2019年12月号 [Vol.30 No.9] 通巻第348号 201912_348001

永久凍土と地球温暖化北海道大雪山調査レポート

  • 国立環境研究所 地球環境研究センター 横畠徳太
  • 国立環境研究所 環境計測研究センター 内田昌男
  • 国立環境研究所 地球環境研究センター 佐藤雄亮
  • 海洋研究開発機構 斉藤和之
  • アラスカ大学フェアバンクス校・北海道大学 岩花剛

緯度や標高の高い寒冷な地域で、地面の下で年間を通して0°Cを下回る領域がある場所を「永久凍土」と呼びます。冬季には0°C以下になり地表層が凍結するものの、夏季にはその凍結部分がすべて融解するような場所が「季節凍土」です。長い時間スケールで見ると、地球は、気候が寒冷な「氷期」と、より温暖な気候の「間氷期」を、10万年程度の間隔で繰り返しています。現在は「間氷期」にあり、直近の氷期で最も寒冷だったのが2万年前頃(最終氷期)になります。概して、過去2万年間は現在よりも気候が寒冷であったために、現在の永久凍土は、少なくとも2万年程度は凍結し続けていると考えられます。土が凍結すると、永久凍土帯では有機物(植物の死骸など)が分解されないまま残ります。地球温暖化により永久凍土の融解が進むと、凍土中の有機物が分解されて、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが大気中に放出されるため、さらに温暖化が加速することが懸念されています[1, 2]

私たちはこれまで、永久凍土の融解が気候変動に及ぼす影響を調べるため、アラスカやシベリアでの現地観測と、数値モデルを用いた将来予測に関する研究を行ってきました[1–6]。これまでに得られた研究知見と技術を生かし、2018年から開始された国立環境研究所の気候変動適応研究プログラムの研究課題[7]では、日本の凍土に関する研究を進めています。日本は永久凍土分布の南限近くに位置し、緯度と標高の高い北海道の大雪山や富士山などに、永久凍土が存在することが知られています[8–11]。また、日本の3分の2以上の地域に季節凍土が存在します。日本の永久凍土や季節凍土の現状を把握し、将来の気候変動が及ぼす影響の予測を行い、対応策のための情報を得ることが、この研究課題の目標です。

1. 永久凍土はどこにあるか

気候変動適応研究プログラムの研究課題[7]では、北海道大学とアラスカ大学の研究チームが2005年から継続している北海道・大雪山系における永久凍土モニタリングサイトにおける観測活動[12]と共同調査を行いました。大雪山は一つの山ではなく、北海道の中央部に位置する、2000m級の火山群からなる巨大な山岳地帯です。十勝岳までを含めた大雪山国立公園は、南北63km、東西59km、神奈川県ほどの面積があります。大雪山全域に季節凍土が存在し、特に寒さの厳しい場所に、永久凍土が存在します。永久凍土が存在するのは、気温が低く、強風のため雪が積もりにくく、灌木類があまり生えていない場所です。雪や植物は、地面を空気の冷たさから遮断する役割を持つため、地表を覆うものがない場所のほうが、地中の温度が下がりやすくなるためです。写真1, 2は永久凍土の存在が確認されている五色岳の風景です。標高が2200mあり、冬の西風(偏西風)を遮るものがなく、冬に強烈な風が吹き、雪が積もりにくくなっています。風の強さのために、背の低いハイマツやコケ類の植物が、ところどころにあるだけで、それ以外の場所は地面がむき出しになっています。大雪山では、このように標高が高く、強烈な風が吹く場所(風衝地)で、永久凍土が確認されています(写真3, 4)。

写真1 五色岳の永久凍土観測サイト周辺。冬季に強い風が吹き、地表植生が定着しにくい場所に、永久凍土が存在する。中央の奥に見えるのは白雲岳。太陽の周りに虹、ハロ(日暈)が見えていた。2019年9月6日撮影

写真2 白雲岳から黒岳を望む。この一帯にも山岳永久凍土が分布する。2019年9月6日撮影

写真3 白雲岳の火口にある永久凍土観測サイト。2019年9月6日撮影

写真4 白雲岳火口の地表面の様子。凍結と融解、冠水と乾燥を繰り返して、地表がでこぼこしている。2019年9月6日撮影

2. 凍土の不思議な地形

永久凍土では、地下の永久凍土層では年間を通して温度が0°Cを下回りますが、地表層は、夏には0°Cを上回り、その部分の凍土は融解します。永久凍土層より上部で、夏季に融解している地表層を「活動層」と呼びます。また、季節凍土では、冬にのみ地表層が凍結し、それがすべて夏に融解します。このように、凍土が形成される場所では、冬に凍結し、夏に融解する、という周期的な変化が繰り返されます。地面の中で土が凍結する際には、霜柱のように土が持ち上げられる(凍上現象)ために、冬には地面が隆起し、夏には沈降することになります。そのような土地の凍結と融解の作用によってできたと考えられる地形が、「淘汰構造土」です。写真5にあるように、数m程度の網目状に、石が並べられたように見えます。これは、凍結融解による地表層の凍上と融解沈下が不均一に起こることによって、比較的サイズの大きな石が、ネットワーク状に集まったものだと考えられています。古代遺跡のように、人間が石を並べて作ったのかと思えるほど、きれいに並んでいます。

