NEWS2024年2月号 Vol. 34 No. 11(通巻399号)

2200分の38 -未来を担う子どもたちと、環境について考える- 2023年度陸別出前授業 開催報告

  • 林しおん(地球環境研究センター)

1.はじめに

2023年11月24日、北海道陸別小学校5,6年生に地球システム領域地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長が出前授業を行いました。

国立環境研究所(以下、国環研)では、陸別町の銀河の森天文台に設置した観測拠点でフーリエ変換分光計を用いて、地上から大気上端までの気柱に含まれる二酸化炭素(CO2)およびメタン濃度の観測や、成層圏における微量気体成分の観測を行っています。

陸別町では、国環研や名古屋大学等の教育・研究機関との情報交換や地域振興などを目的に陸別町社会連携連絡協議会を設立しており、その活動の一環として年に一度、陸別小学校・陸別中学校への出前授業を行っています。

陸別町での出前授業は、2020年は新型コロナのため中止、2021年、2022年はオンライン開催となっていたため、4年ぶりの対面開催となりました。

写真1 足を踏み入れてびっくり。波打つような木造の天井が特徴的な陸別小学校です。手前が図書スペース、奥が今回授業を行う多目的ホール。
写真1 足を踏み入れてびっくり。波打つような木造の天井が特徴的な陸別小学校です。手前が図書スペース、奥が今回授業を行う多目的ホール。

2.エコスクール -フォトギャラリー -

授業の内容と子どもたちの様子を写真と共にご紹介します。

写真2 町田室長の自己紹介。写真が非常にお若い…(写真提供:銀河の森天文台 村田様)
写真2 町田室長の自己紹介。写真が非常にお若い…(写真提供:銀河の森天文台 村田様)
写真3 昨今、悪者のようにいわれている温室効果ガス。しかし温室効果ガスがあることで地球を快適な温度に保つことができる大事なものだということ、一方増えすぎると温暖化が進むので注意が必要となることを説明しました。
写真3 昨今、悪者のようにいわれている温室効果ガス。しかし温室効果ガスがあることで地球を快適な温度に保つことができる大事なものだということ、一方増えすぎると温暖化が進むので注意が必要となることを説明しました。
写真4 クイズに参加する小学生。CO2濃度が低くなるのは夏?冬?どっち?(正解は夏。日照時間が長くなり、植物の光合成が盛んにおこなわれるため。)
写真4 クイズに参加する小学生。CO2濃度が低くなるのは夏?冬?どっち?(正解は夏。日照時間が長くなり、植物の光合成が盛んにおこなわれるため。)
写真5 お忙しい中、本田陸別町長(写真右から2番目)にもご参加いただきました。
写真5 お忙しい中、本田陸別町長(写真右から2番目)にもご参加いただきました。
写真6 続いて実験キットを使用した実験の見本。配布時の小瓶には海水(弱アルカリ性)とBTB溶液が入っているので、青色です。小瓶に息を吹き込んだ後に蓋をして振ると、吐き出されたCO2を海水が吸収し、中性を表す緑、更に息を吹き込むと酸性を表す黄色に色が変化します。次に手で仰いで新鮮な空気を入れて再び小瓶を振ると、海水からCO2が放出され、今度はまた黄色や緑から、元の青色に戻ります。(写真提供:銀河の森天文台 村田様)
写真6 いよいよ海水酸性化実験。まずはデモンストレーションです。水、炭酸水、海水にそれぞれ指示薬となるBTB溶液を滴下。黄色?青?緑?予想の声が飛び交います。
写真7 いよいよ海水酸性化実験。まずはデモンストレーションです。水、炭酸水、海水にそれぞれ指示薬となるBTB溶液を滴下。黄色?青?緑?予想の声が飛び交います。
写真7 続いて実験キットを使用した実験の見本。配布時の小瓶には海水(弱アルカリ性)とBTB溶液が入っているので、青色です。小瓶に息を吹き込んだ後に蓋をして振ると、吐き出されたCO2を海水が吸収し、中性を表す緑、更に息を吹き込むと酸性を表す黄色に色が変化します。次に手で仰いで新鮮な空気を入れて再び小瓶を振ると、海水からCO2が放出され、今度はまた黄色や緑から、元の青色に戻ります。(写真提供:銀河の森天文台 村田様)
写真8 息を吹き込んだ実験キットを20回振る!
写真8 息を吹き込んだ実験キットを20回振る!
写真9 いざ実践。自分の手の中で起こる魔法のような色の変化に歓声があがります。
写真9 いざ実践。自分の手の中で起こる魔法のような色の変化に歓声があがります。

