【最新の研究成果】 既存粒子存在下での新粒子生成の効率を定量化
新粒子生成(NPF)とは気体が化学反応や凝縮などによって粒子化する現象である。大気化学分野においてNPFは大気中の粒子の量を決定するだけでなく、雲凝結核(CCN)の量を決定する点で重要である。植物起源揮発性有機化合物(BVOC)からのNPFはモノテルペン由来のものが広く知られているが、我々の研究グループでは、BVOCのうち、大気中に最も多く放出されているイソプレンのオゾン酸化反応でNPFが起こること、核形成にクリーギー中間体を複数個含む高含酸素のヒドロペルオキシドが寄与していることを明らかにしてきた[1-2]。さらに、このNPFは既存粒子存在下でも起こることも見出した[3]。クリーギー中間体とは、アルケンとオゾンの反応で生成するビラジカルで、炭素数1のものは(•)CH2OO(•)(•は不対電子の位置を表す)で、O:C比は2である。ビラジカルであるため、アルコール、カルボン酸、ヒドロぺルオキシドのOH基のO-H間に挿入され、新たなヒドロペルオキシドを生成すると考えられており、それが繰り返し起こり、クリーギー中間体を複数個含む高含酸素のヒドロペルオキシドが生成されると考えられている。O:C比が高いため、それから生成する粒子はCCN活性が高い可能性が考えられる。
既存粒子(シード粒子)存在下でのNPFは、酸化過程で生成する低揮発性の化合物が既存粒子に取り込まれて成長する分と新粒子として生成する分が競合していることになるが、本研究では新粒子の相対量の定量化を実験的な方法で試みた。反応実験ではテフロンバッグを用いた。
新粒子の個数濃度(NNPF)は、同じ初期濃度の反応下で、NPFが起きている条件下での粒子の粒径分布の実験データ(図の(a))から、NPFが起こらない条件下でのデータ(図の(b))を差し引くことで得られた(図の(d))。イソプレンのオゾン酸化反応の場合、加湿条件下では、クリーギー中間体が水に捕捉され、クリーギー中間体を複数個含む高含酸素のヒドロペルオキシドの生成が起こらなくなるため、NPFが起こらない条件として相対湿度21%の加湿条件を選んだ。一方、既存粒子に取り込まれて成長する粒子の個数濃度は、加湿条件下で得られた粒径分布のデータ(図の(b))から既存粒子のデータ(図の(c))を引くと、成長してピーク位置がずれるため、小さい粒径のほうで負に、大きい粒径で正の曲線が得られ、この負の面積と正の面積が同じ値で、成長する粒子の個数濃度(Nuptake)に相当することになる(図の(e))。既存粒子存在下で既存粒子の成長と競合して起きるNPFの相対値(ΦNPF)は、ΦNPF = NNPF /( NNPF + Nuptake)として求めることができることを示した。ΦNPFは反応時間で刻々と変わる値で、本反応実験においては単調に減少することになる。また、湿度依存性(rNPF(RH))を求めれば、ドライ条件下でのΦNPFの値(φNPF(dry))を求めておけば、ΦNPF = φNPF(dry) × rNPF(RH)で表すことができる。
粒径が大きい粒子ほどCCN活性になりやすいため、既存粒子存在下で競合して生成する新粒子がどのサイズまで成長できるのか、また、その新粒子の実大気環境(既存粒子の量や湿度)での依存性について、ΦNPFを求める実験を行った。新粒子としては60 nm程度まで成長することがわかったが、イソプレンのオゾン酸化反応のNPFは相対湿度10%以下程度でないと効率的に起きないこともわかった。しかし、南米アマゾンの熱帯雨林のガス相で、クリーギー中間体を複数個含む高含酸素のヒドロペルオキシド(炭素数3~7)が観測されたという報告があり[4]、多湿な条件下でもNPFが起こりうる環境(例えば、イソプレン濃度が局所的に高濃度になるなど)がある可能性が観測から示唆され、謎が残っており、興味深い研究対象である。