写真5 大雪山赤岳中腹に見られる淘汰構造土。凍結による地面の隆起(凍上)と融解沈下を繰り返すことで、網目状に大きめの石が集められて模様ができている。2019年9月6日撮影

3. 地球温暖化による凍土の変化がもたらす影響

このように、地面の凍結と融解と関係して、凍土はゆるやかに動いています。気候変動によって永久凍土の融解が起これば、徐々に地面が沈降していくかもしれません。また、季節凍土においても、気候変動に伴い、地面の凍結量が減少することになるかもしれません。このような変化は、現在の地表層付近の物理的なバランスを少しずつ変え、自然生態系に様々な影響を与える可能性があります。物理的な変化としては、凍土の融解が進むことによって地盤の強度が弱まり、斜面崩壊や地盤沈降などを引き起こすかもしれません。また、このような土の力学的な状態変化や、地表層の水分状態の変化によって、植生の変化が起こるかもしれません。例えば、凍結した土には水がしみこみにくいため、永久凍土域において夏季に融解する活動層では、水分が保たれやすくなり、夏に花が咲く高山植物が育ちやすくなるところがあります。凍土状態の変化によって様々なバランスが変わることで、自然生態系に、いろいろな変化が生じる可能性があります(写真6)。

写真6 地球温暖化に伴う凍結融解の変化が、地形や生態系に変化をもたらす可能性がある。2019年9月6日撮影

4. 研究プロジェクトでは

このように私たちは、凍土がどのように変化しつつあるのかをモニタリングし、将来の気候変動による、凍土の変化がおよぼす影響についての研究を進めています。永久凍土や季節凍土の現状をより正確に把握するために、北海道大雪山における現地観測と同時に、人工衛星データを用いた分析を行っています。近年の技術開発によって、人工衛星データを利用することで、非常にゆっくりとした地形の変化を把握することができるようになりました。例えばアラスカで森林火災が起こった跡地では、より永久凍土が融解しやすくなり、年間で最大30cmほどの沈降が起こっていることが分かりました[13]。そして、人工衛星で得られたデータを現場で検証するために、大雪山の山岳永久凍土域などにおいて、GPSを用いた測量などを行っています。こうして人工衛星と現場データを合わせて利用することで、季節/永久凍土域における、地球温暖化に伴うゆっくりとした地表面の変化を捉えることができます。さらに、数値モデルを用いて、将来の気候変動による永久凍土分布の変化などについて予測を行います。観測データと数値モデルの結果を併せて利用することにより、地形変化の原因や、将来起こりえる影響について分析を行います。このような分析をすることで、登山道の整備など、山岳地帯における国立公園の管理などのために必要な情報を提供することを目指しています。

数多くの山々が連なる大雪山は、車でアクセスすることができず、登山道を上って重い観測機材などを運ぶ必要があります(写真7)。さらに、険しい地形と厳しい気候のために、網羅的な観測を行うことが難しく、永久凍土の全体的な振る舞いなどを調べるのは至難の業です。地面の中のことを調べるためには、現場でデータをとることが不可欠です。一方で、ゆっくりとした地面の動きや地中の変化をとらえるには、長期間にわたり観測を継続させる必要があります。人工衛星を用いた地表面変化の測定技術や、数値モデルの結果も利用しながら、現場での観測を継続し、自然生態系における凍土の役割や、凍土の変化が及ぼす影響についての研究を進めていきます。

写真7 大雪山、白雲岳と五色岳付近の景観。車道がないため、永久凍土の観測は至難の業である。2019年9月6日撮影

脚注

  1. 永久凍土は地球温暖化で解けているのか? アラスカ調査レポート, 地球環境研究センターニュース2017年10月号
  2. 永久凍土は地球温暖化で解けているのか? アラスカ調査レポート(現地調査編), 地球環境研究センターニュース2018年11月号
  3. 環境省環境研究総合推進費「永久凍土大規模融解による温室効果ガス放出量の現状評価と将来予測」, http://www.jamstec.go.jp/iccp/j/pfch4/
  4. 環境省環境研究総合推進費「温暖化予測に関わる北極域土壌圏の炭素収支の時空間変動(2013-2015)」, https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h27/2-1304.html
  5. 環境省環境研究総合推進費「北極高緯度土壌圏における近未来温暖化影響予測の高精度化に向けた観測及びモデル開発研究(2010-2012)」, https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h24/A-1003.html
  6. 環境研究総合推進費の研究紹介 [10] 北極アラスカと温暖化, 地球環境研究センターニュース2012年6月号
  7. 国立環境研究所気候変動適応研究プログラム, 山岳凍土動態変化の長期的監視と気候変動による土地脆弱性評価, http://ccca.nies.go.jp/ja/program/pj1-7.html
  8. Iwahana et al., Ninth International Conference on Permafrost, Fairbanks, 809–814 (2008).
  9. Sone, Permafrost and Periglacial Processes, 3, 235–240 (1992).
  10. Ishikawa et al., Permafrost and Periglacial Processes, 11, 2, 109–123 (2000).
  11. Fukuda and Sone, Geografiska Annaler Series a–Physical Geography, 74, 2–3, 159–167 (1992)
  12. 岩花剛・澤田結基・片村文崇・石川守・曽根敏雄, 2011:大雪山系における永久凍土観測 —2005〜2010年—. 北海道の雪氷, 30, 147–150.
  13. Iwahana et al., J. Geophys. Res.: Earth Surface, 121(9), 1697–1715 (2016)

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