2025年12月発行

国立環境研究所主催 IWGGMS-21による特別講演(場所:香川大学) 地球規模のCO2の流れを空から捉える

  • 町田敏暢(地球システム領域 地球環境研究センター 特命研究員)

最初に背景として、最近10年間の社会動向についてお話しします。2番めに地球温暖化と炭素循環、3番めには二酸化炭素は増えているのか、そして、4番めに過去のCO2について、最後には民間航空機を使ったCO2観測の話をします。

まず背景、最近10年間の社会動向について。皆さん、2015年の「パリ協定」という言葉をどこかで聞いたことがあると思います。パリ協定というのは、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された、2020年以降の地球温暖化対策に関する国際的な枠組みです。「COP」は毎年世界中の国が集まって気候変動をどう対応するかという提案がなされますが、なかなか合意に至らず終わることが多いのです。だけど、パリでは大きな合意をしたのです。

パリ協定とは、地球温暖化対策として、産業革命以前に比べて世界の平均気温上昇を2℃以内に収めましょうという協定です。そして、いまは1.5℃上昇以内に抑える努力をすることを目標としており、そのために国ごとのガスの排出削減の目標を作りました。目標は国ごとに違いますが、目標を作ってそれを守りましょうということになりました。そして、その目標をどれだけ守ったか進捗状況を評価するグローバル・ストックテイクという仕組みでちゃんとチェックしています。現在、自国の削減目標を5年おきに評価されるのですが、人類にとって、このことはすごく大きな一歩でした。

2050年カーボンニュートラル宣言を知っていますか?これまで日本の政府は温室効果ガスの排出を削減しなくてはいけないが、実行がなかなか伴いませんでした。しかし、パリ協定に基づいて、2020年10月に当時の菅首相が、日本も2050年にはカーボンニュートラルを達成しますと宣言しました。我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするということです。排出をゼロにするというのは、ガスの排出量と吸収量の合計が同じになるようにするということで、それをカーボンニュートラルといいます。ネットゼロは全体としてゼロ、すなわち2050年にカーボンニュートラル「脱炭素化社会」の実現を目指すことをここに宣言しますということなのですが、これまでなかなか約束をすることは難しかったのです。それを首相が宣言したというのはすごく大きなことで驚きました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書というものがあります。ここではその時点での科学の世界の最先端の知識を集めて、気候変動に関する報告書を6−7年毎にまとめます。その第1作業部会のアセスメントレポート、第6次報告書が2020年8月に出ました。ここで何を書いているかというと、スーパーコンピューターで計算する「気候モデル」を使って、気候がどう変動しているかをシミュレート、予測しました。こちらの図に青緑の太線と茶色い太線があります。青緑の太線は、地球のシステムをコンピューターで動かす中で、化石燃料を燃やしてCO2を出したりする人間の活動を考慮しない自然起源の要因(太陽や火山活動)のみを考慮した場合に気候が変動したのはいつなのかいう推定値、それに加えて人間が出してきた温室効果ガスを入れて計算したのがこの茶色い太線です。そして、実際の気温の変動がこの黒い線です。これらをどう見ても自然の要因だけでは現在の実際に観測されている温度の変動は説明できません。

人間が化石燃料によって温室効果ガスを出したことと自然起源両方の要因を考慮すると実際の観測値とほぼ合ってくる。このAR6の中で「人間の影響により大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことは疑う余地はない」とここまで断言したのというのは非常に大きなことです。

ノーベル賞を数年前に受賞されたSyukuro Manabe氏をご存知でしょうか。Manabe博士は先ほど話したスーパーコンピューターで地球の気候変動をシミュレートするということを最初にやった人です。いままで日本人何人かがノーベル賞をとっていますが、大抵は物理学とか化学とか医学生理学とか、そういう基礎的な学問で取るものだと私は思っていました。ところがこの方は、私と同じ日本気象学会に所属しています。物理学会ではなくて気象学会からノーベル賞が出るとは思いませんでした。これは何を言いたいかというと、ノーベル財団が「気候変動」これは真実だよ、正しい科学なのだということを広めた・認めたということであります。気候モデルの実用性、気候変動から目をそらすなとノーベル財団が言っているのと同じだと僕たちは考えています。これがここ10年の流れです。

今、地球温暖化には懐疑論的な話がありますが、実際の社会はこうやって動いています。では、地球温暖化のしくみ・炭素循環の話をします。

地球の熱収支1

地球温暖化の話をするにあたって、まずは地球の熱収支、地球がどうやってエネルギーを受け取って、どうやってエネルギーを出しているかという話をしましょう。地球は太陽から非常に大量のエネルギーを受け取っています。大量のエネルギーが空から地球に届いているということは、地球上ではエネルギーを毎日受け続けるので、そのエネルギーで暖かくなります。

そのすごい量を今日、明日と明後日も受け取ってばかりいたら、今日より明日、明日より明後日とどんどん高温になってしまうはずです。これが大体一定の温度になっているということは、地球はエネルギーを受け止めているだけでなく、受け止めたエネルギーを外に出しているからです。太陽のエネルギーを外に出している様子が見えますか?見えません。どうしてかというと、地球がエネルギーを受け取る太陽光は目にみえる「可視光線」といいますが、細かく言うと赤から紫までいろんな色が混ざって届きますけれども、外に出すエネルギーは全然違い、赤外線となり人間の目には見えません。ですが、例えば夏の暑い日にコンクリートがすごく熱くなって、夕方に日が陰ってきて真っ暗になっても、そこを通るとじわーっと暖かいところを感じる、それが赤外線です。目には見えない、真っ暗でも出てくる赤外線という形でほとんど同じようなエネルギーを宇宙に出しています。なので、毎日温度がほぼ一定で暮らせているわけです。太陽からの距離や太陽のエネルギー、地球の関係というのを解くと、宇宙から見た地球は大体何℃になるのかというのを計算できます。もし大気がないとすると、地球平均気温は-18℃になるはずです。北極南極から赤道まで全部合わせた平均気温が-18℃です。おかしいですよね。平均気温が-18℃になるわけない。どうしてこんな数字になるのか。実際の地球は違う。何が違うかというと、大気があることです。

