RESULT2020年8月号 Vol. 31 No. 5(通巻356号)

最近の研究成果 気候変動の影響評価における適切なバイアス補正手法の選択の重要性

  • 石崎紀子 (気候変動適応センター 気候変動影響評価研究室 研究員)
  • 塩竈秀夫 (地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長)
  • 花崎直太 (気候変動適応センター 気候変動影響評価研究室長)
  • 高橋潔 (社会環境システム研究センター 副センター長)

気候変動が健康や生態系に与える影響を評価するために、気候モデル(GCM)による気候予測情報が用いられる。その際、GCMの系統的な誤差(過去再現実験に見られる観測値との差で、バイアスと呼ばれる)を取り除くバイアス補正が必須である。バイアス補正には様々な手法があるが、手法による結果の差や、各手法の妥当性についてはあまり議論されてこなかった。

我々は日本全域を対象に適用されている2種類のバイアス補正手法(CDFDM法とGSA法)による過去再現性と将来変化予測を評価するため、4つのGCM(MIROC5、MRI-CGCM3、HadGEM2-ES、GFDL-CM3)にそれぞれバイアス補正を施した気候予測データを用いて、気温と降水量の日別値に関する指標の比較を行った。

CDFDM法は1年を前半と後半に分けた39年分の日データを使って、観測値とモデルの現在再現実験の結果をそれぞれ降順に並び替え、月や日によらず順位ごとに補正量を決定する手法であるのに対し、GSA法は平均値と標準偏差の変化に着目したもので、各日における20年分のデータが正規分布に従うと仮定し、基準期間からの偏差に観測とモデルの標準偏差の比を乗じたものを観測値に加算する方法である。

夏日日数(日最高気温が25度以上の日数)など気温に関する指標についてはどちらの手法でもバイアスが概ね除去された。RCP8.5シナリオ下での東日本太平洋側における近未来の夏日日数はCDFDM法で91日から113日であるのに対し、GSA法では82日から109日であるなど、将来変化予測における補正手法による違いは相対的に小さい。

一方、平均降水強度(年間降水量を日降水量が1 mm以上の日数で除した値)など日降水量に関連した指標については、将来予測値が補正手法間で大きく異なった(図1。例えば、RCP8.5シナリオ下での西日本日本海側(図1のWJ)における近未来の平均降水強度はCDFDM法では16.0–16.3 mm/dayであるのに対し、GSA法では12.2–14.8 mm/dayであった(図1中段の赤色と青色のエラーバー

補正手法間で予測値が大きく異なるのは、日降水量の推定に正規分布を当てはめたGSA法でバイアス除去が十分でないことが関係している。気候予測情報のバイアスを除去して的確な影響評価と適応策検討につなげるためには、適切なバイアス補正手法を選択、または開発することが重要である。

図1 年間総降水量を1 mm以上の降水量があった降水日数で除した値を7つのサブエリア(NJ:北日本日本海側、NP:北日本太平洋側、EJ:東日本日本海側、EP:東日本太平洋側、WJ:西日本日本海側、WP:西日本太平洋側、SI:南西諸島)ごとに示したもの。上段は過去再現期間であり、灰色のボックスは元のGCMのばらつき、赤色と青色のボックスはそれぞれCDFDM法ならびにGSA法という異なる手法でバイアス補正された後のデータの4GCMのばらつきを示す。中段は近未来、下段は21世紀末の予測結果であり、ボックスはRCP2.6排出シナリオ、エラーバーはRCP8.5排出シナリオでの4GCMのばらつきを示している。参考値として1981年から2005年の観測の平均値を×印で示す。