3.子どもたちからの感想

出前授業の実施後に陸別町教育委員会にて行われたアンケート調査から子どもたちからの感想をいくつか紹介します。

Q. 今日の出前授業で、どんなところがおもしろかった(楽しかった)ですか?

  • 実験とクイズが楽しかった。
  • 実験の(小瓶を)ふるところが楽しかった。
  • 息を吹きかけると色が変わるところがすごかった。

Q. この勉強で、どんなことがわかりましたか?

  • 陸別が重要なまち。
  • 地球温暖化についてくわしくなった。
  • 人の口の中にはCO2がたくさんあること。
  • 石油を使うとCO2は増える。
  • 昔よりもさらにCO2の量が多くなっているから、少なくなる努力をするといい。
  • CO2は役にたっているけれど、増えすぎると地球があぶないことがわかった。

Q. その他どんなことでも、感想を聞かせてください!

  • 知らないことがたくさんあって、もっともっと知りたいと思った。
  • 太陽光を地球が受けとって 、温度をたもっていることにもびっくりしたし、植物がCO2を吸収していることにもびっくりした。
  • 車がCO2を出さなくなったらいいのに。
  • クイズをもっと増やしてほしい。
  • 実験をたくさんやりたい。
  • アルカリ性、酸性、中性、の覚え方をまねしてみたい。
    ※町田室長がBTB溶液の色の変化の覚え方を、「信号が青になったら歩ける。あるける、アルケル…アルカリ性。青になったらアルカリ性!」と伝授。

小学校5,6年生らしい素直な感想をたくさんもらいました。

4.おわりに

冒頭のタイトル「2200分の38」の数字は何を示しているでしょうか。これは「『陸別町の人口(2023.10.31時点で2,175人)』分の『陸別小学校5,6年生の人数(38人)』」です。

地上観測ステーションがある落石、波照間、そしてこの陸別では毎年(波照間は2年に一度)授業を行っており、それぞれ小学校5,6年までに必ず1回エコスクール、出前授業を経験してもらえるように地元の皆様と協力しながら計画、実施しています。子どもたちが地元の価値を客観的に知ることができる出前授業は重要な活動であり、我々がその地元に還元できる大切な恩返しの一つです。町田室長が、授業の終わりに必ず子どもたちに出す「宿題」があります。それは、この実験を家に帰って家族の前で再現すること、です。一学年の人数は少なくとも、授業を受けた子どもから兄弟、保護者へと興味、知識、地元への誇りが「2200分の38」から80や100にまで広がっていってほしいと思います。そして何より、「陸別が重要なまちであることがわかった」という感想があったように、今後も子どもたち自身が自分の住む町について、そして地球環境について考えるきっかけになればと思います。

最後に、今回の出前授業、並びに日々の観測活動にご理解・ご協力いただいている陸別町の皆様に、改めて心より御礼申し上げます。今後も国立環境研究所の研究へのご理解・ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

※陸別小学校・陸別中学校でのこれまでの出前授業に関する記事は、地球環境研究センターウェブサイトの地球環境研究センターニュースアーカイブ(https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/archive/rikubetu.html)からご覧いただけます。