地球の熱収支2

大気の中にCO2などの温室効果ガスが入っています。では温室効果ガスがどういう特徴を持っているか。この特徴が大事です。温室効果ガスは太陽光はそのまま通します。素通りです。ところが、赤外光の一部を吸収します。あるものは通すけど、あるものは通さない。このような偏屈な特徴を持っています。実際に矢印で書くと、上から下に来る太陽光は真っ直ぐ入ってくるのに、地球表面から宇宙に逃げていく赤外線が一部吸収されます。この「一部」が大事です。そうすると図にある短い矢印のように大気がこのエネルギーを受け取って、受け取ったエネルギーをまた地球表面に向けて放出することになります。この短い矢印の分だけ地球は暖まります。そのおかげで地球の平均気温は+15℃になります。これなら暮らせますよね。

植物も動物も、この短い矢印があるおかげで、僕たちは心地よい気候の地球に暮らしていくことができるのです。覚えておいてください。温室効果ガスのおかげで、地球は快適な温度に保たれる。これを「温室効果」といいます。皆さん、温室効果ガスを悪者のように普段聞いていませんか?ところが、悪者ではないのです。温室効果ガスがないと-18℃ですから、それを33℃も暖めて+15℃にしてくれるのは温室効果ガスのおかげです。
ということは、いま以上に温室効果ガスが増えるとさらに温暖化するというのは、これは予想がつきますね。これが地球温暖化問題です。当然密接に関係しますけれども、温室効果という言葉と地球温暖化という言葉をちょっと分けて考えてくれるようになるのであれば、本日ここに来た甲斐があります。

次に、「温室効果ガス」と一言にいいますけれども、1種類ではありません。これもIPCCのAR6レポートに書いてありますが、産業革命以降地球を暖めているガスが何種類かあります。二酸化炭素が一番多いです。あとはメタンもある程度温室効果に寄与しています。そのほかN2Oがあります。ハロカーボン、例えばフロンガスといわれており、オゾン層破壊の話を聞いたことがあると思いますけれども、その原因となっているフロンガスも実は温室効果ガスとしても挙げられます。温室効果ガスは何種類もありますが、やはり一番大事なのはCO2なので、今日はCO2を中心にお話をすることにします。

炭素循環

地球上のCO2の循環、これを炭素循環といいます。
もちろん僕たちが化石燃料を燃やしているからCO2が増えているのですが、大気中のCO2に関係するものというのは、実は化石燃料だけではありません。いくつかあって、大気のほかに海洋と陸上生態系を考えなければなりません。まず、陸上生態系ですが、植物は光が当たると光合成を行って大気中のCO2を大量に吸い込みます。陸上植物は光合成で吸収するだけではなく、逆に呼吸もしています。呼吸でCO2を出します。なので、陸上生態系は非常に大量のCO2を吸ったり出したりしています。

そして海洋。CO2は水に溶けやすい気体です。ここに炭酸水がありますけれども、炭酸水というのはCO2がたくさん溶けた水です。地球の表面の7割は海で覆われています。CO2は水に溶けやすいことから、海洋はCO2を吸収します。海は場所によって、また季節によってCO2を出すところと吸収するところがあります。それも大量に出したり、吸収したりしています。CO2は、大気と陸上生態系と海洋で大量に交換されていました。この中に人間がさらに化石燃料を燃やしてCO2を大量に入れるようになり、大気と陸上と海洋のバランスが崩れていっているというのが現状です。

人間が出したCO2

では、どれくらいの数字なのか。図は2000年から2009年まで10年間の平均で、赤の部分が、人間が化石燃料の燃焼とセメント生産で出したCO2です。セメントというのは、炭酸カルシウムという岩石で、加工するとCO2が出てきます。化石燃料の燃焼に比べればほんの少しですが無視できないくらいあります。化石燃料の燃焼とセメント生産である程度出ています。

それから森林破壊です。森林破壊は、今までCO2を集めていた植物を切って、CO2を出しているので、これも人間が人為的に出すCO2となります。図にあるように、その出した7.8と1.1という数字の単位はペタグラムカーボン/年で、10億トン/年に相当します。7.8は78億トン。これはすごい数字です。森林破壊で11億トン、合わせて1年あたり89億トンのCO2を炭素換算で出しています。出したままかというとそうではなくて、先ほど植物は光合成と呼吸の両方をしますと言いましたが、実は光合成の方が少し強いです。ということは、植物は全部を合わせるとCO2を1年あたり26億トンくらい吸っています。

海洋も吸収と放出がありますが、全部を合わせると大気中のCO2濃度が増えている分、海洋は昔よりは多く吸収していて23億トンぐらい吸っています。残りが大気中に残っています。なので、人間が出した分の大体半分は陸上植物と海洋が吸収してくれているということです。大気中に残るのが40億トンくらいになります。40億トンでどれくらいの大気中濃度になるかというと、空気中の大気の分子の数で割ると大体2ppmという数字が出ます。ppmというのは100万分の1を表していますので、毎年2ppmということは100万分の2だけCO2が増えます。「なんだ100万分の2ならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、この100万分の2のCO2が地球をちょっとずつ温暖化させている無視できない数字なのです。

CO2放出・吸収量の変化

この放出量と吸収量について、もっと昔からどう変わってきたのかという話をしましょう。

図の横軸は年代です。1750年くらいから2000年と書いてあります。縦軸がCO2を出すか吸収するかという量を表しています。先程2000年から2009年というのは、この赤い部分を平均で出して扱っているという話をしました。それ以前はどうかというと、昔は少ないです。化石燃料の燃焼は、特に第2次世界大戦以降急に伸びてきたといわれています。森林破壊は昔に比べれば実はちょっと減っています。こうした社会的な現象が図に現れています。海洋の吸収は、大気中濃度の増加に比例していて、少しずつだんだん広がっています。そして、植物はすごく吸収する年とあまり吸収しない年が数年おきに来ていることがわかります。

