REPORT2020年7月号 Vol. 31 No. 4(通巻355号)

地球と共に生き続けるために

  • 地球環境研究センター 交流推進係

4月19日(日)気候変動による自然災害への対策を考えるシンポジウム実行委員会*1の主催により標記シンポジウムが行われました。

気候変動によって、かつてない規模の災害が世界中で引き起こされています。それにより人間を含む多くの命が奪われ、未来に大きな影を落としています。本シンポジウムは、気候変動のメカニズムや、自然災害との関連性について理解を深め、具体的な予防・対処法を提示することで、一人ひとりのアクションへと繋げることを目指すため開催されました。ただ、新型コロナウィルス(以下、コロナ)感染拡大の影響で、当初予定していた会場での開催からYouTubeを通じたオンラインイベントとなりました。

シンポジウムは基調プレゼン、講演、スピーカーたちのディスカッションの順に進められ、地球環境研究センターの江守正多副センター長が3人の講演者の一人として講演しました。シンポジウムの概要を報告いたします。

1. 基調プレゼンPart1:バレラシッド愛凛七(ありな)HAPPY EARTH代表/環境活動家)

現在11歳。父はイギリス人、母は日本人のハーフ。
子どもたちと一緒に環境を学ぶフリースクール HAPPY EARTHを2018年に立ち上げる。
2018年世界青少年「志」プレゼンテーション大会で環境のスピーチ(日本語)をして、12人のファイナリストに選抜。プレゼン動画はこちらから。https://youtu.be/TWE_T7h-cFs
2019年世界青少年「志」プレゼンテーション大会で環境スピーチ(英語)をして、最優秀賞を受賞、小泉進次郎環境大臣より環境大臣賞を受賞。プレゼン動画はこちらから。https://youtu.be/g9f9FNJ4i4k

愛凛七さんが力を入れて取り組んでいるのは、畑で野菜を育てること(写真参照。固定種(一番よくできた野菜を選んで種を採り育てていくことを何代も繰り返して品種改良したもの)や在来種(ある地域に古くから存在する生物種)を使用し、無農薬で化学肥料をつかわずに栽培しているので土や水、空気がきれいになり、地球のためにもなると思われること。こうした育て方をして収穫した野菜を食べると健康にもいいことや、食糧危機になっても畑があれば食べていくことができると話しました。

地球のために何かできることはないだろうかと考えるきっかけを作ってくれたのが、2018年に参加した世界青少年「志」プレゼンテーション大会(発表内容はプロフィールを参照)だそうです。

大会後、地球をハッピーにしたいという思いで、子どもたちと一緒に環境を学ぶフリースクールHAPPY EARTH(https://www.facebook.com/happyearth369/)を立ち上げました。HAPPY EARTHでは、環境についてのスピーチや記事の投稿、ビーチクリーニングの開催、子どもたちと一緒に自然界のことを学ぶイベントを企画しています。愛凛七さんからは「地球への子どもたちの思いを集めています。ぜひ、arinavarella@gmail.comかHAPPY EARTHのFacebookアカウントにメッセージをください」とのことです。

2. 基調プレゼンPart2:宮崎紗矢香(さやか)Fridays For Future Tokyoオーガナイザー)

1997年生まれ。立教大学社会学部卒。大学1年のときにボランティア「子ども食堂」に出会い、SDGs(持続可能な開発目標)を知り、大学3年の春休みにSDGs国際ランキング1位(2016〜18年)のスウェーデン視察ツアーに参加。その後、就職活動で日本のSDGsウォッシュ(目標に配慮しているかのように見せかける)に苛まれていたとき、グレタ・トゥーンベリさんを知り、Fridays For Future Tokyoの一員になる。2019年9月26日にはNHK「クローズアップ現代+」に出演(https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/166/index.html
現在は、株式会社大川印刷に勤務。

この4月から社会人になった紗矢香さんは、これまでの活動を紹介してくれました。

現在コロナによる緊急事態宣言が出ていますが、気候変動については気候非常事態宣言*2があり、海外では多くの自治体が宣言をしています。日本では2019年9月に初めて長崎県壱岐市が宣言を発表しましたが、宣言を出している自治体は、まだまだ多いとはいえません。

