱負をいただきました。ユーモアを交えて当時の思い出話等をお聞きしながら懐かしく感慨深い思いを巡らすとともに、今後にも意欲的な姿勢に見習うべきことが多いです。地球システム領域としてもおふたりのスピリッツを受け継いでいくべく初心を思いだす良い機会となりました。