これらのことを解くために僕たちは研究しているわけで、ここでもう何トンか大体分かっているじゃないかというような数字を出しましたけれども、実はこれらの数字はまだまだ不確実性がすごく大きいのです。誤差がいっぱいあります。未だどこの森林やどこの海洋が吸収しているのか、いつごろ吸収しているのかというのは分からないことだらけです。なので、僕たちは世界中でCO2の観測をして、ここは吸っている、ここは出しているということを突き止める仕事をしています。

環境研の温室効果ガスモニタリング

そのためにCO2を測るという話をこれから進めます。二酸化炭素は増えているのか?という話をしましょう。

国立環境研究所は日本に2つの地上観測ステーションを持っています。一つは北海道の落石岬といって根室市にある岬で自然豊かなところに観測所があります。人がたくさん住んでいるところは、やはり車が走ったり人が生活したりとCO2がいっぱい出ているので、濃度が低く安定したところで温室効果ガスが長期的にどう増えているかということを捉えたいので、なるべく自然豊かなところで観測します。

もう一つは、沖縄県の波照間島にあります。ここは日本の、人が住んでいる最南端の島で、石垣島のさらに南にあります。こうして北と南の空気が綺麗なところで観測しているのです。例えば、写真は波照間ステーションですが、観測タワーが建っていて、ここは35mですが、高いところでこの地域のよく混ざった空気を採取して測っています。

波照間で観測されたCO2の変化

ここでCO2を測るとどうなるか。波照間島では1993年からCO2を測っています。グラフの赤い点1点1点が1日平均です。これを見るとギザギザしながら、だんだんだんだん2020年にかけて上昇していることがわかります。赤い点だけと分かりにくいので、これらを滑らかに結んだ青い線をフィッティング曲線として同時に示しています。緑色はトレンド曲線といって1年の平均値をずっと滑らかにつなげています。ひと目でCO2が増加傾向にあることがわかりますね。これを見ると、のこぎりの刃のようにギザギザになっていますが、これは季節変化で1年に一回下がって、また上がるのです。この濃度の一番低いところ、これは夏でしょうか、冬でしょうか。答えは夏です。なぜかというと、CO2は大気と植物と海と化石燃料の燃焼、この4つのやり取りで動いているのですが、そのほとんどは植物の働きです。夏には光合成が強くなります。光が強くなるので、植物は光合成でCO2をどんどん吸収します。大体春先の4月あたりに濃度が一番高くて、4月が過ぎて5月になって新しい芽が出てくると葉っぱで光合成がしやすくなって、どんどんCO2を吸収します。例えば、屋外に見える葉っぱがだんだん大きくなります。葉っぱが大きくなるということは、その中に有機物すなわち炭素を含んだ物質が増えるのですけれども、その有機物の炭素はどこからくるかというと、大気中のCO2です。葉っぱが大きくなった分、大気中のCO2を吸っているのだなということ。植物は常に呼吸をしているので、夏が終わると今度は、呼吸の方が光合成を上回るので、CO2濃度が上がっていくのです。これがCO2の季節変動です。

横道に逸れますが、このギザギザは化石燃料が原因じゃないかという人もいます。夏より冬の方がストーブなどの暖房でたくさんCO2を出しているじゃないか?その通り冬はたくさんCO2を出しますが、日本は夏も化石燃料をたくさん使うのです。冷房に使っている電気は、日本はほとんど火力発電所でガンガン化石燃料を燃やします。なので、夏も出す、冬はちょっと多く出す。なので、化石燃料の差というのはそれほどありません。だけど植物では冬は出すのに対して夏は吸収します。こういう差なのでギザギザの部分というのはほぼ植物です。

CO2濃度は経年的にどんどん増えていますね。経年で増えているのはもちろん化石燃料を燃やしているからです。増え続けて、2014年には年平均値が400ppmを超えてしまったのです。僕は1988年から大学でCO2を測り始めましたけれども、昔は350から360ppmと先生に教わりました。就職してから国立環境研究所でCO2を測っていると、増えているなというのを感じましたけど、まさか僕の目の黒いうちに400ppmを超えるとは思っていませんでした。すでにそれから10年を過ぎてしまって、今はもう420を超えるような状況が今のCO2をきちんと測った結果です。

世界初の高精度観測はハワイ・マウナロア山

研究は、93年から始めましたけれども、これよりも前というところにも興味があります。いつから増えたのだというのを科学者としては知りたい。過去のCO2は、93年より前はどうなのか、国立環境研究所より前から測っていた方はいます。世界で初めて高精度でCO2を観測したのはアメリカのKeeling, C.D.という人で図は有名なハワイのマウナロア山で測った観測ですけれど、彼が1958年の国際地球観測年に測った際には、今よりずっと低くて315 ppmでした。Keeling博士はハワイと南極点、南北両半球で観測を始めています。Keeling博士が測っていた時を見ると、もう既に傾きがあります。その前はどうだったのか。世界初の高精度のCO2観測はKeeling博士によるものなので、これより前はこれに並ぶような観測はひとつもありません。それより前のCO2はどうやって知ったら良いでしょうか。古文書を調べると書いてないかとか考えたくなりますが、ありません。どこかの武家屋敷の蔵に行って、蔵から何かを出してきて、昔の缶詰があって、それを空気が入ってないかとか、ありません。だけれど、いろいろと探したら昔の空気があったのです。

保存されている過去の空気

この写真分かりますか?これは何かの拡大写真ですけれども、ぷちぷちと粒が入っています。今日は時間が無いので答えを言ってしまうと、これは南極の氷なのです。

南極の氷には昔の空気が入っています。僕が小さい頃のウイスキーのコマーシャルでウイスキーグラスに南極の氷を入れると、プチプチプチと何千年前の空気のはじける音がするというものがあったのですけど、あれは大げさなように聞こえていますが、本当です。本当に昔の空気が入っています。なぜ昔の空気が入っているのかというと、簡単に言うと南極に雪が降ります。だけれども、南極も内陸の方に行くと、夏になっても0度を超えないような寒いところがいっぱいあります。夏になっても0度を超えないということは、降った雪が溶けないということです。溶けないと、降った雪は降り積もるばかりです。降ってどうなるかというと、雪は自分の重さでぎゅうぎゅう押し縮められます。縮められてどんどん下の方にいくにつれて雪粒子どうしがくっついて、最後は氷になります。氷になる時に、雪粒子の隙間にあった空気が最後は逃げられなくなって、氷の中に残ってしまうのです。これが氷の中の気泡と呼ばれる物です。なので、南極に行ってドリルを使って、氷床を深く掘ると、3000メートルぐらいの氷の層なので、下へ行けば行くほど古い氷が出てきます。ということは、下へ行けば下へいくほど、古い空気もあります。南極に行って氷を掘れば、昔の空気を引っ張り出すことができるのです。実は僕の学生時代のテーマはこれでありまして、どうやって空気を出すのかは簡単ではないのですがこれを測れば昔の空気が分かります。