就職活動中にグレタ・トゥーンベリさんの活動を知った紗矢香さんはFridays For Future Tokyoの一員になり、2019年9月の気候マーチに参加したそうです。また、気候変動の対策にはパラダイムシフト(社会の規範や価値観が革命的、劇的に変わること)が不可欠という考えの下、東京都にも気候非常事態宣言をしてほしいと思い、署名を集めて都議会に請願書(https://drive.google.com/file/d/1JIkBmwX0NjmXQ8SFlF6VrX-0Eb6AwO1f/view)を提出しました。継続審議という結果になりましたが、今のコロナ禍でパラダイムシフトが現実的になってきているのは皮肉なことだと話しました。

このように活動的な紗矢香さんですが、長年かわいがっていた愛猫の死によって自分のことだけで精いっぱいの時期もあったとのこと(https://webronza.asahi.com/science/articles/2020031000007.html。それを乗り越えてきた経験から、気候変動についてもできることから一つひとつ壁を打ち破っていきたいと力強く語ってくれました。

3. 講演1「気候変動への地球規模の対応」江守正多(気候変動科学の専門家(国立環境研究所))

1970年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術
1997年より国立環境研究所に勤務。2018年より地球環境研究センター副センター長。
専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次・第6次評価報告書主執筆者。

パリ協定では地球の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2°Cより十分低く、できれば1.5°C未満を目指すことになっています。江守さんは、1.5°Cを目指すなら2050年に世界の温室効果ガス排出量をゼロにする必要があると述べました。現在世界中が対応に追われているコロナの影響で経済活動が停滞しても年間通してみれば排出量は数%しか減らないかもしれません。がまんして頑張ってもゼロにはならないのです。ゼロにするためには、社会の大転換が起こる必要があると語りました。

コロナと気候変動対策について興味深い解説がありました。コロナの場合、人との接触を避ける(外出自粛)など個人の行動変容がカギになります。気候変動の場合、温室効果ガスの排出量を個人が削減(省エネ)することは重要ですが、残念ながらそれだけでは全体の排出はゼロにはならないので、コロナにおける個人の行動変容ほどには大事ではありません。

また、コロナの場合、社会全体にかかわる対応、すなわち、ワクチンや治療薬の開発・普及により、最終的には終息するでしょう。同様に、気候変動の場合、エネルギーシステムなど、社会の脱炭素化が最終的に求められます。そして、個人の行動としても脱炭素化を進める企業、政治、自治体を応援するというほうが、個人としての積極的な行動なのではないかと解説しました。

4. 講演2「気候変動への生活レベルでの対応」竹内孝功(あつのり)(自然菜園コンサルタント/採種農家)

1977年生まれ。自然菜園コンサルタント 採種農家。菜園教室「自然菜園スクール」などを開催。著書に『これならできる!自然菜園』農文協自然菜園流コンパニオンプランツ 野菜の植え合わせベストプラン』学研パブリッシング)など多数。
WEBサイト「自然菜園スクール」http://www.shizensaien.net

自然菜園(自然な家庭菜園、自然な地球菜園の略)を提唱している竹内さんからは、自然菜園によって2つのオアシスが得られるという紹介がありました。

一つ目は、野菜や生き物にとってのオアシス。野菜を栽培するとき、相性のいい組み合わせで植えるといいとのことです。たとえばレタスを植えてからキャベツを植えると、レタスはモンシロチョウの非寄主植物なのでモンシロチョウが寄ってこないため、キャベツがよく育ちます。また、竹内さんの畑は耕すことをしないで、刈った草を敷いているため土がふかふかの状態になっており、そこにミミズが来たりして、生き物にとってのオアシスになっているのだそうです。

二つ目は心のオアシス。これは自分が食べるものがあるという安心感だそうです。また、一人で畑仕事に没頭していると不安を忘れられるので、心が癒されると竹内さんは述べました。

さらに、こうした家庭菜園があれば、今後コロナの影響で各国が食料の輸出を禁止しても食糧難になりにくいというメリットがあると語りました。食料自給につながるだけではなく、地球温暖化をもたらすCO2を削減していい空気に変えられるのは植物だけだし、高温や長雨などの気候の変化に適応しているタネや野菜もあるそうです。なにより植物のおかげで地球も人間も生きていけるのだと竹内さんは強調しました。

5. 講演3「気候変動への対応を考える」矢野智徳(大地の再生第一人者)

大地の再生第一人者 Pioneer of the Daichi-Saisei 一般社団法人大地の再生 結の杜づくり顧問 合同会社杜の学校代表社員。
1956年福岡県北九州市生まれ。東京都立大学において理学部地理学科・自然地理を専攻。1984年、矢野園芸を始める。1995年の阪神淡路大震災によって被害を受けた庭園の樹勢回復作業を行う中で、大量の瓦礫がゴミにされるのを見て、環境改善施工の新たな手法に取り組む。1999年、元日本地理学会会長中村和郎教授をはじめ理解者と共に、環境NPO杜の会を設立。現代土木建築工法の裏に潜む環境問題にメスを入れ、その改善予防を提案。在住する山梨県を中心に、足元の住環境から奥山の自然環境の改善までを、作業を通して学ぶ「大地の再生」講座を開催。

