2019年11月号 [Vol.30 No.8] 通巻第347号 201911_347006
【最近の研究成果】陸域生態系モデルを活用した植林による二酸化炭素吸収量のモニタリング
人間社会は森林生態系から様々な恩恵(生態系サービス)を享受しています。植林を行うことにより森林減少を緩和しつつ、森林による大気からの二酸化炭素吸収を促進させることが可能です。また植林活動を他の環境政策やプロジェクトと組み合わせることで、より効率よくサービスを提供することができる点でも注目されます。本研究では、プロセスベースの陸域生態系モデル[1]による二酸化炭素吸収量の推定と現地調査との組み合わせにより、より効果的にモニタリングを実施する方法を提案しました。対象は中国半乾燥帯のトチュウ(杜仲)植林地における植林プロジェクト(例えばCDM[2]植林)です。モデル推定では、実測のバイオマス炭素量を用いて最適化を行いましたが、実測データの期間によってパラメータ値やシミュレーション結果に不確実性が生じていました。本研究の検討では、植林プロジェクトでは数年ごと(例えば5年ごと)の現地調査が義務付けられている点に着目し、現地調査のたびにモデルパラメータを更新することで、モデル推定の精度が向上することがわかりました。このように現地調査とモデルでの予測を組み合わせた手法を提案しました。
脚注
- 陸域生態系モデル:気象データやサイトデータを入力とし、光合成や土壌での有機物分解などのプロセスを組み込むことで炭素、窒素、水循環のシミュレーションが可能なモデル。生態生理学データに基づくパラメータ値を設定することで、複数の植生タイプでのシミュレーションを行う。
- クリーン開発メカニズム(CDM):途上国で行った温室効果ガス排出削減プロジェクトによる排出削減量の一部を、資金を提供した先進国の排出権として充当することができる制度。京都メカニズムの1つ。
本研究の論文情報
- Estimating carbon fixation of plant organs for afforestation monitoring using a process-based ecosystem model and ecophysiological parameter optimization
- 著者: Miyauchi, T., Machimura, T. & Saito, M.
- 掲載誌: Ecology and Evolution, 9(14):8025–8041 (2019)