これが南極の氷を使って昔の空気を再現した図です。私が初めて南極の氷を見たのは、国立極地研究所の-20度の冷凍室に行って、氷サンプルが置いてあったのですけれど、どんな様子だったかというと、炭酸水とか、三ツ矢サイダーとかをコップに入れるとシュワシュワと泡が出てきますが、その泡をぱっと凍らせて氷にしたらこうなるのだろうというような、それぐらい気泡が入っている。当時それを見たら、この空気を取り出して測ってみたいと、誰でも思うような氷でした。そこから空気を取り出して、今の空気と混ざらないようにして測ってやると、これが年代に対してこんな感じになのです。

250年前から今までのCO2

重要なのは、この青い線を見てください。先ほど、アメリカのKeeling博士がハワイ島と南極点で観測を始めたと申しましたが、1958年がここです。Keeling博士の南極の直接観測がこの青い線で示してあります。緑は、氷床コアの氷から取った空気、僕が見て興奮したのは、この辺で緑と青が重なっています。どういうことかというと、Keeling博士が直接空気を測った時の値と、何年も氷の中に保存されていた空気を取り出して測ったCO2がぴったり合う。これはものを測ることをやっている僕らにとって大感動で、自分の観測、自分の実験が合っていた。氷の中に過去の空気の情報を求めるメカニズムがきちんとしていて、きちんと保存ができているということを示したすごい図です。さらに1958年より前はどうなのかというと、CO2濃度が上昇してきたのは1800年より前1700年代の後半、すなわち18世紀後半です。先ほどから何回か口に出していますけれど、この頃何が起こったかというと世界史で習った産業革命です。産業革命が起こって人類はこれまで強い力を必要な時は、例えば家畜を使って農耕を行っていました。ところが化石燃料、当時は石炭ですけれど、これを使えばもっと強い力、エネルギーを出すことができるということを学んで、化石燃料を燃やし始めると、CO2が増え始める。CO2が増え始める前は、今は400を越えてしまいましたけれども、280という数字でした。400を基準に考えると、280から400まで、この250年間で120ppmものCO2を上昇させてしまった。人類は400の中の120を上昇させてしまったのだから、かなり大気の状態を変えてしまったということになります。250年といってもかなり昔という感じで、なかなかピンとこないかもしれません。この400を超えた2014年を基準に考えると、2014年時点で小6だった人が生まれたのが2000年です。CO2がどうだったかというと、380ppm、120の上昇のうちの20ppmをわずか12年、小さい子が成長するわずか12年のあいだに20ppmも増えてしまった。こんなにすぐに増えてしまったということです。次に町田が生まれた1965年、年齢がばれます。1965年を見てください、320ppmでした。僕が生まれる前は、280ppmから320ppmで40ppmしか増えていない。僕が生まれた後に80ppmも増えている。CO2の増加は産業革命のように社会の、歴史の教科書に載っているような人達がずっと出してきたものだと思っていました。歴史の教科書に載っているような人達は40ppmしか増やしていない。僕が生まれた後にそれ以上、2倍の80ppmも増やしてしまったということは、僕にとってはすごい衝撃で、僕もこんなにCO2を排出したことに加担していたのかと思うと、自分でプロットしていてショックでした。昭和元年はまだCO2が低いです。先ほど言ったように、第2次世界大戦が終わってから増えている。明治時代は、汽車も走っていました。ある程度文明的な生活をしていても、まだCO2がこんなに低かった時代がある。逆に言えばCO2を出さなくてもある程度文明的な暮らしが送れるということを、ここから学べると思います。では違う視点で見ていきましょう。この140ppmの上昇のうち、最初の半分の60ppmを増やすのには200年以上掛かっていました。ところが残りの半分の60ppmは、たった30年で増えている。これを見るだけでも、最近のCO2上昇が、いかに急激なのかということがイメージできると思います。

波照間と落石岬のフィッティング曲線

5番目にCO2の濃度は場所によって違うという話をします。国立環境研究所の観測所、波照間と落石になります。北海道と南の沖縄で、何故CO2を二カ所で測っているかというと、場所によってその変動が違うからです。青が北海道の落石、赤が沖縄県の波照間です。両方とも似た季節変動をしていますけれども、沖縄県の波照間は、季節変動の幅が小さいというのがわかります。どうしてかというと、波照間は冬になっても暖かく、植物がある程度元気なので、その植物の働きが春夏秋冬で大きく変わらないということを示しています。ところが、北海道は夏が短いです。冬はすごく厳しく植物があまり活動できません。短い夏に植物はガンとCO2を吸収するので、そういう植物の働きの春夏秋冬の違いによって、大気中CO2の振幅も場所によってこんなに違います。日本の中の北海道と沖縄でこんなに違うのだから、もっと南に行ったらどうなるかとか興味がありますよね。

環境研の定期船舶モニタリング

そこでもっと南を測ります。さすがに国立環境研究所が観測ステーションをいっぱい作るのは難しいので、何を使ったかというと船を使いました。船といっても国立環境研究所は観測用の専用の船を持っていません。民間の商船にお願いをして、僕たちの観測機材を載せてもらって観測をする。そうすると赤道方面、さらに南半球の空気を測ることができます。これを使ってもっと南のCO2を測ったらどうかというと、こうなります。この横軸は1月から12月の季節、縦軸はCO2ですけれども、平均値からのズレと思ってください。ゼロを中心に色がたくさんあります。実線は北緯50度40度ずっと行って赤道、さらに点線は、南半球の数字を表しています。一番振幅が大きいのは、さっき北海道で私が言いましたけれども、北緯40度50度が大きいです。夏にガンと光合成をします。それが30度20度10度とだんだん緯度が南に下がって行くと振幅が少なくなっていることがわかります。これは先ほど北海道と波照間を比べたデータと似ています。ところが今回、赤道を見ても、北半球と似た振幅になります。興味があるみなさんは、家に帰って考えてみてください。

