CGER-I163-2023_計算で挑む環境研究
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 ただし、生態系モデルの「開発」に関する分野は、少し事情が違っています。生態系は極度に複雑なため、その一部を中途半端に複雑なまま取り出すと、生物や環境の間のバランスが崩れ、かえって精度が悪くなる場合があります。つまり、生態系のどの要素やプロセスに注目するか、全体のバランスをどうやって維持するか、そして計算のためにどう簡略化するかというモデル作りのセンスのようなものが問われます。 近年のビッグデータや人工知能の手法を用いれば、ある程度はモデル開発を自動化できるようになるでしょう。しかし、生態系に関する深い理解なくしては、この先も、本当に信頼できるモデルを作ることはできないと思います。そのような理解は、論文や本を読み、パソコンに向かい合っているだけで得られるものではありません。実際に野外に出て、観測を行っている研究者と議論を行うことは他では得がたいアイデアを与えてくれます。 できたモデルが、果たして本当に「良い」ものかどうか、簡単には判断することができないのも悩ましいところです。生態系が変化していく時間スケールは短くても数年、長いと数百年を要するため、モデルの計算結果と比較して検証するための実測データはどうしても不足しがちです。また、多数ある生態系の性質のうち、あるものは上手く再現できるけれど、別のものは大きく外してしまう、ということもよくあります。 近年は、地上での観測(フラックスなど)や衛星観測によって、数年程度の比較的短い期間に起こる現象については多くの情報が得られるようになりました。まずは、このようなデータと比較することで、生態系モデルの推定精度を確認しています(図3)。そのような作業を通じてモデルの長所短所を知り、目的に応じて使い分けているのが現状です。 進みゆく温暖化を考えると時間的な余裕はありませんが、モデルの完成は長い道のりであることもまた事実です。※地球環境研究センターニュース2018年10月号掲載

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