人の手で開発される前の自然は、山は緑、渓流は海に流れていて、空気と水の循環が滞りなく行われています。開発された環境では、道路ができて川があったところに小さな砂防ダムが造られ、海岸沿いに住宅や工場ができ、さらに生活を守るために大きなダムが建設されます。ダムから海まで直線的な水路によって加速度のついた水が流れ、途中の土砂が押し流されやすくなり、海は泥水で汚れています(左図

ここから大地の再生の出番です。元に戻して循環させたいと思っても現実的には不可能なので、山から海までつながっている水脈に穴をあけたり横に溝を掘ったりしながら等速的なやさしい流れの機能を丁寧に海まで水脈をつないでいくという作業をして環境改善している(右図)とのことです。

地球は大気、海流、自然が最終的には循環していて、いろいろな生物が生きられる惑星だったのに、人が手を入れて開発して、泥水の流域汚染が日本のあちこちで起こるようになってしまったと矢野さんは話しました。この流域汚染は何からもたらされているかというと、地上と地下の空気と水の循環が円滑に自然の状態で循環しないような環境から生まれてきていると言います。

私たちは空気や水の循環をよくするという意識をもって普段の生活を見直すこと、毎日の小さな改善が大事だと矢野さんは述べました。

6. スピーカーディスカッション

講演後、シンポジウムの共催団体の一つであるパーマカルチャーセンタージャパン代表の設楽(しだら)清和氏がモデレーターとなり、5人のスピーカーとのディスカッションが行われました。

まず、モデレーターの設楽さんから「気候変動問題に対応するために一人ひとりが考えて行動に移していく必要がある」と話がありました。愛凛七さんは、野菜を育てることで土や水、空気がきれいになることを学んだと述べました。これについて竹内さんは、土は作るものではなく育てるものという考えが素晴らしいと話し、江守さんからは、野菜の栽培によるCO2削減量はそれほど多くないにせよ、個人の取り組みが社会へのメッセージになるので発信していることに意味があり、大きな変化につなげていけると期待する意見が出ました。

次に、自分の言葉でメッセージを伝えることについて設楽さんが紗矢香さんに尋ねると、生活のいたるところで感じたことを言葉にすることが大事だとのことでした。矢野さんからは、産業革命以降、大量生産、大量消費の地球になってしまったのは、自然より人優先の環境、社会を作ったから。自然の生態系の機能によって自分たちの生活が成り立つことをもう一度見直す必要がある」というメッセージがありました。

そして、設楽さんが、私たちが取り組むべきことを江守さんに聞いたところ、地球環境問題について本質的な関心をもつ人を増やすためにコミュニケーションを進めていくことが重要」ということでした。ディスカッションを終え、設楽さんは、誰もが関心をもたなければならない状況になっていると思う。スピーカーと話をするうちに学ぶことが多いことに気づいた」と結びました。

7. 質疑応答

最後にYouTubeを通じたシンポジウム視聴者の質問のなかから、CO2排出対策として何をするべきか、または自分は何をしていきたいかということに関するメッセージを、一人ずついただきました。

愛凛七「野菜を育て、自然に触れることで学ぶことが多い。地球を守るために身の回りで感じて行動してほしい」

紗矢香「学生時代『子ども食堂』でボランティアをしたときの経験から、環境よりその日の食事の方が大切な人がいることを痛感。自分自身が満たされていないと想像力をもてない」

江守「問題意識をもっている人の議論だけでは社会を変えていくことはできない。地球環境について本質的に関心をもっていない人に対してどんなコミュニケーションをとっていくか、戦略を考える必要がある」

竹内「畑を所有している人は種をまいて野菜を育てる。畑をもっていない人は、購入する野菜ができるまでにどれくらいCO2を使っているか考えるような消費行動をとってほしい」

矢野「コロナは世界経済を変えていく。次に課題となるのは食料。自給率の低い日本にとっては大きな問題。里山、山林を守るため、流域住民で協力して取り組むことが重要」

設楽「すべての人間、すべての生き物には総体(自然、世界、宇宙)の中で与えられた価値がある。一人ひとりが自分の価値に気づき世界とかかわっていくことができるといい」