平均的な季節変動の緯度による違い

さらに資料を見ていきましょう。見てください、季節変動はないが少しだけあります。北半球と南半球は季節が逆転するので、北半球の夏は、南半球の冬なので濃度が高い。こっちは濃度が低いですけれども、それにしても南緯40度と北緯40度でこのように季節変動が違う。南半球だって植物はある。季節変動して良いはずだと思います。

平均的な季節変動の緯度による違い

「なぜか」は地図を見てください。北半球を北極圏から見た地図と南半球を南極点から見た地図です。南半球は俗に海半球と呼ばれています。海が多いといってもある程度大陸はありますけれども、よく見ると南半球の真ん中にある大陸は南極大陸です。南極大陸に森林はありません。オーストラリアがありますけれども、オーストラリアは真ん中がほとんど砂漠なので、あまり森林がありません。あとはアフリカ大陸に少し森林があります。南アメリカ大陸にはアマゾンがあるじゃないですか。しかしアマゾンは熱帯なので、熱帯ということは、CO2の季節変動にはあまり寄与しません。よって南半球にある森林はすごく少ない。それに比べて北半球は、ユーラシア大陸にたくさんの森林があるし、北米にもすごい量の森林があります。こういう森林がCO2を吸収したり放出したりして季節変動を作っている訳です。すなわち南半球でCO2を測るとこんなに小さい季節変動になるのです。すなわち、森林面積の違いがCO2濃度の振幅の違いを生むのです。このように比べると、森林がいかに大気中のCO2に対して大きな影響を及ぼしていたかということがイメージできると思います。

使用機材と地上の植生

ステーションや船を使って測り、平面方向でいろいろCO2のことが分かってきます。けれども、空気というのは3次元的に広がっていて、上空のほうが風も強く、物質の輸送が盛んです。CO2の地球上の循環を知るためには、地上で測っているだけでは、そのごく一部を見ているに過ぎません。循環を正確に把握するためには、上空も見なければなりませんが、上空を測るには、航空機が最も適しています。ここからはCO2の鉛直分布の話をします。国立環境研究所では、ロシアのシベリアに行って、飛行機をチャーターして毎月上空から下地上付近まで空気を観測していました。3年前ぐらい前から、残念ながらロシアには入れなくなってしまいましたが、20年前から調査をやっていたのです。

大気のサンプリングと分析

どういう風に観測をしたかというと、飛行機は上空7kmぐらいまで上がります。上空7kmはどのぐらいかというと、民間の飛行機が空を飛ぶ時は大体高度10kmぐらいあります。ここの間を挟むぐらいの間の高さをカバーしています。飛行機でぐるぐると、スパイラル飛行というのですけれど、降りてきながら、ガラスの容器に、高さ別に空気を集めて、その空気を日本の国立環境研究所に送ってもらって、その空気中のCO2を測ったり、他のメタンとかの成分を測ったり、いろいろな成分を測るということを20年ぐらい続けています。

この観測の様子を紹介すると、まず観測する飛行機に乗って、これは普通の旅行用のスーツケースなのですが、スーツケースにスポンジ入れて、スーツケースは実は軽くて丈夫で、しかも安くて、非常に良い観測ツールです。ロシア人の共同研究者がポンプを使って空気を圧縮して採取して、のちに日本に送ってくれるということを行っていました。雲の上の、こういう所の空気もちゃんと測っています。

写真上:シベリアの湿地帯、写真下:小型飛行機An-2

これはシベリアの湿地帯です。シベリアは数百kmレベルでずーっと森林がない、湿地が広がっているようなところがあります。メタンもすごく重要なので、メタンのことを知るために湿地でも観測をします。小型飛行機An-2、60年前に設計されていて、翼が布張りなのです。キャンパス地(配布したエコバックを示しながら)より厚い、昔のテント生地です。関係ない話ですけれど、僕は空気をサンプリングするために、空気を吸引するチューブを飛行前に固定するのだけど、羽の上を歩かなくてはいけない。羽の上は、ある程度の幅で金属がありますけれど、あとは布なので、金属の部分を歩いて行くわけです。自分が踏み外したら、布を破って命にかかわるということで、慎重にチューブをはって観測をします。すごく古いのですけれども、これはすごく優秀な飛行機、翼が2枚あるので同じ速度でも浮力が強いです。これが飛行場です、草地ですけれどもここで飛びます。窓から見ていて動き始めたなと思ったら浮いている。すごく遅い速度でも浮くことができる、優秀な飛行機です。ちょっと怖いけど。

シベリア上空の航空機観測

シベリアの森林を空から初めて見て、すごい違和感を感じたのですが、どんな違和感かわかりますか。日本で飛行機に乗って森林を見るではないですか、日本の森林というのは必ず斜面にしかありません。日本の平らな部分というのは、人が住んだり、人が田んぼや畑にしたり、牧草地にしたりして、日本の平地は既に人間が使い尽くしていますので、日本の森林は山や斜面にしかありません。ところがシベリアに行ったら、ずっと平らな所に森林があるのです。何処まで行っても森林。土地があるのだなと思ったし、すごい量の森林があるということを感じました。これだけ森林があれば、CO2を吸収するのは森林だから、CO2にとって影響があるのだろう、ここで観測しなければいけないと思いました。

シベリア上空のCO2

シベリアで観測した例を見てみましょう。横軸はCO2濃度、縦軸は高さです。上のパネルが1月から8月です。下パネルが8月から12月までを現しています。縦軸はゼロkmから高度7kmメートルです。上のグラフを見てください。1、2、3、4月というのは、大体この辺(上のグラフの右部分を指して)に固まります。これらの月は上空と地上付近にあまり濃度の差がないです。差が少ないけど、やや傾いています。上空より、地上付近の濃度が少し高いです。これは植物の働きで、この時期シベリアはまだ寒いので、まだ光合成が行われていません。けれども植物が生きているということは、生きているのだから、弱いながらも呼吸をしています。ということは地表面で植物が呼吸してCO2を出すので、地表面がCO2の放出源になっています。なので、上空より地表面のCO2が高いということになります。それが5月になると、シベリアにも遅い春がやってきて、芽が出てきて、いよいよ光合成が始まります。そうするとCO2が減り始めます。さらに6月になるとどんどん葉が大きくなって、光合成が強くなっていきます。面白いのは6月のここ(オレンジ色の線の下の部分を差して)を見てください。高度2km、1.5km、1km、0.5kmと下に行くにつれて、CO2の濃度が低くなります。こういう傾きを見ると、この時期この場所の地表面はCO2を吸収している吸収源だということがイメージできると思います。さらに7月8月とどんどん夏が進んでくると、光が強くなって、葉が大きくなって、8月の一番低いところは非常に低いCO2が観測されます。8月は高度7kmから0.5kmにかけて、低高度に行けば行くほど、濃度が低くなる傾きが観測されます。こうやって飛行機を使って、上空と下の差、これは鉛直分布といいますけれども、を観測すると、この時期にこの場所がCO2を放出しているのか、それとも吸収しているのかということの手がかりになります。これを地上だけで測っていたら、これは分からないのですけれども、上空も測って鉛直分布を知ることによって分かるものですので、航空機というのは非常に面白い観測手段だということができます。

シベリアでも波照間や落石岬と同じように、CO2濃度の時間変動を図示することができます。高度1km、3km、7kmと高度別に示します。地上観測の結果と同じように、夏冬夏冬と季節変動しながらだんだん濃度が上がっていきます。けれども、季節変動の幅、振幅というのは、1km、3km、7kmと上空に行くにしたがって幅が小さくなっていきます。7kmは1kmの半分ぐらいの振幅しかありません。これはどうしてかというと、季節による変動というのは、地上の植物の働きだから、地上付近は一番大きな振幅を示して、上空に行くとそのようなシグナルはだんだん小さくなっていくということが解ります。

上空におけるCO2濃度の平均的な季節変動の図で、横軸は1月から12月までの月で、縦軸はCO2の平均値からのズレを現しています。緯度別のCO2濃度を出したときと同じように、高度別のCO2の季節変動を現しています。季節振幅は1kmが一番大きくて、高度が上がるにつれてどんどん小さくなっていくということが、すごくクリアにわかると思います。
シベリアはそうやって、1年のうち低高度のCO2濃度が、夏は低く冬は高いというように変動しているけれど、1年を平均したらどうなるのだろうというグラフです。これはCO2の年平均値の鉛直分布です。1994年1995年1996年と記載されていますけれど、一年の平均値は、地上付近も上空もあまり濃度が変わらないということがわかります。年平均値が立っているというのが、何を現しているかというと、一年を平均すると、シベリアの地上は季節によってCO2を吸ったり出したりしていましたけれども、それを全部平均すると、地表面はネットゼロ、すなわちCO2を出す量と吸収する量が大体同じということを表しています。

日本との違い

同じような観測を違う場所でやるとどうなるか。日本の相模湾というところで同様の観測をしたのですけれども、シベリアと日本を見てください。全然違うでしょう。日本は一年間の平均で、上空よりも地上のほうが、明らかに濃度が高い。どうしてかというと、先程の言葉を借りると、日本は一年間を平均して、CO2の吸収よりも出す量の方が多いということがわかります。どうしてかというと、シベリアに比べると日本は圧倒的に多くの化石燃料の燃焼によるCO2の放出があるからです。ネットゼロでなければ、グラフが曲がるということも、観測の重要な所です。

写真上:シベリアヤクーツク、写真下:氷をかじる

マイナス35度のシベリアヤクーツクです。寒いどころではないのです、雪を踏むと、キュキュキュキュと音がします。写真は、ヤクーツクのレナ川という川です。すごく広い川です。対岸が遠くに見えるではないですか、対岸が遠いですねと言ったら、ヤクーツクの人は、あれは中州だと言われました。まださらに向こうがあるらしいです。氷をかじっています。氷をかじると、ガリガリとおいしいかなと思ってかじったのですが、私は噛み切れませんでした。実は氷は温度によって堅さが全然違う。冷蔵庫にあるようなマイナス4度の氷はかじれますけれども、マイナス35度の氷は歯では噛めません。何度かやってあきらめました。氷は温度によって堅さが違うことを実感しました。


民間航空機を使ったCO2の観測

最後に、民間航空機を使ったCO2の観測についてです。飛行機は、非常に面白い有益な観測手段だという話をしましたけれども、飛行機はチャーターするのにお金が掛かるのです。だけど、観測は増やすべきです。世界で航空機観測は本当に少ないのです。なので、世界の研究者がこういう観測を増やさなければいけないと思っているのだけど、増やせない。どうしたらよいかなと思って空を見上げると、空に毎日飛んでいる飛行機があるのです。そこで日本航空(JAL)と協力して3年ぐらいの時間をかけて、民間の飛行機に載せられるような安全性を確保したうえで、高い観測精度を有した装置を作りました。この新しいプロジェクトをCONTRAILといいます。国立環境研究所だけではなくて、気象研究所・日本航空・ジャムコという航空機の部品メーカ・JAL財団5者の共同でCONTRAILのプロジェクトを立ち上げました。

民間航空機

どういうように装置を積んだかというと、貨物室といって、スーツケースを預けるスペースのさらに白いシートの奥にスペースを見つけて、二つの装置を搭載することができました。


CONTRAILプロジェクト(2005年より)

どんな装置を作ったかというと、一つは自動大気サンプリング装置(ASE)となっています。自動で大気を、先ほどシベリア上空でガラスの容器に集めるという話をしましたけれども、さすがにガラスは使えないので、この中には金属の容器が12本入っています。ワンフライトで、12か所で大気を集めて持って帰るという措置です。大気を集めて持って帰るので、国環研の実験室で、CO2だけではなくて、メタンとかN2Oとかいろいろな成分を測ることができます。もう一つの装置は、CO2濃度連続測定装置(CME)といわれる装置。CO2を測れる実験室をギュッと縮めて、実験室をそのまま飛行機に載せてしまったというような装置です。飛びながらCO2を測れます、飛んでいる間ずっとCO2を測るという装置です。これを当時はボーイング747という飛行機と、ボーイング777という飛行機に載せる。飛行機を改造する必要があるのですけど、改造するのに、すごい許可が必要なのですが、プロジェクト参画機関が頑張ってくれてこれを通しました。

ボーイング777-200の後方貨物室

空気をどこから持ってきているのかということを必ず聞かれます。本当は、飛行機の横腹に穴をぽんと開けて開けた穴から空気を引っ張ってくることが一番いいのですけれど、さすがに穴は開けると安全性の証明が極めて難しくなってしまいます。何を使ったかというと、これはエアコンダクトといって、飛行機のジェットエンジンは、空気を圧縮して、圧縮して高温になった空気に燃料を混ぜてエンジンを動かすのですけれど、燃料を入れる直前で、圧縮した空気を飛行機の中に引っ張ってくるのがエアコンダクトです。エアコンダクトから空気をもらえば、ボディに穴を開けなくても、CO2連続測定装置(CME)と自動空気サンプリング装置(ASE)に空気を持ってくることができます。そのあと、何年か経って、ボーイング747が退役してしまったので、ボーイング777という飛行機の前方貨物室にCME、後方貨物室にASEを乗せて観測をずっと続けています。これは、ボーイング777の後方貨物室にあるASEです。先ほど言ったように12箇所で空気を採取することができます。サンプリングして帰ってきて降ろして分析して、また載せるので、毎日は測れません。月2回ぐらいの運用をしています。シドニー、シンガポール、パリなどいろいろな路線で観測しました。

ASEで観測された上部対流圏におけるCO2濃度の時間変動

観測の一例として、シドニーへ路線の上空10kmぐらいの、北緯25度と南緯25度付近の上空の観測値ですけれども、北半球は上空においても明瞭な季節変動がありますが、南半球は上空においても地上付近と同じように季節変動が非常に小さいということがわかります。上空においても同じようにCO2が年々上昇しているということがわかります。

定期航空機で連続観測すると・・・

CMEは航空機で飛びながらCO2を測ります。飛行機は上昇して、上空で水平飛行して、空港で下降しますけれども、ずっと測り続けているということは、上昇中と下降中にCO2の鉛直分布が測れます。先ほどのシベリアでは一ヶ月に一本のCO2鉛直分布しか測れなかったですが、これは定期便ですので、毎日鉛直分布が測れるのです。しかもJALの国際線に乗っているので、あの飛行機は毎日様々な場所に行ってくれる。ヨーロッパへ行ったり、アメリカ行ったり、オーストラリアに行ったりするので、広範囲な観測が自然とできます。詳細な変動というのは、サンプリングですと飛び飛びの観測しかできませんけれども、ずっと計り続けているので、細かい変動が観測できます。こういう風に民間航空機を使って毎日CO2を計り続けることは、世界で初めての取り組みです。5年前ぐらいからヨーロッパの研究グループが同じような観測をしていますが、日本は10年以上先んじて観測を始めています。ということは、今上空のCO2データについては我が国が世界最大のデータ保有国になっています。この大量のデータは世界のどの国の研究者にも無料で提供して、これでいろいろなCO2の研究に役立ててもらっています。近年は人工衛星を使ったCO2の観測が増えていますが、人工衛星がきちんとCO2を測れているかを確かめるために、航空機観測によって人工衛星観測の検証を行っています。

CMEの飛行経路と鉛直分布観測数

2022年時点で、10機の飛行機を利用して、CMEとASEを搭載して運用してやってまいりました。CMEはもう世界中のいろいろなところに既にこういう航路で飛んでいて、ここに書いてある数字は、例えばホノルル空港上空では鉛直分布は既に2,000以上取られている。シドニー上空でも1,500以上取られている。一番すごいのは成田上空では9,500以上の鉛直分布が取られています。

CO2濃度の鉛直分布の季節変化(成田上空)

沢山のデータを取ると何がわかるかというと、一回一回の観測というのは誤差が少しあるのですが、何回も何回も観測すると、誤差がだんだん平均化されてきて、その場所の本当の真の姿、平均的な姿が見えてきます。これは何千個もの成田上空の鉛直分布を使って、1月から12月までの高さ方向のCO2の鉛直分布、それでわかる季節変化を知ることができました。夏に低くて冬に高いというのは、前に言いましたけれども、夏は上下方向に混合しやすいというのが解ると思います。どうしてかというと、夏は地正面が暖かくなるので、上昇気流が起きやすく、地表と上空の空気が混ざりやすくなります。夏の低い濃度というのは、上空の空気と混ざりやすくなっていることがよくわかります。ところが夏が終わって今度は、CO2が増え始めると、秋、冬、春というのは地正面が寒いので、上下方向には混ざりやすくありません。高い濃度というのは上の方に行かずに低高度にだんだん溜まっていくように見えることがわかります。夏と冬で鉛直方向の濃度差が全然違うということがわかります。成田なので、地上付近というのは、人間が車を運転したり、いろいろなCO2を人為的に出したりしています。1年を通してCO2がずっと高いのが見てわかります。光合成、呼吸、人為放出での変動というのを一枚で分かる資料を作ることが非常に重要です。この図は成田ですけれども、飛行機は世界中いろいろなところにいきますので、同じようなグラフが様々な場所でも描けるのです。

世界の空港上空で・・・

仁川、羽田、成田、上海、福岡、名古屋、デリー、香港、台北、バンコク、シンガポール、ジャカルタ。シンガポール、ジャカルタのように赤道の近くに行くと、CO2の上下方向の濃度差が少ないということが一目で分かります。

インドが面白いのです。この図はさきほどの成田と、インドデリー上空ですが、インドも夏は低くて、秋から増えています。春は高いことがわかります。だけど1月から3月にも濃度の濃い部分があるはずなのですが、なぜか1月~3月にぽっかりと穴が空いているのです。なぜ穴が空いているのかというと、実はよく調べるとこれは農業だったのです。インドのデリー付近は二期作です。夏は米を作って、冬は小麦を作ります。1月~3月は冬小麦のちょうど成長期。小麦が生長するときに、CO2をすごい勢いでがんがん吸うので、同じ緯度帯の森林等の陸上生態系が出したCO2を打ち消すぐらいCO2を吸っていたということがわかりました。この観測をするまで、CO2は自然の森林が季節変動を起こすのだと思い込んでいました。人間が蒔いた小麦が、航空機の観測にこんなにクリアに現れるほどにCO2を吸っていたというのは、結構衝撃で、人間の農業活動もCO2の吸収に無視できない働きを持っているということをクリアにしてきた観測結果であります。

平均的な季節変動 季節振幅の経度分布

世界中で高さ別にCO2の季節変動が違うというのを表わしました。CO2の振幅をいろいろなところで比べてみようという図を作りました。次の図は、CO2季節振幅の緯度方向の分布です。3つのカラーが、コントレイルの高度2km、4km、10kmで測った振幅。黒は船舶ですので、地上付近で測ったCO2濃度の振幅を表しています。先ほど説明しましたけれども、船でCO2を測ると北半球の中高緯度で大きくて、緯度が低くなるとだんだん振幅が小さくなって、南半球は振幅が非常に小さいという話をしました。赤い点は地上だから黒と赤は非常に近い位置にプロットされている。北半球で地上と上空を比べると、上空に行くほど振幅が小さくなっていく。上空2km、4km、10kmと上空へ行けば行くほど振幅が小さいというのが、先ほど示した通りです。しかしながら南半球の季節振幅は地上と航空機が逆転をする。どういうことかというと、黒で表した地上は一番振幅が小さい。青であらわした高度10kmの振幅が大きい。植物がCO2を吸収・放出するのは地上のはず。高度10kmの変動を動かすことができるものが何か、ということが疑問になる。これを解決したのもCONTRAILです。

CO2濃度の南北断面を作る CMEデータを使ったCO2の南北断面

CONTRAIL のCME、このあたりは観測結果が沢山あるので、北半球から南半球までの断面をバッサリ切るとCO2はどうなっているかというグラフの図です。横軸が緯度で、右側が北半球、左側が南半球、縦軸は高さを表しています。上の図は3月なので、北半球はCO2濃度が高く、南半球は低いコントラストが明瞭に確認できます。濃度差がはっきり見えるのは、赤道上は大気の交換を妨げるバリアがあるからです。赤道付近は空気が暖まりやすいので、上昇気流が発生します。上昇気流が起きると、そこはエアーカーテンがあるのと同じで空気が混ざりにくいのです。南半球と北半球の空気がどう混ざるかというのは、理論的にはわかっていたのですけれども、なかなか観測では出てきませんでした。

4月になると、北半球の濃いCO2が赤道の上空を通って南半球に漏れ始めます。CO2は目に見えませんけれども、こうやって色を付けてあげると空気の動きが見えてくる。4月からもう一ヶ月経って5月になると、CO2がさらに南半球の中緯度付近にまで入ってくるようになって、6月になると、南半球の上空から下の方にじわじわと広がってくるという現象が見えるようになります。このことから、南半球は地上付近よりも上空の方が北半球の影響を受けやすいことがわかります。この影響の受けやすさが南半球の上空の季節変動の振幅の大きい理由です。

実は、CONTRAIL観測はずっとやってきたのですけれども、観測に使っていたボーイング777型機の退役が進んで、今は1機しかありません。将来は次世代航空機である787型機に装置を搭載するための機体改修を進めています。上手く行けば今年度中に、787の第一号機が飛びます。もし報道発表を見たら、講義を受けたことを思い出してください。

次世代プロジェクト 一目でわかる観測情報

あともうひとつ、先ほど5年前からヨーロッパも同じようなことをやっているという話をしました。2018年にやっと始めました。今までは日本しか観測をやっていなかったので、ライバル誕生のように感じるかも知れませんが、CONTRAIL観測は日本から飛ぶと、日本を中心に東西南北にしか飛べない。世界中を飛んでいるように見えるけれども、アフリカに飛べない、南アメリカに飛べない、大西洋を飛べない。ヨーロッパが同じようなことを始めると、ヨーロッパを中心に東西南北に飛ぶことができて、日本のCONTRAILとヨーロッパの観測を併せれば、世界を一回りするような観測網を構築することができます。これによって世界のCO2の循環の研究が進むと思われます。ライバルではありますが、やはり国際協調が重要です。パートナーです。国際協調の中でも、わが国というのはアジア・太平洋域の観測は、日本が果たすべき国際貢献であると思いますので、今後も日本として、CONTRAILを守っていきたいというように思っております。

CONTRAILの情報は「CONTRAIL NIES」と検索すれば出てきますので、興味のある人は見てください。その中では、先ほど見た平均的な季節変動などを一目でわかる観測情報として掲載していますので、みなさんのような学生さんが見て分かりやすいように記載しているので、もし興味があったら検索してください。

では、まとめます。温室効果ガスの「おかげで」地球は快適な温度に保たれている。CO2濃度は産業革命以降に増加し、依然として増え続けている。CO2濃度は自然的吸収や放出の影響を強く受けている。航空機観測は日本が牽引しているが、協調の時代に入った。最後に、
Please consider using JAL for your next travel from/to Japan. (日本発着のご旅行にはJALをご利用ください。)多くの方にJALに乗ってもらえば観測も続けられるので、どちらでも良いというときには、JALを選んでくれると僕は嬉しいです。

なにか質問がありましたら是非お願いします。

【CONTRAILの観測域についての質問】

CONTRAIL観測は世界のいろいろなところを飛んでいるが、今のところこのように空白になっているのは(ネットゼロ)インドだけです。今のところ10年ぐらいインドの観測がなくて、これから787での観測が始まればもう一度インドの観測ができるので確認したいと思っています。シンガポールとかジャカルタとか、北半球の地域と違うことが面白いし、薄いですけれども季節変動があることが面白いので、これからも観測したいと考えています。

また何か質問があれば、メールでお送りいただければと思います。
以上で今日の講演会を終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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